2/5AM9時30~
家に着くと、アインは奥の部屋のニンゲンの寝床でハルと一緒にいた。
瞳孔はまえより小さくなっている。ぼんやりでも見えている様な…。
家に着くと、アインは奥の部屋のニンゲンの寝床でハルと一緒にいた。
瞳孔はまえより小さくなっている。ぼんやりでも見えている様な…。


アインは昨日の今日で、実際どうなるか分からない。
私は主人を外出で一時帰宅させて、アインと会わせたかった。ダメ元で入院先の病院に電話した。1人で外出するにはまだ厳しい状況だったが、アインに薬を飲ませ、様子を見計らって昼頃私がタクシーで迎えに行く事でOKになった。ありがたい事だ。
アインに粉薬を飲ませるのは初めてだ。
しかし確実に規定量飲ませたい。
アインに粉薬を飲ませるのは初めてだ。
しかし確実に規定量飲ませたい。
シリンジで直接にするか、自力で食べさせるか…?
朝方食べてから時間が開いていたので、自力で食べるかも知れない。
匂いが強く、趣好性の強いモンプチのスープを小皿に少量入れ、粉薬を溶かしてアインの口元に持っていく。
物珍しかったのかアインは綺麗に舐め取った。良し!
そして錠剤。
アインの頭を90度上に向かせ、口を開けたところに錠剤を落とし、口を閉じて抑えて喉をさする。ゴクン、とアインの喉が動く。
偉いね!お薬飲めたね!
アインを褒めつつ、薬が効いてくる事を祈った。ハルがアインの側に居てくれていたので、主人を迎えに行く段取りをする。
30分程経っただろうか。
アインの様子を見に行く。アインは薬を飲ませ終わった時と同じ姿勢のまま横たわっていた。
アイン…?
薄眼を開けた瞳に力が無い。
アイン??
体をさする。
アインはそれに応えて目を開けようとするが、非常に怠そうにグッタリしている。
もう限界だったのか?
薬の反応に体が付いて行かなかったのか?
アイン?アイン?
呼びかけにも頭を動かすのもしんどい様子。
抱き上げたアインは無抵抗で、体の力が抜けていた。
万事休すか。
アイン、まだだよ、お父さんが来るんだよ!!
ヒーターの前に籠を置いて、主人が使っていた毛布を敷き、アインを寝かせた。
アインの瞳には瞬膜が全体に出て来ていた。
ダメだ、持って行かれる!!
アイン!
アイン!
私は夢中で呼びかけた。
アインは私の声に反応して耳を傾け、重たい瞼をゆっくり開ける。
遅れて、瞳いっぱいに広がった瞬膜がゆっくりゆっくり開く。
瞳に力は無い。
焦点が合ってない。
引っ張られるように、またゆっくりと瞼が閉じて行く。
アイン、お父さん来るよ!
アインに会いに来るよ!
耳をピクリと動かし、また重たい瞼を懸命に開ける。
もう、引き戻すものは私の声しかないんだ。
アイン!
アインは強い子だ!
偉い子ちゃんだ!
背中をさすり、甲高い声で話しかける。
前足を曲げたまま、微かに動かす。
また、重たい瞼を頑張ってこじ開ける。
ダメだ、保たない。
もうダメだ。
アイン!
おかーさん出かけないよ!
アインの側に居るからね!
聴覚で反応しているアインに、泣き声で心配させたくなくて、ボロボロ泣きながら、高い声で話し続けた。
気を抜くと意識が持って行かれるのだろう。
アインは必死に目を開け続けようとし続けた。鳴く余裕は無い。
アインを撫で、声をかけ、意識を保たせながら主人の病院に電話し、外出準備を無理を言って急いで貰った。
お父さんに会いたいよね。
昨日あんなにアインは頑張ったんだから。
お父さんもアイン会いたいんだよ。
お父さんに会いたいよね。
昨日あんなにアインは頑張ったんだから。
お父さんもアイン会いたいんだよ。
会わせる、絶対。
義母にすぐさま電話し、叫ぶように言った。
「今すぐ私の代わりにタクシーで病院に行って!!」
アインは、体を動かそうとするがままならない。前足は曲げたまま微かに空を掻き、声かけをやめると目を閉じる。
お願い、まだ連れて行かないで。
私はテーブルにぶつかりながらバタバタと玄関の鍵を開け、主人がすぐ入って来れるようにした。
主人は間に合わないかも知れない。
せめて、1人では逝かせない。
側に居るよ。側に居るよ!
その度アインは目をこじ開けた。
どの位経ったのだろうか?
時間にして30分くらいだと思う。
その間は気が遠くなりそうな時間だった。
アインも私も必死だった。
外で足音がする。
すかさず叫ぶ。
「鍵開いてるから!!」
ヨロヨロの主人が、靴を脱ぎ切れぬまま、もんどり打って居間に入ってきた。
お父さん来たよ!!!
その姿を見たアインは、震えながら上半身を起こし、前足を籠のヘリに引っ掛けて、体を投げ出すようにベチッと音を立てて床に転がり、自力で籠を出た。
「あ゛い゛ん゛!!!」
グチャグチャの顔で主人が叫びながら駆け寄る。
するとアインは、
「アオーーーン!」
とびっくりするくらい大きな声で鳴いた。
最期に大きく鳴くという事は聞いた事がある。もう…
主人が泣きながらアインを抱きしめ、?茲ずりし、全身を撫でる。
「アイン、アイン、アイン…」
しばらくそうしていただろうか。
???
おもむろにアインは前足で空を掻き、体を反転させたい素振りを見せた。
主人が腕から降ろすと、アインはウミガメのように必死に這うようにして、テーブルの下に入っていった。
夫婦で固唾を飲んで様子を見守る。
アインは私達が見える様にテーブルの下から顔を出して香箱座りをし、体調を整えるかのように目を閉じ、自力で呼吸を鎮めようとしているように見える。
暫しの間その状態が続き、やがてアインは自力で立ち上がって、水飲み場まで行ってお水を飲んだ。
アインの体がお薬に勝った。
私達は泣いた。
主人がアインを抱き上げ、アインの好きな肩抱っこで窓の景色を見せてあげていた。
まだ目は見えていないが、多少光を感じているのだろうか。
「ゴロゴロ言ってるよ。」
アインの体にぴったりと耳を付けて、主人が言った。
良かったね、アイン。
お父さん、来たね。
アインも戻って来たね。
ふと気がつけば、家には飲み物すら無かった。
そう言えば、ここしばらく私は何も食べていなかった。
お腹が空く感覚すら無かった。
私はアインを主人に任せ、歩いてすぐのところに適当な飲み物とサンドイッチなどを買いに行った。
そして、救急病院への振り込みを済ませた。
ありがとうございました。お陰でアインと主人は会えました。
感謝の気持ちでいっぱいだった。
ほんの10数分の間であったが、一旦外に出て家に戻って、自宅で主人とアインの姿を見た時に、2人を会わせてあげられた事へ達成感のような、なんとも言えない安堵感の様なものが心に広がった。
この先、いつ何があるか分からないけど、今日2人が会えて良かった。本当に良かった。
「アインは強ぇーんだ。」
アインを撫でながら、主人がポツリと言った。
「ハルとアインを保護した時、本当にガリガリで小さかった。ダンボールに2匹を入れて家に連れて帰ったんだけどさ。ハルは観念してジッとしてたけど、アインはダンボールの隙間からずっと脱出しようとしてて。最後まで抵抗して諦めなかった。」
「アインは強ぇーんだ。」
主人はもう一度言った。
「こいつら、ママのお乳、ろくに飲めて無かったから。ガリガリでさ。俺なりに育ててきたけど、男だから。こいつらずっとママが欲しかったと思うよ。付き合った彼女はみんな、こいつらを可愛がってくれたけど、別れたら来なくなるじゃん。」
「拾ったの10代の時だから、別れたり新しい彼女出来たりする度に、可愛がられて、来なくなっての繰り返しになるじゃない。本当のママもちっちゃいのに居なかったし。だから、こいつらはずっと一緒にいてくるママが欲しかったんだと思う。」
「momingwayと結婚して、一緒に住んだ時のこいつらの喜びようって言ったら…。
もういいジジババなのに、子猫みたいになって…。」
主人が堪えきれず嗚咽を漏らす。
子連れで再婚した父親の告白のようだ。
親バカでもいい。似た者夫婦だ。
「俺が帰るまでアインは待っててくれるって信じる。おまえら、ママの言うこと聞くんだよ。ハル、俺のいない間、頼む。アインをお願い。」
名残惜しいが、病院に戻る時間だ。
無理言って出てきたのだから仕方が無い。
主人の入院はもうしばらくかかる。
私が留守を守る。
どんな結果でも、私1人でもアインを受け止める。
やるんだ。やるしかない。
腹が据わった気がした。
主人の入院はもうしばらくかかる。
私が留守を守る。
どんな結果でも、私1人でもアインを受け止める。
やるんだ。やるしかない。
腹が据わった気がした。


