シウォンの仕事が一段落したのは本当のようで、城内でその姿を見かけることが格段に増えた。
…それにしても王子らしくない。
中庭で見かけた時には庭師と何やら談笑しつつ手には花ばさみ。
食堂近くで見かけた時には食器の乗ったワゴンを押して、使用人が慌てた様子でそれを追いかけていて、思わず笑ってしまった。
中庭で見かけた時には庭師と何やら談笑しつつ手には花ばさみ。
食堂近くで見かけた時には食器の乗ったワゴンを押して、使用人が慌てた様子でそれを追いかけていて、思わず笑ってしまった。
「丁度良かった。はい、どうぞ」
笑い声に振り返ったシウォンがキュヒョンにバラの束を手渡す。
女性ではなくても感嘆するくらいに色とりどりのバラの花。
小ぶりなその花束を受け取るとシウォンはそのバラの花の説明をし始めた。
女性ではなくても感嘆するくらいに色とりどりのバラの花。
小ぶりなその花束を受け取るとシウォンはそのバラの花の説明をし始めた。
「多分他の国にはない品種なんだ。よかったら部屋にでも飾って」
「ありがとうございます」
「うちの庭師が腕のいい職人でね。新種もいくつか作ってるんだけどどれも綺麗だよ。この青いバラはお茶にいれるといい。安眠効果があるのと…」
「ありがとうございます」
「うちの庭師が腕のいい職人でね。新種もいくつか作ってるんだけどどれも綺麗だよ。この青いバラはお茶にいれるといい。安眠効果があるのと…」
観たい夢がみれるって噂がある、そう言ってシウォンは肩を竦めた。
確かバラは青い色を出すのはほぼ不可能だと聞いたことがあったのだけど。
そう呟きながらキュヒョンがしげしげとその花を眺めているとシウォンは小さく笑う。
確かバラは青い色を出すのはほぼ不可能だと聞いたことがあったのだけど。
そう呟きながらキュヒョンがしげしげとその花を眺めているとシウォンは小さく笑う。
「探求心が強いんだね。勉強熱心なタイプ?」
「そんなことはないです。興味があることに関しては別だとは思いますけど」
「らしいね」
「そんなことはないです。興味があることに関しては別だとは思いますけど」
「らしいね」
そう言って笑うシウォンに胸の辺りがざわつく。
らしい、ってなんだ?
レイナの事をこの人は何も知らない。
今話しているのはキュヒョンでレイナではないのだ。
シウォンにキュヒョンらしいところを指摘されて、それをレイナだと思われているのはレイナにもシウォンにも失礼だと思う。
確かに性格も似ているからレイナも同じタイプではあるけれど。
そうすることで治まるものでもないとは解っていても、思わずうずうずとする胸の辺りを手で押さえる。
無意識に唇を少し尖らせるように俯くと、柔らかく髪を撫でられた。
らしい、ってなんだ?
レイナの事をこの人は何も知らない。
今話しているのはキュヒョンでレイナではないのだ。
シウォンにキュヒョンらしいところを指摘されて、それをレイナだと思われているのはレイナにもシウォンにも失礼だと思う。
確かに性格も似ているからレイナも同じタイプではあるけれど。
そうすることで治まるものでもないとは解っていても、思わずうずうずとする胸の辺りを手で押さえる。
無意識に唇を少し尖らせるように俯くと、柔らかく髪を撫でられた。
「シウォン王子は何も知らないのに『らしい』って言われても…」
「そう?君が思ってるよりは知ってると思うよ?」
「そう?君が思ってるよりは知ってると思うよ?」
例えば…。
そう言うとシウォンはキュヒョンの手を取ってその掌にバラの花びらを一枚乗せる。
そう言うとシウォンはキュヒョンの手を取ってその掌にバラの花びらを一枚乗せる。
「これが弱さだったとしたら」
今度はギュっと手を握らされた。
「それを隠して強さを掲げる」
もう一度開いた掌に同じように花びらを一枚。
「これが我儘だとしたら」
同じようにグッと閉じられた手をシウォンが包んだ。
「それを隠して優しさを掲げる。だからこそここに居るんじゃないの?無理なんてしなくてもいいし自分自身に我儘になることも時には悪い事じゃないよ」
その言葉に鼻の奥がツキンと痛む。
この人はどうしてこんなに欲しい言葉をくれるのか。
この人はどうしてこんなに欲しい言葉をくれるのか。
「王子だって我儘なんて言わないでしょう?」
シウォンは楽しそうに笑うとキュヒョンの手をそのまま軽く叩いて離した。
「俺の我儘が通ったから君がここに居るんだよ」
「…さすがに魔法の国ですねぇ」
「唐突だね。魔法なんて信じてる?このバラの青さの事?」
「唐突だね。魔法なんて信じてる?このバラの青さの事?」
不可能だと思われていた青いバラ。
けれどそれは技術的なもので作られた物。
魔法はそんな技術なんてものではどうにもならない物をあっさりと変えてしまう力。
シウォンはキュヒョンの欲しい言葉をいつだってさらりとくれる人だ。
困った。
この人は自分に簡単に魔法をかける。
そしてその魔法は少しずつ効いてくるのだ。
けれどそれは技術的なもので作られた物。
魔法はそんな技術なんてものではどうにもならない物をあっさりと変えてしまう力。
シウォンはキュヒョンの欲しい言葉をいつだってさらりとくれる人だ。
困った。
この人は自分に簡単に魔法をかける。
そしてその魔法は少しずつ効いてくるのだ。
夜になって食事も済ませ、いつもどうりに部屋に戻るとそこにはあまりに見知った人物が窓辺の椅子に座っていた。
「レイナ!?」
「ちょっと、大きな声を出さないで」
「ちょっと、大きな声を出さないで」
慌てて口を押えても手遅れだとは解っていても人間というものは不思議とそんな無駄な動きを自然としてしまう。
今までどこにいたのかとか、どうしてここに居るのかとか聞きたいことは山ほどあるのに、とりあえず口を吐いて出た言葉にレイナは目を丸くする。
今までどこにいたのかとか、どうしてここに居るのかとか聞きたいことは山ほどあるのに、とりあえず口を吐いて出た言葉にレイナは目を丸くする。
「とにかく無事でよかった」
「そうやって、また私の心配なの?もっと怒るとかすればいいのに」
「怒ってはいるよ。この状況なんだから。でもそれより俺は早くキュヒョンに戻りたいんだ」
「そうやって、また私の心配なの?もっと怒るとかすればいいのに」
「怒ってはいるよ。この状況なんだから。でもそれより俺は早くキュヒョンに戻りたいんだ」
レイナは諦めたように溜息を吐くと、肩を竦めた。
「それで王子はどんな人?」
その問いにキュヒョンはここに来て学んだ事や、自分が感じたことを話し始める。
全てを話して教えて伝えるに一晩では多分足りない。
けれど体調不良で寝ているとでも言えば、明日一日は放っておいてもらえるだろう。
ジョンス辺りは心配して声をかけてくるくらいはするかもしれないが。
この縁談は申し分ない縁談だ。
レイナには幸せになってもらいたい、もちろんシウォンにも。
全てを話して教えて伝えるに一晩では多分足りない。
けれど体調不良で寝ているとでも言えば、明日一日は放っておいてもらえるだろう。
ジョンス辺りは心配して声をかけてくるくらいはするかもしれないが。
この縁談は申し分ない縁談だ。
レイナには幸せになってもらいたい、もちろんシウォンにも。
「それでいいの?」
唐突に聞かれてキュヒョンは何のことかと目の前の自分とそっくりの顔を見た。
やっぱり似てはいても全然違う。
背は高いけれどゆるりと下がった肩は華奢に見えるし、頬だって柔らかそうだ。
シウォンの隣に立っていたらさぞかし絵になるだろうと思う。
ここに居るべきなのは自分じゃない。
やっぱり似てはいても全然違う。
背は高いけれどゆるりと下がった肩は華奢に見えるし、頬だって柔らかそうだ。
シウォンの隣に立っていたらさぞかし絵になるだろうと思う。
ここに居るべきなのは自分じゃない。
「本当にいいのね?」
「何が?」
「私がこの国に嫁ぐこと」
「…最終的にはレイナがきめることだよ。それでいいって言ってくれてる」
「私じゃなくてキュヒョンが、よ。あなたが私がここで幸せになれるというのなら間違いないと思うし、どうせどこかに嫁がなくてはならないのならこの国はいい国だと思うけど。けど、私はあなたに幸せになってもらいたいの」
「何が?」
「私がこの国に嫁ぐこと」
「…最終的にはレイナがきめることだよ。それでいいって言ってくれてる」
「私じゃなくてキュヒョンが、よ。あなたが私がここで幸せになれるというのなら間違いないと思うし、どうせどこかに嫁がなくてはならないのならこの国はいい国だと思うけど。けど、私はあなたに幸せになってもらいたいの」
レイナの言葉の意味がよく理解できない。
双子だからなのか今までは話さなくても分かり合えることの方が多かったのに。
余程難しい顔をしていたのか、レイナも同じような表情を作るとまた大きく溜息を吐かれた。
双子だからなのか今までは話さなくても分かり合えることの方が多かったのに。
余程難しい顔をしていたのか、レイナも同じような表情を作るとまた大きく溜息を吐かれた。
「わかった。じゃあ、そこで見てなさい」
レイナが立ち上がってドアに向かう。
扉を押し開けると同時に風とともに大量のバラの花びらが部屋に雪崩れ込んできて腕で顔を覆った。
むせかえるほどの香り。
風が収まって腕をどけると、そこには真っ白なドレスを身に纏ったレイナとシウォンが立っていた。
こんな不可思議な状況にキュヒョンは「やっぱり魔法使いの国だけはあるな」と考えてそんな自分が可笑しくなる。
扉を押し開けると同時に風とともに大量のバラの花びらが部屋に雪崩れ込んできて腕で顔を覆った。
むせかえるほどの香り。
風が収まって腕をどけると、そこには真っ白なドレスを身に纏ったレイナとシウォンが立っていた。
こんな不可思議な状況にキュヒョンは「やっぱり魔法使いの国だけはあるな」と考えてそんな自分が可笑しくなる。
「キュヒョナもこっちにおいで」
シウォンが微笑んで手を伸ばす。
「ここで、見てろっていわれたから」
「誰に?」
「誰に?」
レイナを見ると彼女は肩を竦めて微笑むだけだ。
「そこで見てるだけ?ここに来て祝ってはくれないの?」
「祝う?」
「祝う?」
周りを見渡してやっと気づく。
婚礼の儀だ。
シウォンが幸せそうに笑うのなら、レイナが幸せになれるのなら、二人の元へ行って祝いの言葉を贈らなければならないのに。
上手く言葉に出来ないこの焦燥感はなんなのか。
婚礼の儀だ。
シウォンが幸せそうに笑うのなら、レイナが幸せになれるのなら、二人の元へ行って祝いの言葉を贈らなければならないのに。
上手く言葉に出来ないこの焦燥感はなんなのか。
「…シウォン王子」
「何?」
「レイナが…好きですか?」
「もちろん」
「だったらレイナを幸せにして、ください」
「キュヒョナは?」
「え?」
「君は幸せにならなくていいの?」
「俺は…」
「何?」
「レイナが…好きですか?」
「もちろん」
「だったらレイナを幸せにして、ください」
「キュヒョナは?」
「え?」
「君は幸せにならなくていいの?」
「俺は…」
幸せだと、すぐに言葉にできなかった。
幸せだとは思っている。
出来損ないの自分に家人は普通に接してくれた。
自分の能力の足りなさを双子のレイナのせいではないのかと謂れもない噂のせいで肩身の狭い思いをさせた彼女ですら自分の味方でいてくれた。
けれどどんなに能力不足でも国の掟として王家一族の男子は王位継承権が下でも国を出られない。
これからもあの国でこの身が土に還るまで。
魂が空に戻るまで。
幸せだとは思っている。
出来損ないの自分に家人は普通に接してくれた。
自分の能力の足りなさを双子のレイナのせいではないのかと謂れもない噂のせいで肩身の狭い思いをさせた彼女ですら自分の味方でいてくれた。
けれどどんなに能力不足でも国の掟として王家一族の男子は王位継承権が下でも国を出られない。
これからもあの国でこの身が土に還るまで。
魂が空に戻るまで。
「自分に我儘になってもいいんだよ?」
シウォンが笑ってキュヒョンの手を取ると傍に引き寄せる。
「キュヒョナはどうしたい?」
我儘を言ってもいいのなら。
言うだけなら。
言うだけなら。
「自由になりたい」
その言葉にシウォンは今までに見たことがない程楽しそうに微笑んだ。
「君がそう望むのなら、俺が叶えてあげるのに」
そう言った彼をどこからか舞って来たバラの花びらが覆い隠した。
だめだ。
その人を連れていかないで。
手を伸ばしてシウォンの手を掴んだはずなのに。
風が収まった時には周りは何もない真っ白な景色で、握った手の中に感じる違和感に手を開くと掌にはバラの花びらが二枚あるだけだった。
だめだ。
その人を連れていかないで。
手を伸ばしてシウォンの手を掴んだはずなのに。
風が収まった時には周りは何もない真っ白な景色で、握った手の中に感じる違和感に手を開くと掌にはバラの花びらが二枚あるだけだった。
瞼に感じる明るさにゆっくりと眼を開ける。
見慣れ始めた天井にほっと息をはきだした。
見慣れ始めた天井にほっと息をはきだした。
「…夢…?」
ベッドを降りて、掌をぼんやりとみる。
バラの花びらはないけれど、何かがそこにあるような感覚は残っていて手を閉じたり開いたりしているとノックの音とともに現れたチャンミンが尋ねる。
バラの花びらはないけれど、何かがそこにあるような感覚は残っていて手を閉じたり開いたりしているとノックの音とともに現れたチャンミンが尋ねる。
「どうかした?調子でも悪いとか?」
「悪くはないけど」
「じゃあ、何」
「悪くはないけど」
「じゃあ、何」
キュヒョンを真似て手を開いたり閉じたりしながら首を傾げるチャンミンに笑って。
「夢がさ」
「夢見が悪かった?」
「悪い訳じゃないんだけど、モヤモヤするっていうか…」
「夢見が悪かった?」
「悪い訳じゃないんだけど、モヤモヤするっていうか…」
自分でもどういう感情なのか分からないものが胸にあってなんとなく気持ち悪い。
「とりあえず話してみる?すっきりはするかもしれないけど」
チャンミンが椅子を持ってきて座ると足を組んで笑う。
心配してくれているのか面白がっているのかは分からないが、とりあえず気にはしてくれているらしい彼に夢の話をしてみてもいいかとキュヒョンはゆっくりと話し始めた。
心配してくれているのか面白がっているのかは分からないが、とりあえず気にはしてくれているらしい彼に夢の話をしてみてもいいかとキュヒョンはゆっくりと話し始めた。