VIVA TOKYO LIFE
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悲しい過去

あれは私がまだ20代前半、デザイン事務所でアルバイトを
している時のお話。

我が事務所は2階にあり、特に店頭があったわけでもない
いたって普通の事務所であった。

ある日そこに、一人の中年男性が訪ねてきた。

「ど~も~こんにちわです~♪」

異常に甲高い声。見た目は美味しんぼに出てくる山岡の
上司の歯が一本しかない課長みたいな感じ。
声もそんな感じだった。

俺「い、いらっしゃいませ・・・な・・・なにか・・・」

奴「あのですね~。わたくし、タクマポリスと申しましてですね~、
ミッキーマウスをですね~、我が県佐賀に誘致したいと
思っておりましてですね~あの~なんといいましょうか、
ミッキーマウスをですね~。ウォルトディズニーですね~
何度かお手紙を出している次第なんででしてですね~」

まだ若かりし俺にそんなクレーム対応力などあるはずもなく、

俺「ミ、ミッキーマウスですか・・・すごいですね・・・」
「で・・・今回はどのようなご用件でしょうか・・・」

奴「あのですね~。わたくし、タクマポリスと申しましてですね~、
ミッキーマウスをですね~、我が県佐賀に誘致したいと
思っておりましてですね~・・・・・」

・・・・ここまでは繰り返し。
その後一枚の原稿と思われるラフスケッチを取り出した。

奴「あのですね~。これをもとにですね~ぜひともですね~チラシを作っていただきたいと思いましてですね~」

手渡された原稿。明らかに鉄腕アトム!!
アーンドのらくろのキャラクター!!

俺「こ・・・この鉄腕アトムはいったい・・・」

奴「あのですね~。わたくし、タクマポリスと申しましてですね~、・・・・」


さすがにさえぎる俺。


俺「あ、それはさっきお聞きしました。このイラストをもとに佐賀県へのディズニーランド誘致のチラシを作りたいということですか?」

奴「いや、ディズニーランドじゃなくてですね~、ミッキーマウスなんですけれどもですね~」

ディズニーランドではなく、ミッキーマウス単体で
来て欲しいという意気込みは伝わってきた・・・


俺「と、とりあえず今私しかいないので原稿をお預かりしてご連絡でもよろしいでしょうか?ご連絡先をお願いします」

れ、連絡先はサラサラ~っと書くのね。

奴「それではですね~、ご連絡をお願いいたしますね~」

と、帰っていった・・・


それから1時間後、社長兼アートディレクターが帰ってきた。

俺「さっきすっごい人が来て大変だったんっすよ!!」

社長「あ~、鉄腕アトム?」

俺「何で知ってるんですか!!!」

社長「あの人すごい金持ちでものすごい金払ってくれるんだよ。この前なんかB4両面で50万だよ」

俺「・・・すごいっすね・・・つ、作ったんすね・・・」

社長「あ、お前作らなくていいよ。あの人のディテールは
俺にしか理解できんと思うから」


あ~りがとうご~ざいま~す。
ぜ~った~いりかいできませ~ん!!


金の力って怖いね・・・。
変態じじいでもりっぱなクライアント様なのよね・・・


その1ヵ月後、俺はこの会社を辞めた。

ありがとう!タクマポリス!
そしてミッキーさようなら~!