無くした記憶と旅立ち

朝起きると、大事にしていたお守りが消えていた。
なぜだ。どこへ行った。

頭が痛いし吐き気がする。そう、二日酔いだ。
昨日の記憶はない。全くない。何か嫌な記憶はあるが、
それ以外はちんぷんかんぷんだ。

一体昨日は何があった?
目は赤く腫れている。

喧嘩?
いや、それはない。
僕は昔から殴るような喧嘩はしない。
昔から口喧嘩は強い。
だから小学校の時はよく口喧嘩で、クラスメイトを負かした
そして口喧嘩に負けたやつから暴力を受けるかも入れないと察知した時は、走って逃げる。
どこへって?
先生の元へだ。先生のとこへ行けば殴られない。そこで言いつけてやる。
こいつが殴ろうとしている理由、怒っている理由を述べるのだ。
何かと論理的に話せば勝てる。

先生に怒られるのはそいつだ。僕ではない。
後から仕返しがないように徹底的にそこでぶちのめすのだ。

だから僕は殴り合うような喧嘩をしない。その方がコスパもいい。
だからこの目の腫れは喧嘩ではなく、泣いた後なのではないかと思った。
なぜ泣いたのかなんてわからないが水分が足りないことはわかる。

右手で冷蔵庫を開け、右手でスポーツドリンクを手にすると、
滝のように喉へ流し込んだ。

なんだこれは、、。
うまいじゃないか。

カーテンが開いてないことに気付くと
右手でカーテンをぶち抜いた。
眩しい、どれくらい眩しいのかというと
ハゲ頭のエロオヤジくらいだ。
こういう人を見ると、その頭をどこかへやってほしいが、
僕はこういう人のことが好きだ。
おそらく暇さえあればすけべなことを考えているのだろう。
偏見かもしれない。でも、僕だって負けない。

ピチピチギャルのことをレポートにすれば
10000字はかける。なんだ、卒論並ではないか。
そんなに書けば、まず女子大生には嫌われる。
いいや、世界中の女性に嫌われるだろう。
それは嫌だ。だから書かない。書けないんじゃない、書かないんだ。

それにしても眩しい。

空は雲ひとつない。
いや、あった。見つけてしまった。
まあ、雲は好きだ。もふもふしている。
それにしてもお守りはどこへ行ったんだ。
あれは彼女からもらった大切なお守りなのに。
なぜだ、、、。

彼女の名前はキリン(沖田凛)。昨日は確か彼女の誕生日だ。誕生日が来るとおめでとうと言うが、何がめでたいのだろう。
僕には理解できない。
また、ひとつ歳をとり、寿命が縮むではないか。
彼女はどんどん歳をとっていく。現在進行形で死の道へGOだ。
これは中学校で習ったはずの文法だが、みんな喜んでケーキまで用意する。終いにはロウソクの炎を消すように促される。
なんだ、命の灯火を自ら消させるとは面白いじゃないか。

ん、なぜ僕はこんなにもネガティブなんだ。昔はポジティブバカとまで呼ばれていたではないか。
いや、あれはそもそも褒め言葉ではない。考えるだけ無駄だ。
外にでも出てみるか。

やはり思い出せない、昨日はなにがあったのだろうか。家は泥棒が入った後のように、服や家具が散乱していた。片付けるのは後にしよう。とりあえず僕は外へ出た。

「あら、ヒロ君、おはよう」

とても明るい声で僕の耳を揺らした。
お、これは通称マダム。隣の部屋の中村さんだ。

「中村さんおはようございます」
「あら、目が腫れているけど大丈夫?」

いつも優しい人でたまに母のような存在に思える。

「そうなんですよ、なんか今日起きたら目が腫れていて」

泣いたとは言えない。いや、そもそも泣いたかどうかもわからない。
酒は恐ろしい飲み物だ。

「そう、まあ気をつけて行ってらっしゃいね」

あなたはもはや母なのではないだろうか。

「はい、ありがとうございます。行ってきます!」とまあ
いつもこんな感じだ。

元気よくとびきりの笑顔で対応する。マダムはいい人だ。

 玄関口を出てすぐ左にはコンビニがある。便利な世の中だ。
コンビニがあれば生きていくのに困らない。なんでもあるのだ。

とりあえずそこへ入り、コーヒーとパンを買って、すぐそこを後にした。

あー、頭が痛い。もうお酒はやめよう。と二日酔いの人は口癖のように言うが、やめた人を僕は見たことがない。ん、あれはなんだ。

コンビニから少し離れたゴミ置場が気になった。
行ってみると、そこにはたくさんのゴミ袋が雑に開けられていた。
カラスか?ホームレスか?なんでもいいが、何か奇妙だ。
なぜ、ゴミ袋がこんなにも無残な結果になっている。
しかし、隣を見ると小さな猫がゴミを漁っていた。

ほほ、美味しいか。犯行に及んだのはこいつだな。なんて可愛いやつだ。
買ったばかりのパンの半分を猫にあげた。
大丈夫、あれは味のしないところだ。人間以外が食べても街にはならない。

 今日は月曜日だ。本来なら大学へ行かないといけないんだが、今日は休みだ。休講ではない。自主休講だ。要するに学校に行きたくないのだ。

授業へ行けば、赤く腫れた目を公開授業しなければいけない。だから僕は休講にした。これを自主休講という。

ふと、彼女が気になった。思わずスマホを取り、電話をかけた。
「プルプルプルプルプル、、、おかけになった電話は現在、、ぶち。」この声の主は彼女ではない。君に用はないのさ。とにかく、出ない。
もういいか。

一人暮らしを始めると、親や実家が恋しくなるというが、
僕はそんなことはない。実家が嫌いとか、親と喧嘩したからではない。
自分のことで精一杯なのだ。

ん、なんだこれはスマホに入っているメールの
トーク画面が全て消えている。全てだ。

あー、もう酔っていて昨日の記憶がない。もう酒はだめだ。
酒好きのもう飲まないは飲む。これは決まっていることである。
とりあえず親友に電話することにした。

「お、ヒロどうした?」
懐かしい声だ。

「急にごめんよ。ちょっと昨日飲み過ぎてさ。とりあえずエイトに電話しようと思ったんだよ」
「おいおいオレは暇じゃないんだぜ」
とエイトは笑いながら言う、この声は落ち着く。

いつもこんな感じだ。エイトはいつも優しくて面白い。
大学のクラスでもいつも人気者だ。

「エイト、昨日の僕何してた?」
「え、確か昨日はお前の彼女の誕生日だろ?
楽しみにしていたじゃないか」

そうなのだ、僕は楽しみにしていた。

「彼女に電話したけど出なくてね」
記憶がないから何もわからない。

「あ!そういえば、昨日オレお前に電話したんだぜ。まあ、彼女といたから出ないは仕方ないけどよ」

「まじか、それは悪いことした」
「まあ、いいけどよ、ヒロなんかあれば電話してこいよ」
「うん、ありがとうエイト」

電話を切って少し切ない気持ちになった。

道端に落ちている小石をおもむろに蹴ると、電柱にあたり、カンと空に響き渡った。

出会いと別れ

エイトと電話が終わった後、近くにうまそうなラーメン屋を見つけた。
「へい、いらっしゃい!兄ちゃん一人かい?」
「はい、空いてますか?」
「空いてるよい、そこのカウンターでお待ちを!」
コップ1杯の水を一気に飲み切った。
2杯目が半分になるくらいに注文した。

「大将、とんこつラーメン1つ」
「はいよい、大盛りにしとくよい」

なんて良い店だ。

目の前にあるメニューを見ていると、気になる文字があった。
/マヨネーズラーメン始めました/
なんだそれは、面白いじゃないか。
ニヤニヤしていたところにラーメンが来た。

「兄ちゃん変なこと考えとったんやよい?」
恥ずかしい気持ちになった。

「いや、別になんもないですよ」

勢いよく食べて代金を払い、店を出た。

あー、いい店だった。味わったかどうかはどうでもいい。
だが、また来たいと感じた。懐かしいと感じたからだ。


昨日はどこへ行ってたのだろうか。
記憶は飲んでからないのだ。

飲む前は確か、、、。

「どうして」

ん、なんだ今の声は。
男性のような声が頭をよぎった。

思い出せない。誰だ、今の声は。まあいいか。

遠くへ行きたくなり、駅へ向かった。
ホームで電車を待っていると、赤ちゃんが僕の方を見て微笑んでいる。
あー、なんて癒されるんだ。音が鳴り、電車が来た。
ゆっくりと電車に乗り、腰をおろした。

気付くといつの間にか寝ていた。
ここはどこだ。誰も人がいない。電車は止まり、ドアは開いている。
そこから優しい風が入ってくる。
着いた駅を降りてみると、

草原の豊かな香りと清々しい風が勢いよく僕の身体を突き抜けた。
なんていい気分だ。ここはどこだろうか、、、(続く)