脳にはいろいろな部位がありますが、
それぞれの部位による役割の違いはわかっているようでまだまだ未解明な部分が多いようです。


たとえば海馬が記憶に関わるということはよく知られた話ですが、
実際に海馬が正常な個体においてどのように記憶の形成に関与しているかは
まだわかっていないことも多くあります。


ここで、私の言い方が非常に曖昧な点が気になられたかもしれません。
こうした言い方をする理由は一重に研究のストラテジーによります。



海馬のヒトでの役割はある1人の重症なてんかん患者への治療から明らかになりました。
その患者は、幼いころの自転車事故が原因で重篤なてんかんを患いました。はじめは軽い痙攣のような症状を示すだけでしたが、成長するにつれて強直性間代性痙攣も引き起こすようになり、日常生活が困難になるようになりました。この患者を受け持った医師は他に打つ手がなく、海馬を含む側頭葉の一部分を切除する手術を行いました。すると、結果は良好でてんかんは治療されたが、その患者は新しいことを全く覚えることができなくなってしまいました。毎日顔を合わせる研究者に対して毎日はじめましてと挨拶をするのです。


この症例は世界で最も有名な症例といっても良く、その患者のイニシャルからH.M症例とよばれています。H.Mは手術を受けてから亡くなるまで毎日のように研究者に様々な課題を与えられ、脳の機能の研究を行われました。すると非常に興味深いことに、毎日顔を合わせる研究者の顔を覚えることはできませんが、ある手続き(ハノイの塔課題など)は身に付けることが出来ました。すなわち、記憶には種類があって、少なくとも海馬が担う部分とそうではない部分が存在することが示唆されたわけです。


今日ではさらにアルツハイマー病で初期に侵される領域が海馬であることも知られていて、
記憶に対して海馬が重要な役割を示すことは疑いようがありません。


ただ、実際に正常な個体において海馬がどのように記憶に関わっているのかを明らかにすることは
並大抵ではありません。

海馬がない時の機能を調べることと海馬の機能はイコールにはならないわけです。

ここが生物の研究の難しいところです。


私は海馬が専門ではありませんので、実際にどの程度海馬でわかっていないことがあるのかはわかりません。
H.M症例に関してもwikipediaをちょいちょい見ながら書きました。笑
ただ、私の雀の涙ほどの経験上、わかったように言われていることはたいていがわかっていませんし、特にヒトでの研究は侵襲的なアプローチができないこともあってほとんどわかっていないだろうと推定しました。

話10分の1で読んでいただければと思います。

要は、今日の話は脳の部位による機能の違いはたしかにあるだろうけど、
わかったように言われることのほとんどがわかっていないだろうということです。

だいぶいろいろと端折りましたのでまた次回お話できたらと思います。