「アヘン王国潜入記」高野秀行著を読んだ。
著者は、早稲田大学探検部のOBの、現役の探検家である。
本作は、アヘンの世界一の生産地域であるビルマのワ州での数か月におよぶ農村滞在を語ったルポである。
村の奇習、厳しい気候、村人の個性、コミュニティーに外様として入っていく際の苦労とストレス、アヘン中毒になった際の心身の変化などが、
生生しく表現されている。読み手の視覚、嗅覚、触覚、聴覚にうったのが上手い。まるで自分が現場に居合わせているかのような気分にさせられる。
なぜ、こんなに臨場感のある文章が書けるのか?読み手に絵を伝えることができるのか?
一言でいうと、面白い文章がかけるのか?
それは経験があるからである。
さらにその経験が、著者が莫大なリスクを負いながらも勇気を出して行動した結果であるからだ。
「あいつは口だけだ。」
陰口の定番として、このように批評される人物がたまにいる。
論理的で、統計的に妥当なことを言っていても、その人物の経験が描写されていない話は、退屈である。
おまけに理想論を語ってしまうと、退屈を通りこして不快になるのである。
一方、他の人には無い経験を語る人の話は、それだけでおもしろい。
その唯一無二の経験が、確固たる目的を持った行動の結果であり、さらに多大なリスクを伴うものだとしたら、なおさらである。
経験は魅力的なストーリーテリングの必要条件なのだ。
行動と経験、成功と失敗のを繰り返し。
人生の舵を自分で切ってきたという自負があるからできる、自嘲。
話から滲み出る知性と、ぶれない意思。
そんな話ができる大人になりたい。