今日はスタジオ撮影。
涼しい場所での撮影は素直にありがたいと思える程に外は暑い。
ユノの姿を探しているとボアがユノならまだ来てないわよ、と笑った。
「映画の撮影と平行してるからねぇ」
「あーホラー映画ですか」
「そう。主役じゃないし、ドラマの撮影考慮してもらってるとはいえ平行するの大変だよね」
飲む?と差し出された紙コップのコーヒーを啜りながらチャンミンはため息をついた。
「お疲れ?」
「僕が疲れたなんて言ったらユノさんに悪いじゃないですか」
「なんで?比べる必要ないじゃない。ユノは好きで楽しくてやってるだけかもしれないし、チャンミンは慣れないこと頑張ってるんだったら環境も立場も違うんだから比べるほうがおかしいわよ?」
なんというか。
ボアが人として尊敬されるのはこういうことをさらりと言えてしまうからなんだろうなと改めて思った。
「…いや、僕あと一週間でクランクアップだから。なんだか寂しいなと思って」
「ドラマおわっても別に会いたくないと思ってないなら、いつでも連絡してよ」
「ありがとうございます」
「って、きっとユノも思ってるわよ」
ふふっとわらってさらりと言った。
そうあればいいけれどと、思いつつ頷いたところでスタジオの入り口が騒がしくなる。
「お疲れさまー」
「お疲れ様です」
いつもの衣装にきっちりとメイクも施されてはいるけれど…
「外、大分暑いんですね」
こちらに足を向けたユノにサーバーから注いだ冷水を手渡しながらチャンミンがそう言うとユノが首を傾げる。
「うん。すっごい暑い。ってか、なんで?」
「顔、赤いです」
「えー。着替えとメイクの間に涼んだんだけどな。それに他に誰もそんなこと言われなかったし」
掌で自分の頬の熱を確かめるように押さえる。
「焼けたのかも?」
「かなぁ」
ペタペタと顔を触るから慌てて手首を捕まえる。
せっかくメイクしたのにやり直しになったらただでさえキツキツのスケジュールで動いているだろうユノの時間がまた減ってしまうのではないだろうか。
そんな心配を具現化したようにその手首が熱くて声を落として聞いてみる。
「ユノさん。熱、あるんじゃないですか?」
「大丈夫だよ。外のロケだったからじゃない?」
そっと手を外して笑う。
多分本人が撮影を続けられると判断出来ている「大丈夫」で体調が「大丈夫」な訳ではないだろう。
それならチャンミンが口を出せることではない。
「辛くなったら言って下さいね。熱が無かったとしても軽い熱中症とかの可能性だってありますから」
少し驚いたように目を瞪ってから、ユノが微笑む。
「わかった。ありがとう…うわっ!」
小さく悲鳴を上げたユノの後ろからひょっこりと顔を見せたボアがにんまりと笑う。
「イチャイチャしてんじゃないわよ」
「イチャイチャって…っていうか、なにするんだよ」
「外が暑かったっていうから」
ユノの首筋に濡れたタオルを押し当ててそう言う。
さすが。
この人にもバレてるんだろうな。
「心臓に悪い…」
文句をいいながらも素直にタオルを巻いたままにしているのを見て、多少強引くらいの方がいいのか、と一人納得した。
「ボアさんお願いしまーす!」
撮影スタッフから呼ばれたボアが返事をして通りすがりにチャンミンの肩を叩いて行く。
控えスペースに二人だけになったところでチャンミンが切り出した。
「ところで昨日メッセージで来てた頼み事って…」
「あー…まだまだ先の話なんだけどさ」
「先ですか?」
「ん。今撮ってる映画の完パケ出来たら一緒に観てくれないか?」
なんだ、その可愛い頼み事は。
「えっと…それ返事保留でもいいですか?」
多分予想外の返事だったのだろう。
ユノは不思議そうな顔でこちらを伺う。
「ダメならダメでも…」
「いえ。ダメというか…今僕自身の問題で自分の中で色々あってですね…僕としては一緒に観れるなら観たいんですよ。あんなに貴重なユノさん見れる機会もなかなかないので」
「…なんだかよく分からないけど…大変だな」
「ええ。大変なんです。なので保留でお願いします」
「んー。わかったー」
多分全然納得はいってないだろうけれど、チャンミンの必死さは伝わったようだ。
こちらが困らないように引いてくれたのだろう。
「…あー…もぅ…。ユノさんのそういうところ本当に好きです」
「えー?どういうところだよ」
あははと笑って水が無くなった紙コップをクシャリと潰すとゴミ箱に投げ込む。
「ユノさん、チャンミンさんお願いしまーす」
スタッフの呼び込みに二人でセットに入るとボアが上司の顔で待っていた。
この人が自分の上司なのも、ユノが自分のバディーなのもあと数回の撮影だけだと思うと気合が入る。
「お願いします!本番5.4…」
スタッフが指を折ってカウントをとる。
あと数回のうちの今日を無事に終えるため集中することにした。