その晩はとても暑かった。日中に熱を蓄えたアスファルトは、夜になって、その熱を床暖房のように吐き出していた。その家の男おいどん、”パンツ”は1時間おきに家の玄関でマルメを吹かしため息をつく。親の家に住まわせてもらっている手前、室内での喫煙は許されていないのだ。
”喫煙はあなたにとって脳卒中の可能性を高めます”と大きくかかれたパッケージを眺めながら、長生きに何があるのだと憂鬱な気分になるのだった。そして、”パンツ”の前にはブリーフ色のランサーが主のそんな姿を笑うかのように佇んでいた。この相棒と一緒になってから2年が過ぎた。だが、助手席に人が乗ることもなく、車内には読みかけのマンガと食玩が散らかっている。それは、不憫な車だった。
携帯電話の時刻表示を確認すると1時過ぎをさしている。ぼつぼつ寝ることにした”パンツ”は家の中へと入っていった。
翌日、2階の自室で”パンツ”は目覚めた。6時半とはいえ日光は屋根にさんさんと降り注いでおり、男おいどんは汗びっしょりだった。ふと思いついたように脇の下に鼻を持っていくと、咳き込んだように顔をそむけたが、それもいつもと同じ朝だった。出勤後に親からの携帯電話が鳴るまでは・・・
”パンツ”が愛妻弁当を食べる同僚を横目に、味気ない350円の弁当を食べていると「♪ひとり上手とよばないで~♪」と携帯電話がなった。電話をとった”パンツ”の耳に親のあわてた声が入る。
「あんた、うちの車の鍵がこじあけられて中がめちゃくちゃ・・・」
「はぁ??車??鍵??」
”パンツ”は状況を把握することが出来ずうろたえた。
車が・・・俺のランサーか??どしたというのだ・・・
そこで、「警察がきたから切るね」との声に我にかえる。
状況を知りたかったのだが電話をする余裕はなかった。
上の空で仕事をした自らの尻拭いを終わったときにはあたりは暗くなりかけていた。すぐに”パンツ”は家路へとついた。家に帰って事情を聞く。昨晩、マルメを吹かして寝付いて以降、朝、母親が目覚めるまでの間に車上荒らしが母親のデミオを荒らしたようだ。
グローブボックスの中をかき回し、決して裕福とはいえないぶりぃふ家のなけなしの食費1500円をうばったのだ。なぜ1500円と明確なのか??それは、母親が100円貯金を車のダッシュボードに貯蓄し始めて15日めの晩の出来事からだった。
外から見えるところに置いているお金ではないため計画的な犯行が疑われた。しかし、なぜ我が家を・・・腑に落ちない”パンツ”はあたりを見渡した。セルシオ、エルグランド、ベンツ、アルファード・・・少なくともここが狙われる合理的な理由はないように思われた。
めんどくさそうに現れた警察は、捜査してますとのアピールか指紋採取の粉をまき散らかした。しかし、それはただ単に粉をまいているだけのようにしか見えなかったという・・・そして、指紋は拭き取られていたようだった。その後、あたりの家の聞き込みもせずに去っていったようだ。犯罪の検挙率が20%を割り込んでいる現状は彼らの怠慢さがなせるわざなのかもしれない。
結局、被害は1500円であり、手口は窓の上部から針金のようなものを突っ込んであけたのだろうということであった。ランサーはどうやら無事であったようだ。”パンツ”は、胸をなでおろした。おまえまでいなくなったら、また孤独に戻ってしまう・・・頭にはそんなことしか思い浮かばなかった。
それにしても、なぜいつも・・・俺ばっかりと”パンツ”はマルメを咥えて毒づくのであった。男おいどん、貧乏人・・・・・・およそ人からうらやまれるような要素など皆無だというのに。