マストロベラルディーノ:フィアノ ディ アヴェッリーノ ヴィーニャドーラ 1987 | 古きイタリアワインの魅力を読み解く

古きイタリアワインの魅力を読み解く

イタリアンワインガイド ガンベロ・ロッソ 1988-1989
イタリアワイン界に多大な影響を与えるガンベロ・ロッソ Gambero Rossoですが、この初期(1988や1989当時)のレアなイタリアワインと古酒の数々を、掘り下げて解説します。

Vini d'Italia 1989 Gambero Rosso Vol.53

Mastroberardino-Fiano di Avellino Vignadora 1987

 

Campania初登場。赤では無く、白ワインが最初にTreBicchieriを獲得しました。残念ながら現在は造られていませんが、これには有名なMastroberardinoの後継ぎ分家騒動が絡んでいます。未だに多くの質問を受けるこの話、お書きします。

 

1993年、Mastroberardino家の後継ぎ、AntonioとWalter兄弟の対立が深まり、決裂します。Antonioは本家に残りMastroberardinoの名を継ぎますが、1994年にWalterは優秀なエノロゴの息子Lucioを筆頭に自分の子供達とMastroberardino家の持っていたいくつかの優良クリュ、更にVignadoraのブランドネームを受け継ぎ分割独立し、別会社でワイン生産を行うと宣言、後にブランドネームをVignadoraからTerredora di Paoloと改定します

(なのでTerredoraの運営会社正式名称は

Azienda Agricola Vignadora S. S. Mastroberardino di Paolo, Lucio e Daniela Mastroberardino Trademarks。

因みに本家はAzienda Vinicola Michele Mastroberardino S.r.l.)。

 

当時本家の代表ワインだった一連のRadiciシリーズやGreco di Tufo”Novaserra””Vignadangelo”等は本家が引き継いでいますが(後のVilla dei Misteriは本家の作)、”Vignadora”畑はどちらの所有となったのか不明です。ブランドネームと共にTerredoraに移ったか、或いは本家寄りの栽培方法をされていたGreco”Novaserra”等の様に本家側に残されたのかは定かではありません。しかし、当時のFiano”Vignadora“はMontefalcioneに位置しており、今でも両家共にそこに畑を構え、互いにFianoを生産し続けていますので、両家どちらかがその畑を引き継ぎ、その流れが伝わっていると考えてよいでしょう。但し、Terredoraで言えばFiano Camporeの様などっしりとした樽熟タイプでは無く、Fiano Ex Cinere Resurgoのスッキリタイプ。本家で言えばFiano More MaiorumやRadiciタイプでは無く、ノーマルのFianoに似たタイプとなります。

Montefalcione畑の特性のみ列記します。

 

Montefalcione(山の鎌の意。地形が鎌の様な形で展開していたから)

12h、砂&火山灰、5000本/h、Guyot、南だれ、海抜450~500m、

 

Fiano Vignadora。いいですね。樽を使っていない南部白の代名詞。確かにCamporeやMM、Radiciも美味いのですが、個人的には何もかも樽熟する事には抵抗感があり、Fianoの様な繊細な白であれば、それを100%表現すべくINOX仕立てのVignadoraタイプを好みとしていました。Fianoの場合は花と柑橘類の薫りが顕著で、特に白い花系とレモンの薫りには心惹かれます。私がイタリアで最初と2番目に働いた和食店での使用が多く、天ぷら等の揚げ物にはぴったりの相性。なで肩の瓶型と共に実に懐かしい。昔は圧倒的にTreBicchieri獲得ワイン数が少なく、受賞したワインは何らかの理由が見いだせたのです。このワインの場合は明快さ、快活さ、甘酸のバランスが顕著でした。一緒にワイン造りをしていた時期のMastroberardinoが取れて本当によかった。これとTaurasi Radici90が共同経営時のTreBicchieri受賞ワインです。

 

Vignadoraという名称が使えなくなったせいなのか、20周年号にはその名前が消え、Fiano di Avellino1987としか記載されていませんが、歴史の証人として、これはVignadoraだったと証言します。更に両家には、ワイン会社の合併・組織一体化が叫ばれる昨今、早く元鞘に収まりなさい、でなければどちらかの片割れがどこかに買われてしまうよ、と警鐘を鳴らしたいと思います。ワイン会社の存続、本当に難しい時代になりましたね。

 

この項 了。