地上に残った高僧・マリア
昔はわたしたちも人間だった。今は時間が止まっているだけの。
神の啓示を受けるまでマリアはごく平凡な女だった。
信仰するものがあっても根本は変わっておらず、戒律で禁止されている酒やタバコといったもの以外は肉だって口にするし、甘いものには目がない。
そのあたりはどこにでもいる街の女そのもの。
数年前には仲間たちと世界を変えるために戦う毎日を送っていた。
あれは必要なことだった。人間を救うために犠牲が生じるのを仕方ないとは思えないが、そうするしかなかった。
人里離れて暮らすのは償いのようなもので、まだまだやることもある。
それは義務。
過去の人間だからと、リースロットの世界から遠ざけられていたことに怒りを感じているのはマリアも同じ。
あとからきたサムソンやリリス、ミリアムの名前を聞いてもピンとはこない。答えは、
「誰よ、そいつら」
だいたい魔女なんて昔はいなかった。
それでも今は彼女によってマリアはここにいる。
人魚の住む洞窟に近い、誰も来ない部屋。
建物自体は昔、宿屋だったものを一軒家に改築して使っている。時には仲間たちで集まることもあるから、部屋は多くほしかった。
無理難題を魔女は押し付けてきたが、彼女だって「後から来た」のだ、利用する方向でいる。
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「アネットさん、濃い目のコーヒーにしてくださいな」
そう言ったものの、目の前にあるのは熱い紅茶で。
日ごろコーヒーを飲むマリアの体調を考えてのことなので逆らうことはしない。
「昨日も夜飲んでいましたね。ダメですよ」
窘められてしまった。
アネットはマリアたちの身の回りの世話を任されているが、マリア以下、誰ひとりとして彼女を下に見る者はいない。彼女あって、まだまだ自分たちは「人間でいられる」とわかっているのだ。
「朝のお祈りはすんだのですか?」
「もちろん。それがすむまでは水一滴だって口にしない」
アネットは神を信じているのだろうか? 今度聞いてみよう。
「でもねマリアさん。もっと健康にも気を遣ってくださいましね。神様は見ていらっしゃいますよ」
「そうね」
素直に答えた。
紅茶にあうものはなんだろう。
コルシオンの洞窟の奥でみつけた不思議なお菓子。あの味が忘れられない。
「ねえ、アネットさん、クリームか卵を使っているようなものでね。冷たくしておかないといけないものを知っている? それ、作れる?」
「それはきっと・・・わたしも知っているものだとは思いますが、庶民ではなかなか口にできないものですよ。どこでお召し上がりになったのですか?」
「洞窟の中。ここじゃあないわよ」
Dear Michelle
Love
ChristchurchからLondonに行ってしまうわたしの先生へ送る言葉です。