なんの因果か、暇ではないのに、バルザックのゴリオ爺さんを読んでしまったので

次は、購入しやすかった、谷間のゆり、を読んでみた。

『谷間の百合』(たにまのゆり、仏語 Le Lys dans la vallée)はオノレ・ド・バルザックによる長編小説。(wiki)

 

あらすじ 復古王政初期を時代背景に、語り手である青年貴族フェリックスと薄幸のモルソフ伯爵夫人との悲恋と、その後に出会ったアラベルという女性との二股恋愛、そしてそれをナタリーという今の恋人に打ち明けるという手法で書かれている。

 家族に疎まれて育った末っ子であるフェリックスは舞踏会でアンリエットに一目惚れ。

彼はモルソフ伯爵夫人に、彼女を祖母が呼んでいた名前、アンリエットという名前で私を呼んでください、と言われる、

アンリエットは、捨てることのできない家族への忠誠心があるため、あくまでも絶対にプラトニックな関係で、

お互いに思い合っているような関係を作り上げていく。

アンリエットはフェリックスにパリで出世するための処世術を教えパリへ送り出す。

(このときのアンリエットの教えてくれる人間観察とか、処世術が、メタ認知できすぎていて、違和感でいっぱい)

フェリックスはパリでダッドレー夫人(アラベル)と出会い、恋愛関係になる。

アンリエットはダッドレー夫人への嫉妬心で死んでしまう。

という話です。(wiki)

有名な世界文学なのでネタバレ書かなくても、読まなくてもストーリーは知っているという人は多いと思う。

 

舞台はクロシュグールドという美しい谷間で、

延々と風景の美しさが散文で描かれている、最初はこれでうっとりするが、

だんだんと人間風景になっていく。

 

アンリエットは子供が大事、夫がかわいそうと言っているが、

この夫という人はよく癇癪を起こし、アンリエットが気絶するような暴言を吐く。

つまり闇からくるような人格の歪みを表している。

それでも夫のことをかわいそうに思ってアンリエットは子供と夫に尽くす。

この辺も、アンリエットをひたすら聖女のように書いているが、

のちにナタリーがいうように、フェリックスは女性のことなどなにもわかっていない、だからこんな書き方なのかなと思ったりする。

 

のちにアンリエットがフェリックスに教え込むパリでの成功のための処世術などは

ゴリオ爺さんのシーンで、主人公が教わっている処世術などと少し似ている。

バルザックという人が得意とするところのメタ認知能力を、今回はおそらくアンリエットに言わせているところがにくい。

パリに行けば敵だらけで、みんなが出世したがっているという、そういうふうに書かれている。

みんな本音話さないし、表面で人をジャッジするからなめられないように気をつけろよと。

 

それからパリにいくと、イギリスのヨークシャー出身のアラベルという女性がいてこの人も人妻であるが

彼女は夫と子供を捨てて、フェリックスの恋人になってしまう。

アラベルはそこまでして彼を手に入れたものの、

彼が愛したアンリエットのことを知るたびに自分こそが本当の恋人であること、その優位性を表現していく。

それは不安感からくるものだろうと思った。

 

あとからその手紙を読ませられたナタリーがいうように、フェリックスは付き合った女性に、他の女性の話をする人で、

そのために、並行しているわけではなく前後して付き合っているはずなのに、彼女たちを競争させてしまったりする。

 

また、アラベルのところにいったのであれば、アンリエットにあわなければいいのに、みれんたらしく訪れて、

アンリエットはなんと飢え死にを自分で選んで死んでしまうのだ。

最後には、自分だってプラトニックではいやだったなどと叫び、発狂寸前の爆発を見せて死んでいく。

 

あれほどメタ認知ができる女性が、自分のことになると、

自分の心の矛盾や闇を抑え込むことはできなかったということをバルザックは書いているのだろうか。

 

アンリエットが子供や夫を守らなければならないという気持ちになるのは100歩譲っても理解できるのだが

アラベルとフェリックスが付き合い始めた時点で、

「私は恋敵ではなく、彼女の姉妹になりましょう」などと言って、応援するふりをしながらしっかりとチェックしていくみたいなところがある。

痛い。

 

それに比べて、アラベルという女性は、最後までぐだぐだとアンリエットのところに行ってふんぎりのつかないフェリックスをさっさと袖にしてしまった。

すべてを捧げても自分以上に大事にするものがあるという男性をいつまでも思っていないところが清々しい。

粗末な取り扱い方をされたことには冷たい攻撃をもって仕返ししたのかもしれない。

 

さらにこのストーリーを手紙で読まされたナタリーという恋人はただの聞き役にさせられたので

当然の如く、さっさとフェリックスを振ってしまった。

 

少しは健康的な判断をする女性が2人いて、

アンリエットだけが苦しみ抜いて自分を犠牲にしようとしてもできなかった地獄を味わって死んだということだ。

 

やれやれ、

後味が悪かったけど

ページ数はあまりないのですんなりと読み終わった。

当分本を読むのはやめておこうと思った一冊でした。