特別編 ビール:ナストロ アズーロ | 古きイタリアワインの魅力を読み解く

古きイタリアワインの魅力を読み解く

イタリアンワインガイド ガンベロ・ロッソ 1988-1989
イタリアワイン界に多大な影響を与えるガンベロ・ロッソ Gambero Rossoですが、この初期(1988や1989当時)のレアなイタリアワインと古酒の数々を、掘り下げて解説します。

Vini d'Italia 1989 Gambero Rosso Vol. 44

Distillati&Liquori di Gualtiero Marchesi

Peroni-Nastro Azzurro

 

時々マルケージのワゴンからハードリカー系のご紹介をしています。今回はちょっと捻ってビールです。

しかも有名すぎるこのビール。でも、私にとっては想い出深いビールなのです。

 

Peroni社 創業年:1846、創始者:Francesco Peroni、本社:Vigevano(Pavia、1846~)→Roma(1864~)。現オーナー:アサヒビール(2016~)。

Nastro Azzurroとは青いリボンの意味です。1933年、添付写真の客船SS REXが大西洋横断レースの最速賞(ブルーリボン Nastro Azzurro賞)に輝きます。当時のイタリアにおける、高い技術を指し示すシンボルとなり、その好印象にあやかって付けられました。清々しい薫り、海を思わせる飲み口の爽快感、瑞々しい味わい。好きですね。

 

マルケージで働く前、ミラノのフォーシーズンズホテルで働いていた事は、何回かお書きした事があります。

当時は地下のパティオに面して『Il Teatro』というメインダイニングがあり、そこでソムリエとして勤務します。

当然の事ながら世界中からVIPがご来店するその店で、緊張しつつも初日・初接客・ファーストオーダーがこのNastro Azzurroだったのです。添付ご紹介した店内写真の中央、壁画前に楕円形のテーブルがあり、チェック部分が半円形のベンチシート、更には客席に背を向けて座る椅子席もあります。店で一番目立ちつつも椅子座りのゲストは店内の誰とも視線が合わず、一定のプライバシーが保てるここはVIPテーブル。テーブル番号6”Tavolo6”です。

『エツロー、Tavolo6の飲み物オーダーを頼むよ、但し、あそこのお客様、ちょっとVIPだから気を付けてね』と背中を押されつつお伺いすると、くるりとこちらに顔を向けたゲストは、当時ミラノ・スカラ座の音楽監督を務めるリッカルド・ムーティその人でした。彼は私の顔をしげしげと眺めると『Una Birra』。私の記念すべきフォーシーズンズでの初仕事はNastro Azzurroの抜栓だったのです。一杯飲んで漸く彼の表情が綻び、その後はスムーズにサービスが進みました。やれやれ(以来私はムーティのファンです)。

後日、やはりフォーシーズンズの担当テーブルで、シャープな黒の上下を着こなし、髪をぐいと後ろに纏め、背筋の伸びたご婦人がニコニコしつつも凄まじい勢いでNastro Azzurroばかりをお召し上がりになるという事がありました。にっこりと微笑みながらも『美味しいわね、もう一本ちょうだい』を繰り返し、サービスすると、それこそスパーンとマッハでお召し上がり。『ここに来るとこれを飲むのが楽しみなの』とお話ししながらぐいぐいと、全く乱れずお飲みになられたその方は、デザイナーのジル・サンダーです。私にとっては今でも一番格好良いご婦人です(服は高くて手が出ず。帰国後にユニクロの「+J」は喜んで購入。終売となり残念)。

 

原料はイタリアBergamo、添付地図の場所・Cascina Fenatichetta産のNostrano種のトウモロコシ。勤めていたマルケージから近かったので、畑場所を突き止め見に行った事があります。目印は池。

「フィールド・オブ・ドリームス」か、オールドファンならヒッチコックの「北北西に進路を取れ」か。ざわわ、ざわわとトウモロコシ畑。他は何もありませんが、フォーシーズンズでの想い出も蘇り、私自身は大満足でした。

その後、Nastro Azzurroが私の必須ビールになります。マルケージでも常備、上記の想い出と畑の話をしながらバカバカ開けます。ドイツ語圏のお客様も多かったマルケージ、冷却が追いつかず、日本基準のキンキン冷えを求められたら完全アウトぐらいしか冷やせずともサービスしてたなあ。MorettiにはMorettiなりの様々な想い出がありますが、イタリアのビールを一本選べと言われると、Nastroになりますね。フォーシーズンズの想い出、とうもろこし畑と空、冷え切らないビールを出しつつもこちらが冷や汗をかいていたマルケージでのサービス。このビールを見ると、いつも思い出します。

 

この項 了。

初期のペローニ社

 

SSREX

フォーシーズンズホテルミラノのIl Teatro。

店内の壁画前がVIPテーブルTavolo6