お返ししないといけない
ここは私が。いえ、私が。
居酒屋さんに行くと、よく見かける光景が、
「ここは私が。」
「いえいえ、なにをおっしゃいますか。
私がもちますよ。」
自分がおごるという譲り合いです。
居酒屋に限らず、
自分が相手の分までお金を払うかどうかで、
大人たちが言い合っている姿は、
生活のほかの場面でもよく見かけます。
その時の懐は痛むわけですから、
そういう意味ではこれは不可解な行動です。
どうして、ここまで自分が払いたがる人が
多いのでしょうか。
お返ししなければ気持ち悪い
当事者がどういう関係かにもよりますし、
一概には言えないのですが、
大きな理由の一つとして、
人は、何かほどこしを受けると、
それに対して、お返しをしないと気持ち悪い。
という心理があるからです。
さらに、相手から何かをしてもらっておきながら、
何も返さないと、相手や世間から、
どういうマイナス評価を受けるか
恐ろしいという心理もあります。
この心理を返報性の原理といいます。
この心理はほかの法則・原理と比べても
かなり強力かつ、
古くから認知されてきました。
子供のころ、
よく口げんかでののしり合いになり、
「バカという奴がバカなんだ!!」
と半泣きになって言っていたものです。
相手をけなせば、けなし言葉が返ってきます。
相手をほめれば、ほめ言葉が返ってきます。
しごく当然のことですが、
つい忘れがちな法則です。
聖書の一節ではありませんが、
与えよ、さらば与えられん。
なのです。
ということは、
お客さんに買って欲しければ、
どうすればよいでしょうか。
お返しは倍返しだ
返報性の原理が強力なのは、
その確実性によること
だけではありません。
最初に何か小さな親切をされると、
人は無条件にお返しをしなければ
ならない心理になります。
受けた親切が、たとえささいなものであっても、
かなり大きな恩返しをしなければならない、
と思わせることさえ、できてしまうことです。
比較することでよく見せる
比較するものでよく見せる
不動産の内見でよく用いられる手法に、
当て馬物件があります。
不動産屋さんは、賃貸や売り物件を探しに来た
お客さんの要望に対して、数件の候補を挙げ、
順番に見てもらいます。
最初に見せる物件は、イマイチな物件。
2番目に見せる物件は、最初のものより良い物件。
3番目に見せる物件は、さらに良い物件。
最後に見せる物件は、3番目よりは落ちる物件。
この順番で見せることで、
お客さんは最初にガッカリして、
2番目に期待を持ち、
3番目に期待を超える物件にときめきます。
そして、最後の物件を見せることで、
やっぱり3番目の物件が良いと、
背中を押すわけです。
この際の、1,2,4番目の物件を、
当て馬物件といい、本命である
3番目の物件を引き立たせるための
引き立て役というわけです。
この対比の効果で、
心理的に本命の物件を
より良く見せているわけです。
高いものを先に見せる
対比の効果で、よく使われるのが、
高いものを先に見せるという手法です。
自動車の販売ディーラーで、
新車をお客さんが買うとします。
新車1台成約した後に、
付属のカーナビ、性能の良いタイヤ、
その他カー用品を併せて売ります。
それらのものは
自動車1台に比べれば安いものなので、
お客さんが買うための、
心理的ハードルが下がっているのです。
普段ですと、わりと高額な
買い物のはずです。
しかし、高いものを先に持ってくると、
値段がたいしたことないように、
見えてしまうのです。
中間のものが一番よく売れる
スマートフォンにしても、ゲーム機にしても、
パソコンにしても、自動車にしても。
ベストセラーの商品は、時代が進めば
アップデートされた最新版が、
次から次へと発売されます。
消費者の側からすると、
最新のものを常にほしいと考える人もいます。
しかし、最新のものが出たときには、
1世代前のモデルの価格が下がります。
その時を待って、
買おうという心理が働くことがあります。
最新のものを欲しがるかとおもいきや、
意外とこう考える人は多いのです。
型落ちのもののほうが
たくさん売れることさえあります。
それには理由があります。
人間には3つの価格のものを
並べて提示されると、
真ん中のランクのものを選びたがる
心理があるのです。
ゴルディロックス効果といいます。
日本語で松竹梅の法則ともいわれます。
この効果は、うまく仕組むと、
売り上げを上げることに貢献できます。
価格の仕掛けで言うと、「6:4:3」が
効果的と言われています。
選ぶのがわずらわしい
松竹梅を使うときに、注意すべきことがあります。
それは、選択肢を増やしすぎないということです。
多くの種類をそろえることが、
より良いサービスであると信じて、
豊富な品ぞろえを売りにしていると、
かえって売り上げが落ちてしまうことがあります。
人間は、選択肢があまりにも多いと、
選ぶのがわずらわしくなってしまうのです。
選択肢が2つだと、
人は安いほうを選んでしまうので、
売り上げを最大化したいのであれば、
松竹梅というように、やはり3つ程度の選択肢に
しぼったほうがよいでしょう。
他の人がどうしているかを示す
おススメはなんですか?
入ったことのないレストランに入るとします。
見慣れないメニューがたくさん並んでいます。
それが、どういうものかもわからずに、
注文するのもこわいので、
おススメを聞くという行動に出ませんか。
人間は、自分でどうしたらいか
分からないときは、周りに目を向けて、
他人の行動を手本にします。
これを社会的証明の原理といいます。
この心理を利用して、
商品を売ろうとするときは、
他の人が行動をしていることを
想像させるような文言で、
広告をするのが効果的です。
お客さまの声
この心理に沿った行動として、
お客さまの声をアピールすることが挙げられます。
このとき、注意しなければならないのは、
お客さんが、
あなたの望むとおりの行動をとって欲しければ、
似た状況に置かれたお客さんの声を、
アピールしなければならないということです。
つまり、あなたのお客さんは、
どういう状況に置かれた人なのか、
あらかじめ想定しておくことです。
みんなもう飛び込みましたよ
よく言われるジョークとして、
次のようなものがあります。
ある客船で、火災が発生しました。
船から飛び降りなければ危険な状況ですが、
乗客は怖がって飛び降りません。
世界各国の乗客に、
どう言えば、飛び降りてくれるでしょうか。
イギリス人には
「紳士はこういうときに飛び込むものです。」
ドイツ人には
「規則では海に飛び込むことになっています。」
イタリア人には
「さっき美女が飛び込みました。」
アメリカ人には
「海に飛び込んだらヒーローになれますよ。」
フランス人には
「海に飛び込まないで下さい。」
日本人には
「みんなもう飛び込みましたよ。」
と言いなさい。というものです。
私はこれを最初に聞いたとき、
たしかに、自分だったら他の言葉より、
「みんなもう飛び込みましたよ。」
と言われたほうが、
確実にあせって飛び込もうとする
だろうなと感じました。
当時は、自分が日本人だからたしかに、
このジョークは的を射ているなと
思ったものです。
しかし、社会的証明の原理からすれば、
これは当然のことなのです。
最初に入ることが怖い
私は旅行が趣味で、各地を訪れては、
地のものを食べたり、
感じたりするのが好きです。
しかし、今の時代。地方に行くと、
飲食店に誰も入っていないことも、
ざらにあります。
私が気にしないたちなのもありますが、
おなかがすいていると、
とにかく腹を満たしたいので、
誰もいないお店に入ります。
すると、さっきまで誰もいなかったはずの
店内がだんだん混みあってくることが
よくあるのです。
たまたまのときもあるでしょう。
しかしこれは、誰もお客さんが入っていないと、
まずくて不人気なお店なのか、
無意識に警戒してしまうことからくるのです。
さらに、お客さんがいないところに、
入っていく気まずさもあります。
このことからも、
お客さんが買いやすくするためには、
ほかのお客さんが同じ行動を
とっていることを見せるということが、
有効だとわかります。
忘れさせない・覚えてもらう
人は忘れる生き物
人は忘れる生き物です。
昔、学校に通っていたころ、
テストに出るからということで
必死に教科書の内容を覚えましたよね。
その内容を今になっても覚えていますか?
ちなみに私は当時、
せっかく勉強するなら
大人になるまで覚えていて、
それを活かせないなら意味がないじゃないか、
と頑なに思っていました。
テレビでよくクイズ番組をやっています。
他の人よりお勉強ができるはずの、
東大出身者が小学生の教科書レベルの問題で
つまずく姿も見られます。
覚えていないと意味がないのではなく、
人は、ものを覚えたら忘れる生き物なのです。
エビングハウスの忘却曲線
人が忘れることを研究した成果として、
有名なものに、
エビングハウスの忘却曲線があります。
実験によって、時間の経過とともに、
人がどれくらい覚えたことを忘れるかを
測った結果で、有名な研究成果です。
それによると、人は何らかの情報を記憶してから、
20分間で58%まで記憶が失われます。
1時間で半分以上を忘れてしまい、
1日で3分の1まで記憶が失われているのです。
ザイオンス効果
有名な心理効果の一つに、
ザイオンス効果があります。
人は、接触頻度が高い人に
心理的に好意を抱きやすいというものです。
前述の忘却曲線によって、
あまりに時間がたってしまうと、
人はどんな人とどこでいつ会ったか
という情報もきれいさっぱり忘れてしまいます。
好意どころか、存在を忘れ去られてしますのです。
そこで、重要になってくるのが、復習です。
どこかで聞いたことがありますね。
そう、やはり脳科学の見地からも
この復習は、とても大事になってきます。
まず、お客さんと会うときには、
強烈な印象を残すように
しなければいけません。
そして、20分後になんらかの方法でアピール。
さらに、1時間後、1日後、1週間後と、
定期的にアプローチすることが、
何より大事になります。
繰り返しアピールそしてアプローチ。
好意を抱いてもらうため、
そして、忘れ去られないようにするためです。
繰り返し伝える
人は無意識に行動することが
8~9割といわれています。
それでは、人はどういう心理条件で、
無意識に行動するのでしょうか。
無意識の行動は、どう条件づけられて
いるのでしょうか。
こちらもやはり、繰り返し行ったこと。
過去に繰り返し見聞きしたことが、
無意識の行動に深く影響しています。
親から言われて行っていた毎日の歯磨き。
家を出たらカギをかける。
動きたかったら足を前に出して歩く。
寝たくなったらベッドに入って寝る。
退屈ならTVのリモコンのスイッチを押す。
意識をして行っていますか?
昔から行ってきたことは習慣となって、
意識をしなくても自然とできるように
なっているはずなのです。
TVCMでも、常に斬新な広告で、
耳目を引き寄せる企業がある一方で、
何十年も前から変わらないCMを
使っている企業もあります。
あれは、何度も繰り返して、
人々の無意識の領域に、
定着させているというわけです。
この文章の中に心理という言葉が
いくつあったかおわかりでしょうか。