(……ここはどこだ)
(道路かどっかか? ったく……)
(作るなら作るで最後までしっかり作っていけよ)
(目も口も鼻も耳も付いてない雪だるまなんざ、ただの雪で出来ただるまじゃねぇか)
(……それを雪だるまって言うのか。そうかそうか)
(あー……)
(せめて溶けて消える前には、日光を拝みてぇな……)
(一日くらい経ったのか?)
(何も見えねぇし何も聞こえないから分かりゃしねぇ)
(ちょくちょく誰かに触られてるのだけは感じるんだが)
(だったらせめて俺の顔に二つほど風穴を開けていってくれよ)
(まあ、ガキにそんな甲斐性はねぇか)
(誰かよぉ……って、ん?)
(なんか尖った物が俺の顔を突っついてる訳だが)
(ってうぉ、痛ぇ!)
(誰だ! 俺の顔に風穴開けやがった奴は!)
(ったく、近頃の若いモンは……)
(……風穴?)
(おお! 見える! 見えるぞ!)
(痛ぇ!)
(よし、風穴二つだ! そこのガキ、感謝するぜ!)
「 」
(なんか言ってるみたいだが、耳が無いから聞こえないんだ)
(すまねぇ)
「 、 !」
「 、 」
(母親か)
(随分と過保護なこった。こんな雪の塊なんざ、菌だって寄り付きたくねぇよ)
(聞こえないとはいえ、なんとなくニュアンスは伝わるぜ)
「 、 !」
(おう、またな)
(さて、さっきのガキのおかげでやっとお天道様を拝めたぜ)
(案の定、道路の端っこか。良い感じに日陰だな)
(溶けるまで随分時間がかかりそうだ……)
(目が出来たとなると、耳も欲しくなってくるな)
(さすがに贅沢か?)
(ハッピーバースデーってことで何とかならねぇのか?)
(……)
(……)
(……)
(暇だ……)
(……朝か)
(喋ることも言葉を聴くことも叶わないまま、生誕三日目になってしまった)
(こんなのでいいのか?)
(一度きりの人生転がるように~♪)
(……)
(虚しいぜ)
(通勤ラッシュって言うんだっけか、こういうの)
(誰もこっちに視線を向けてねぇな)
(当然か。忙しい中、こんな雪だるまなんて構ってらんねぇよな)
(ん?)
「 、 ?」
(ガキ……って言うほどじゃねぇな。学生か)
「 」
(俺の相手なんかしてると遅刻するぞ)
(おい、なんだその棒は。もう風穴はいらねぇぞ)
(やめろ! お前ら滅茶苦茶さっくり刺してやがるが、実際は激痛だぞ!)
(痛ぇ!)
「……うん、何か足りない気もするけど。ちょっとマシになったかな?」
(くそっ……)
(耳のつもりか。ありがたいが、ちょっと不格好な気もするぜ)
(贅沢を言える身じゃねぇけどな)
「ねぇ。独りぼっちって、寂しい?」
(ああ、寂しいよ)
(たまにお前みたいな物好きが居るから、嫌じゃねぇけどな)
「孤独で居ることに慣れちゃうのも、困りものだよね」
(確かにな)
(例えば、お前みたいなのが来たときにどういう顔をすれば良いのか困る)
(情けねぇな)
「私ね。『はぐれ者』なんだ」
「友達なんて居ないよ。いっつも独りぼっち。家族だってどうでもいいと思ってる」
「みんなに煙たがられて、遠ざけられて」
(……)
「キミが羨ましいな」
「『そこにいること』が出来る、キミが」
(違う)
(お前が俺に話しかけなきゃ、俺はお前の言葉を聞けなかった)
(昨日のガキが俺を見つけなきゃ、俺は世界を見ることすら出来なかった)
(それに、俺を作ってくれた奴が居なきゃ、俺はここに居なかった)
(独りじゃ、何も出来ない存在なんだよ)
(……ああ、そうか)
(俺は独りぼっちじゃないのかもしれねぇな)
「キミは、私に存在する意味があると思う?」
(……知らねぇよ)
(でも、お前が居なくなったら寂しがる奴らは絶対に居る)
(寂しがってくれる奴が居るなら、お前は独りぼっちじゃない)
(独りで生きてる訳じゃないんだ)
(……なんて、聞こえてるわけ無いだろうけどな)
「……答えてくれるわけ、ないよね」
「ありがとう。なんか話したらすっきりしちゃった」
「遅刻しちゃいそうだから、もう行くね」
「じゃあ、ばいばい」
(おう、またな)
(……)
(存在する意味、か……)
(朝っぱらから重い話を聞いちまったな……)
(ふぅ)
(溶けるまで、あと何日だろうな……)