「もうやだ~~~~!帰りたいよ~~~」

そう小さく叫びながら残務処理をするわたし。
定時はとっくに過ぎて、残業すること1時間半。
残っているのはわたしを除いて先輩二人。

「よし、これで最後!」
「片付けてきまーす」

大きなワゴンを押して、エレベーターを降りて。
薄暗い廊下(定時を過ぎると主要な廊下以外は消灯されてしまう)を通る。

くそー
みんな帰りやがって・・・
あーでも、これさえ片付ければ帰れるし・・・

廊下の突き当たりは田代くんの部所。
もしかしたら会えちゃう?
なんて、少しだけ期待しながら進む。


けど。


やっぱり電気消えてるし、みんな帰ったよなー。
残念。
まぁ、そんなラッキーはないかな。


よし、片付けてしまおう。
電気が消えている部屋を横目に、わたしは持ってきた荷物を片付ける。
ちなみに用があったのは田代くんの部所のお隣の部屋だ。

重い荷物を片付けて、ワゴンは置きっぱなしでいいって言われたからそのままにして・・・


よっしゃ、終わり!!!


夕飯何にしよっかなー
ビールないから買って帰んなきゃなー


なんて帰りモードでそんな事を考えながら後ろ手にドアをしめた瞬間
ガラッ
「うわっ」
「あ・・・」
開くと思っていなかった隣の部屋のドアが開いた。


「お疲れ様です(笑)」
くすくす笑う私服の田代くんがそこにいて。

「マジでびっくりした・・・」
色んな意味で驚いているわたし。
(人間マジで驚くとキャーなんて可愛い声出ないよねー・・・)


「電気消えてたし、誰もいないと思ってたから・・・びっくりした・・・今から帰るの?」

「そうなんですよ。自分だけ終わんなくて。でももう帰ります」

「いーなー」

「キリタニさんはまだ帰れないんすか?」

「帰りたいよ~泣」

「あはは(笑)お疲れ様です(笑)」

「外雨降ってるから気を付けてね」

「はい(笑)」


今日の田代くんの私服は、白いVネックのTシャツにチャコールグレーのパンツ(裾がきゅっと縮まってるやつ)、足元は黒のスニーカー・・・
あ~可愛い。
わたしが着たら寝巻きっぽくなるな(笑)


もうちょいお喋りしたいけど、そろそろ自分の部所に戻んなきゃな・・・

「じゃあ気を付けてね」

「あ、キリタニさん。」

「ん?」

「差し入れとかしたら貰ってくれますか?」

「え!なんかくれんの??」

「あはは(笑)貰い物なんすけど」

「わーい!なになに?」

田代くんは手にしていたビニール袋をがさがさして。
「はい」
って黒いパックを差し出した。


「あんこ玉じゃん」
中身は舟和のあんこ玉。
しかも、2個ほど減ってた(笑)

「貰っていいの?」

「はい。あ、間違えた。こっちだ」

そういって手にしていたパックをビニールに戻して、手をつけていない(と、思う)パックを出した。


「食べかけくれんのかと思ったよ(笑)」

「さっき腹減って食ったんすよ(笑)」

二人でくすくす笑って。
それから
「じゃーね」
「頑張ってください」
って言い合って別れた。



「どうしたの、それ」
「田代くんから貰った~」
「若い子から食べ物強奪してくんなよ(笑)」
「強奪してないし(笑)」
「違うよね~田代くんからの愛の差し入れでしょ?(笑)」
「そう、それだ!愛の差し入れ(笑)」


笑って答えたけど・・・。
でもね、強ち冗談ではないんだな。


先輩はもちろん知らないことだけど。
田代くんとお喋りした事で
わたし、テンション上がって元気になったよ。
残業の疲れだって癒されたよ。


だから
愛の差し入れに間違いないよね。



次に会えたら
あんこ玉ありがとう、元気になったよ
って言うんだ。
またよろしくねって。


でも・・・
舟和なら
あんこ玉よりも芋ようかんの方が好き。



なんて言いません(笑)