好きだと嘘をついた。
「好きなんだろ?」
いわゆる『壁ドン』をされた状態で尋ねられる。
「友達としては好きかもしれないけどまだ・・・」
たじろぎながらも私は正直に答えた。
「好きなんだろ」
「だからまだ・・・」
彼は表情を変えずに私の言葉を遮った。
「好きなんだよ」
それはもはや質問ではないのだと悟った。
私のこれは恋愛感情なんだと認めるしかなかった。
静かに頷く私を見て彼は満足そうに笑った。
私はその顔を見て苦しくなった。
「今日は映画観に行くんでいいんだよな」
彼は私にそう言いながら歩き始めた。
「うん」
遠慮がちに答える私の手を彼は遠慮なく握った。
「・・・・・・」
いつもなら、人前では恥ずかしいからと嫌がるところだが、私は受け入れることにした。
彼は歩きながら振り返り、私の顔を見て優しく微笑んだ。
私も微笑み返す。私の笑顔は歪んでいないだろうか。
初めて会った時は表情の分からない人だと思った。でも、今になると思う。この人は表情に出やすいのだと。
だからこそ辛かった。先程の彼は間違いなく怒っていた。私が怒らせてしまった。
怖くはなかった。あれは彼の優しさだったから。
映画館に着き、チケットを買い、席に着く。
彼は会場が暗くなると静かに手を伸ばしてきた。
私はその手を優しく握る。
彼は恋人繋ぎになるよう手を握り直し、優しくぎゅっと力を入れた。
確かに手を握っているのだと確認するかのように、数分おきに軽く力を入れる彼。
私はそれに同じように応える。
彼は私を本気で愛してくれている。
私も・・・・・・。
映画館を後にし、私と彼はホテルへ行った。
彼は私に何度も好きだと言ってくれた。
私も好きだと返した。
彼は嬉しそうに笑い、そして辛そうな顔をした。
私は泣きそうになった。
彼は優しくしてくれた。
私が痛くないように気を遣ってくれた。
私は彼を感じながら理性が飛んでいくのを受け入れた。
彼は荒れた息遣いで私に好きだと囁く。
私は好きだと言えなかった。また、辛い顔をさせてしまうと思ったから。
彼も返事は望んでいないようだった。
好きだと何度も言葉にしながら、それは動きと共に大きくなっていった。
私は喘ぐことでそれに応えることしか出来なかった。
好きだよ。
私も言いたかった。
それじゃここで、そう言って振り返る彼。
私は短く、うん、とだけ応えた。
「今までありがとう」
彼は泣きそうな顔で私に言った。
「こちらこそ・・・」
わたしは涙を堪えられなかった。
「なんでお前が泣くんだよ」
と笑いながら頭に手を置く彼。
だって、と言いかけた私を彼がそっと制する。
「お前は好きなんだよ。俺じゃなくてあいつのことが。」
私は辛かった。私が好きなのは目の前にいる彼なのに。
けれど、それは今だけなのだと分かっていた。
私がもう会わないと言ったのだ。
これで最後にしようと。
私は他に気になる人が出来たからと。
私が別れを告げたのだ。
気になる人が出来た時点で彼とは一緒に居られないと思った。
このまま居たら私は彼のことを利用してしまう。
寂しい時だけそばにいて欲しいと、そんなわがままを言ってしまう。
だから、離れたかった。それを彼は分かっていた。
だから、彼は私に好きと言わせたかった。
お互いがお互いを諦めるために。
私は好きだと嘘をついた。
お互いがお互いを好きでいるのに。
私は彼と別れた。両想いのまま。