「明日デートしよう!」
いきなりの発言にシウォニヒョンが目を見開く。
「デートするでしょ」
「じゃなくて!ちゃんと待ち合わせしてデートらしいデートしよ」
「はぁ?」
「はぁ?じゃない。するの、しないの?」
一呼吸置いたシウォニヒョンが呆れたように溜息をつくけれど、そんなことにはかまっていられない。
というより、この際シウォニヒョンの意思は全く無視する事に決めた。
「…キュヒョナ、今日ここに泊まるんだよね?」
自分が寝転んでいたベッドを指差しながらシウォニヒョンが問う。
「うん。でもさぁ…」
なんていうかデートっていっても遊びの延長みたいな感じだったり、誰か一緒だったりで、恋人らしいデートってした覚えがないんだよね。
おまけに個々の活動も凄く忙しくて、そんなに会える時間も無くて。
だからこそなんとなく今がいいかなーと思ったんだ。思い立ったが吉日ってことで。
「デート…。デートねぇ…」
「なんだよ。不服?」
「いえ、とんでもございません」
芝居がかったセリフで肩をすくめてみせる。
「デートプランはシウォニヒョンが考えること!以上」
俺は言う事だけしっかり言うと彼の横にコテンと転がった。
「俺なの?」
心底呆れた顔のシウォニヒョンに俺はスペシャルな笑顔をお見舞いしてやった。
これで絶対、俺に逆らえないはず!
「よろしく」
「…はい」
翌日。
シウォニヒョンは鏡の前で寝癖の付いた髪と格闘している俺の後ろで優雅にコーヒーを啜って。
「待ち合わせするくらいなら一緒にここ出ればいいでしょ?」
「ダメ!待ち合わせするのがデートっぽくていいんじゃないか」
「はぁ、そう…」
バタバタと身支度を整えて部屋を出て行こうとした俺をヒョンが手招きする。
何?なんか忘れ物でもしたか?と彼の近くまで寄ると、掠めるようなキスをされた。
「新婚気分も味わえていいね」
にやにやと笑う頭をぺこんと一発殴っておく。
「いて」
「ばーか!」
べーと舌を出すとヒョンは笑って「また後で」とドアを閉めた。
実際、シウォニヒョンがどんなデートプランを立ててくるかかなり楽しみだったり。
俺とのデートだからって普段遊んでるのと対して変わらないような感じかもしれないけれど。
それなら、それでもいいと思ってた。
「デート」って響きがなんかくすぐったくていいかなって。
それから、待ち合わせの時間まで一人でぶらぶらと買い物してみたりして時間になるまでドキドキして。
待ち合わせ場所に着いたのは時間より少し早めだったけれど、俺は少し離れた場所から彼が来るのを待つ。
時間5分前。
彼は目印にしていた時計台の下にやってきた。
相変わらずオシャレな格好で柱にもたれてポケットから出した携帯を確認する。
辺りを少し見渡して小さく息を吐き出すと、ゆったりとした仕草でポケットに手を突っ込んだ。
やっぱり。目立つなぁと思う。
背が高いとか、そういう理由じゃないなにか。
…ちがうな。今日は…。
「ヒョン、ちゃんとデート仕様なんじゃない?」
思わずもれる独り言。
かっこいいんだ。
すっごく、かっこいい。
現に周りの女性に限らず男性ですらチラチラと彼を見ていく。
なんか、腹が立つなー、とか思った矢先。
ちょっと遊んでそうな女の子集団(って言っても3人くらいなんだけど)がちょっかい出してきた。
バカ女!それは俺のだ。触るんじゃねぇ!
ドカドカと近寄ると、あからさまにほっとした顔で俺の名前を呼ぶ。
「待ち合わせしてたのこの子?」
「やだー可愛いじゃない!」
「ねぇねぇ、一緒に遊びにいかない?」
行かねぇよ。俺はこれからデートなんだっ!
しかも強引にヒョンの腕をとった女がいい根性してる。
自分の胸を彼の腕に押し付けてた。
「おねーさん!」
精一杯にこやかに笑った俺はそりゃもうヤキモチ全開の言葉を繰り出す。
後で何言われたって知ったことじゃない。
俺は今「ゲーノー人」じゃないからな。
「その重そうな胸。人の腕に乗っけてないでどけてくんない?」
「…なっ!」
「キュヒョナ!」
ヒョンの方が驚いて名前を呼ぶけれど。
反対の腕を取ると俺は思い切り引っ張って走り出す。
なんか背中から女の子独特の高い声の罵声がとんでくるけど。
しばらく走って落ち着くとヒョンがゲラゲラ笑い出した。
「…うわー…キュヒョナ、大胆」
「うるさい」
「なんか言われたらどーすんの」
「それは自分が色仕掛けで男引っ掛けてましたーって宣言しないと繋がらない話だろ?それでもいいならいいんじゃない?言わせとけば」
くくくっとヒョンは笑い続ける。
「俺も引っ張られたとき思い切り振り払っちゃったしなー」
「その前にあんなことされてんじゃないよ」
「あー…妬いてくれてんだー。キュヒョナ可愛いなぁ」
はぁ…。バカだ。この人。
だけど、ぎゅって手を握られて。
顔を覗きこまれて、にっこり笑われる。
それだけで気分が良くなる自分に苦笑い。
「映画観にいこ」
「映画?」
「うん。デートだから」
「…何観るの?」
「あ。俺、あれ観たいんだよねー」
あれ。意外…シウォニヒョンって結構強引なタイプなのかな。
相手に観たいのがあるかどうかって聞かないんだ。
いつもは二人で観たいのを一緒に観る感じだけど。
今日はヒョンに全部任せてるから。
「じゃあ、観に行く」
「よし。いこ」
繋いだ手をブンブン振って歩くヒョン。
なんか子供みたいだなぁってちょっとおかしくなった。
やっぱりいつもとちょっと違う。
クールなはずのヒョンはなんだか可愛いし、俺は俺でちょっと素直だ。
結局二人して映画に夢中になって。
終わった後にカフェでお茶しながら、映画の話で盛り上がる。
凄い映像が綺麗で、こういう細かい映像に凝ってるとこが好きだなーとか、出てる役者の演技の凄さだとか。
ひとしきり話して、次はどうするのかなーって思う。
時間はまだある。
普段のヒョンとなら、このまま飯食って酒飲んでってことになるんだけど…。
「キュヒョナどこか行きたいとこある?」
「んー…別に。ヒョンに任せる」
「よっし」
立ち上がったシウォニヒョンはすっと手を出した。
「じゃあ付き合って」
それからずっと手をつないだまんまで。
行き先も言わずにヒョンはニコニコと笑っている。
電車に乗って、歩いて(よくよく考えたらそんなことも普段しないし)
連れられてきた場所。
入り口でチケットを買ってその不思議な形の建物に入っていく。
人もまばらな円形に並べられた映画館のようなシートに座るとヒョンはシートを思い切り倒した。
俺もそれに倣ってシートを倒す。
真っ暗になった部屋。
ドーム状の天井に写し出されるのは圧倒的な数の星だ。
心地よい声で天体の説明が始まり、今見える星座だとか、何時ごろにどこに見えるのがどの星座だとか、その星座を形作る星の名前だとか。
こんなところにプラネタリウムがあるなんて知らなかった。
『では、地上の明かりなどで私達の肉眼では見えない全ての星をこの空に映し出してみましょう』
その声とともに天井を埋め尽くさんばかりの無数の星が現れる。
あまりの数とその圧倒的な美しさに吸い込まれそうだ。
「凄い…」
無意識のうちに出た呟きにヒョンは嬉しそうに「だろ?」と答えた。
肉眼で見えない星がこんなにもたくさあるってことは知ってはいても実際に見るとこはできないのだから、その星たちが放つ光を知ることなんてなかった。
プラネタリウムを出ても頭がぼんやりとしたままで、なんか宇宙の凄さに圧倒されたっていうか、あてられた感じ。
「キュヒョナ、大丈夫?」
「…うん」
「じゃあ、もう少し付き合って」
指を絡めるように手を繋いだヒョンが笑って、科学館を出ると建物の横の坂道を俺を引っ張って登っていく。
坂道の途中に小さな児童公園があって、迷う様子もなくヒョンはその公園に足を踏み入れた。
入り口から奥に進むと安全性を少しばかり疑うような破れた低いフェンスが張られているだけの急勾配。
そこから見える眼下の景色に思わず息を呑んだ。
さっきの星を地上にぶちまけたような夜景。
「…星だ」
「キュヒョナなら、そう言ってくれると思った」
ヒョンが小さく笑って光を見詰めながら言う。
「あの灯りに消されてしまう星になんてならないって、ずっと思ってた」
彼の顔を見る。
「もちろん好きだから今を選んだけど、いい事ばかりじゃなくて辛くてどうしようもなくなった時に、あのプラネタリウムを見つけてたんだ。暫く通っているうちにここを見つけた。この景色を見たらいろんなことがなんか急に楽になったんだ。だからここは俺の大事な場所」
「…そう」
地上の星はきっと自分たちが肉眼で見える星になれるってことを知らない。
ここではその光を感じることができる。
その光を見つけられる場所がある。
いつか誰かが見つけてくれる。
だから…人は努力するんだ。
「今まで誰にも教えてない」
「…うん」
「でも、昨日キュヒョナがデートプラン考えろって言ったときにさ。色々考えて、行きたいトコとかないのかなって考えて。…でもキュヒョナが俺に任せるって言ったんだから俺は自分が見せたいものを全部見せようって思った」
「…ん」
俺の顔を見たヒョンが困ったように微笑んだ。
「…なんで、泣いてるの?」
「わからない」
わからないけど、なんか気持ちがいっぱい、いっぱいになって。
感動とか、嬉しさとか、優しさとか、なんか暖かいものでいっぱいで。
ふいに『ああ、今キスしたいな』と思った。
シウォニヒョンとしたい。
してもいいかな。
そんなことを考えているうちに腕を引き寄せられて、ヒョンの腕の中に納まった。
「シウォ…」
名前を呼び終わらないうちに唇を塞がれる。
シウォニヒョンの唇で。
離れたヒョンが照れくさそうに笑う。
「あの時…この場所を見つけたから。俺はお前に会えたんだ」
「そうか…よかった」
「キュヒョナ?」
「ヒョンがここを見つけてくれてよかった」
今、貴方がキスをくれる。
それが今の俺の全てだなんて教えないけど。
「…また、デートしような?」
「うん。…ヒョン」
「何?」
「ありがとう」
何に対してだとかそう言う事は一切聞かないで俺の大切な人は「こちらこそ」そう言って笑うから、今度はこっちが小さく笑う。
そうして最大限に甘やかすから、俺はどんどん欲張りになるんだ。
「どうしよう…」
「何が?」
「今、凄く欲しいものがあるんだ」
「…何?叶えてあげられる物なら引き受けるけど?」
ほら、そうやって甘やかす。
「シウォニヒョン」
「うん」
「だから…。あんたが欲しいんだって」
驚いた顔で見つめられて、恥ずかしくなって俯いたらきつく抱きしめられた。
「それは大変だ。キュヒョナの気が変わらないうちに早く帰ろう」