数十分後...

ゆめタウンのテラスに友理香とゆう以外の

メンバーが集まる。

美結「三連休のド真ん中だから人多いなぁ」

トマト「今日は何するん?」

美結「昨日言った専属の作曲家の紹介」

トマト「マジで専属?」

美結「今から来るよ」

葵「専属の方も見つかって良かったねˆ ˆ」

美結「...うん」

彩花「ドキドキ...」

美結「俺も!楽しみ!」

彩花「ˆ ˆ」

葵「...」

そこに...

「こんにちは〜」

美結「あっ!来た」

こちらに歩いてくる高身長の眼鏡の高年女性。

トマト「あの人?」

美結「うん」

美結「和子ちゃん!待ってたよ」

トマト「...なんでちゃん付け?」

葵「初めましてˆ ˆ」

彩花「初めまして...!」

赤松「はじめまして〜、赤松です👐」

赤松「美結ちゃんがお世話になってます❤️」

トマト「...知り合い?」

美結「うん」

葵「そうなんだね」

トマト「へー...作曲家?」

赤松「いやいや、普段は配送の仕事」

トマト「違うじゃん」

美結「合ってるよ」

赤松「一応、作曲もやってます♪」

葵「あの曲も赤松さんが作られたのですか?」

赤松「そうよ」

葵「とても素敵です!」

彩花「すごい...!」

美結「だろ」

赤松「ありがと♪趣味だけどね😘」

トマト「友理香ちゃん来たよ」

美結「おっ!友理香ー!」

友理香「ごめん💦遅くなった!」

小走りで向かってくる友理香。

赤松「こんにちは〜♪」

友理香「こんにちは😊」

美結「専属の作曲家だよ」

友理香「あっ...初めまして!」

友理香「よろしくお願いします🙇」

赤松「よろしく😉」

赤松「これで全員?」

美結「いや、あと一人」

美結「...アイツまだLINE既読してねえ」

美結「ナメてんな」

赤松「(笑)」

赤松「まだ揃ってないなら」

赤松「ちょっと夜ご飯の買い物してくるから」

赤松「揃ったら電話して」

美結「はーい」

赤松は買い物に向かう。

葵「春日部さんも来てないね」

美結「愛梨は脱退した」

葵「えっ、そうなの...?」

美結「俺にアイドルは向いてないって」

彩花「そうだったんだね...」

美結「俺もそう思うよw」

美結「愛梨は家で愛猫とまったりが向いてる」

トマト「最初から乗り気じゃなかったよな」

美結「うん」

美結「まぁ、6人で活動やっていこ」

美結「...5人になるかもしれないけど」

トマト「ww」

美結「ゆうは来なかったら強制脱退にするぞw」

美結「マジで既読しないとか論外」

葵「何かあったのかな...?」

美結「...」

美結はゆうにLINE電話を発信する。

(♪~)

(ガチャッ...)

美結「あっ」


[LINE電話]

美結「もしもし?」

ゆう「もしもーしw」

美結「今、何してんの?」

ゆう「ROUND1来てるw」

美結「...LINEのグルチャ見た?」

ゆう「見てない!」

美結「通知ONにしてた?」

ゆう「してない!」

美結「お前、強制脱退な」

ゆう「嫌だ!!」

(ガチャッ)


美結はLINE電話を切った。

トマト「...」

美結「やっぱ遊んでたわ」

美結「ROUND1に来てるって」

トマト「でもさ、昨日お前」

トマト「何も言ってなかったじゃん」

トマト「明日活動あるって」

美結「言ったよ」

美結「明日、専属の作曲家を紹介するって」

トマト「でもさ、時間までは決めてなくね?」

美結「...そうだけど」

美結「LINEの通知ONにしてって言ったのに」

美結「活動を遊びだと思ってんのか?」

美結「いいや、もうやろ」


美結達はミーティングを始める。

美結「Dear friends!」

美結「改めて、専属の作曲家を紹介する」

美結「はい、どうぞ」

赤松「皆さん、初めまして😘赤松です♪」

赤松「よろしくお願いします〜」

葵達「よろしくお願いします」

美結「赤松さんは俺の知人でもある」

赤松「一緒に頑張っていきましょうね🙂」

美結「赤松さんに質問ある人?」

トマト「はい」

美結「挙手して」

トマト「学校かよ」

トマト「はい!」(挙手をする)

美結「どうぞ」

トマト「本当に無料なんですか?」

赤松「はい、無料です」

トマト「マジか」

友理香「それは嬉しい...」

赤松「あ、でも売り上げ次第では」

赤松「少しギャラを♪」

赤松「まぁそれはウソだけど」

美結「他に質問ある人」

友理香「自分は特に無いかな...」

彩花「大丈夫です」

葵「僕も大丈夫だよ」

美結「はい!」(挙手をする)

赤松「どうぞ」

美結「著作権ください」

赤松「あげる」

美結「やったーw」

友理香「え!いいんですか...?」

赤松「作曲が本業なら著作権はあげないけど」

赤松「趣味なので(笑)」

友理香「え〜...ありがたい...」

葵「ありがとうございます!」

トマト「じゃあさ、次の新曲作ろうや!」

美結「昔の歌詞を仕上げてからね」

美結「"ダナ思考☆パラダイス"を仕上げたから」

美結「後は...どの歌詞にしよう」

美結「何の歌詞を作ったのかも憶えてない」

赤松「書き出してみたら?」

美結は昔の曲を思い出してスマホに書き出す。


『ああ、美しきダナ思考』(2017年度)

ああ...美しいよ ダナ思考

ボーイッシュ同士愛し合おう

ほら、王子様と王子様の世界


百合の花園で一本の薔薇をくわえ

キスをしよう 二人で


愛おしいよ ダナ思考

ああ...ダナ思考


『世界をダナ思考に染め上げろ』(2017年度)

男と女 ガールズラブ ボーイズラブ

よりも ボーイッシュ×ボーイッシュ


ダナ思考に染まれよ 酔いしれろ

ボーイッシュ同士愛し合おうぜ


さぁ、そこのボーイッシュ

魅惑の世界においでよ ほら!


トマト「懐かしいな」

美結「やっぱダナ思考っていいよなぁ///」

美結「...俺もあの人と」

美結「ボーイッシュラブしたい」

美結はさり気なく目の前の葵に視線を向ける。

葵「...」

一瞬、美結に目を合わせる葵だが

察していないかのように視線をそらす。

美結「...」

トマト「...」

友理香「好きな人いるの?」

美結「うん」

その相手は葵だと分かっているトマトは、

チャンスを活かそうとする。

トマト「このメンバーの中にいる?」

美結「...うん」

友理香「え、誰?」

美結「...」

もし、葵に気が無かったらと

反応を恐れる美結は俯いて袖を触る。

トマト「...」

トマト「葵ちゃん!誰だと思う?」

美結「...っ」

葵「え?」

トマト「美結の好きな人」

トマトは葵に自分だと言わせようとした。

葵「...うーん、分からない😅」

美結「っ...」

その言葉に期待は裏切られ、

美結の心底は釘に強く打たれる。

トマト「...」

トマト「教えてあげる」

トマト「美結の好きな人は...」

美結「もういい!」

トマト「ハッキリしろよ!もう」

トマト「このメンバーの誰かって」

トマト「分かってんだからさ」

美結「...分かった、言う」

美結「俺の好きな人は彩花だよ」

トマト「...は?」

彩花「えっ...」

彩花は驚いて止まる。

友理香「...そうなの?」

美結「そうだよ」

美結「高校の頃に付き合って別れたけど」

美結「今も好きだったんだ」

葵「...」

彩花「...そうだったんだ」

彩花「ごめんね...分からなかった...」

美結「だから、もう一回付き合おう」

彩花「...取り敢えず、今は活動中だから」

彩花「後で話してもいいかな?」

美結「うんˆ ˆ」

トマト「...」

赤松「ロマンスタイムは終わった?」

美結「終わった!」

美結「で...どこまで話してたっけ?w」

赤松「その歌詞で曲を作るの?」

美結「あっ、そうそう!お願い!」

赤松「曲調は?」

美結「えーと..."ああ、美しきダナ思考"は...」

美結はこの後も葵に視線を向けず、

口も聞かなかった。


赤松「じゃ、二曲仕上げますね〜」

美結「お願いします!」

葵「よろしくお願いいたしますˆ ˆ」

彩花「よろしくお願いします」

友理香「よろしくお願いします🙇」

赤松「は〜い、またね〜✌️」

赤松は帰って行く。

友理香「もうこんな時間か...」

友理香「自分もそろそろ電車乗るね」

美結「了解、バイバイ!」

友理香「またね!」

トマト「バイバーイ」

美結「...」

美結「彩花、あっちで話そう」

彩花「うん」

美結は彩花の手を引いて去ろうとすると...

葵「またねˆ ˆ美結、髙橋さん」

葵「二人の幸せを願ってるよ」

美結「っ...」

美結は立ち止まる。

トマト「...」

美結「うん!彩花と幸せになるねˆ ˆ」

葵「ˆ ˆ」

美結「...っ」

無理に微笑んで顔を背ける美結は、

早足で逃げるように彩花を連れ去る。

トマト「...」

葵「それじゃ、石井さん、お先にˆ ˆ」

トマト「...あのさ」

葵「...?」

トマト「...」

トマト「やっぱいい、帰っていいよ」

葵「...またˆ ˆ」

葵は帰って行く。

トマト「...」

トマト「はぁ...何やっとん?アイツ」

美結の言動にトマトは呆れて帰って行った。


人影無い非常階段に上がって

途中に立ち止まった美結は、

彩花の手を離すと背を向けて俯く。

美結「...」

彩花「?...」

彩花「美結...?」

美結「...っ」

美結は泣き出して階段に座り込む。

美結「うぅっ...うぅ...!」

彩花「何があった...?」

彩花は美結に近付くと、

ゆっくり背中に手を添える。

美結「うぅう...うぅう!」

彩花「...」

彩花は優しく美結の背中を叩く。

そこに階段を上がってきた女子小学生二人が

美結を見て引いた表情で通り過ぎる。

女子小学生達「...」

他人のこともユニット活動のことも

今の美結には葵以外見えていなかった。

美結「あああああ!」

静かな非常階段に

美結の大声だけ響き渡っていた。

三連休...

美結に呼ばれてゆめタウンに来たメンバーは、

フードコートの椅子に座る。

美結は皆の前に立つ。

美結「Dear friends!」

賑やかな人混みの声に掻き消される美結。

トマト「は?」

愛梨「なんて?」

美結「Dear friends!」

彩花「...?」

友理香「ごめん、聞き取れない...(笑)」

葵「...なんて言ってる?」

美結「あぁもう!外に移動!」


店を出て...

静かなテラスに皆を座らせると、

美結は改めて前に立つ。

美結「...」

美結「Dear friends!」

トマト「何それ?」

美結「分からねーのかよ」

友理香「Dear friends!で合ってる?」

美結「うん」

トマト「いいから何の話?」

美結「...諸君に報告がある」

美結「昨日、新たにメンバーが入った」

トマト「また?」

葵「新しいメンバー見つかったんだね!」

美結「掲示板で応募があった!」

友理香「おぉ〜」

トマト「よくネットの奴と活動できるよな」

美結「いや、それがさ」

美結「2年前に出会い系で話した人だったの」

トマト「余計怖いわ」

友理香「え〜...!それはすごすぎる...」

葵「そんなことがあるんだね」

美結「今からそのメンバーを呼ぶから」

美結「皆で"ワクワクさーん!"って」

美結「大声で呼んで」

愛梨「ワクワクさん?w」

美結「うん」

友理香「わ...分かった(笑)」

葵「了解!」

美結「いくよ?せーの...」

美結達「ワクワクさーん!」

美結達「...」

トマト「来ないけど」

美結「...もう一回、せーの」

ゆう「おい!w」

声に振り向く皆の目先には、

ゆうが歩いてきていた。

美結「あw」

ゆう「ワクワクさんやめろってww」

彩花「...」

トマト「...」

友理香「?...」

愛梨「...」

空気が止まる皆。

美結「あれwもっと盛り上がると思ったのに」

ゆう「初めまして〜ww」

トマト「...お前のユニットって」

トマト「女限定じゃなかったん?」

美結「そうだよ、ボーイッシュの女限定」

トマト「...」

友理香「男性の方...?」

ゆう「FTMです!戸籍は女」

トマト「FTMって?」

美結「心は女、体は男」

ゆう「違うwそれMTF」

ゆう「FTMはその逆」

葵「体は女性で心は男性という意味だね」

トマト「声、男じゃん」

ゆう「ホル注してるからね」

友理香「なるほど...」

トマト「何それ?」

美結「男性ホルモンを入れたってこと」

トマト「そんなことできるん?」

友理香「できるよ」

美結「お前は社会勉強しろ」

美結「...まぁ、悪い人じゃない」

美結「一員として仲良くしてあげて」

ゆう「ゆうです!よろしくお願いします!」

葵「ゆうさん、よろしくお願いいたしますˆ ˆ」

友理香「よろしくお願いします」

彩花「よろしくお願いします...」

美結「ゆうは最年長の35歳だから」

美結「くれぐれも無礼な言動は慎むように」

ゆう「お前が言うなw」


その後...

皆は、ゆめタウンに戻って

ショッピングをしたり雑談をする。

美結「これ欲しいんだよ」

美結はドラえもんのブランドの

ショルダーバッグを手に取る。

彩花「可愛いねˆ ˆ」

愛梨「子供っぽくない?w」

美結「デザイン的に大人向けだよ」

友理香「ドラえもん好きなの?」

美結「うん、でも高い(笑)」

葵「買ってあげるよ」

美結「えっ!いや、いいよ💦」

葵「いいよˆ ˆ」

美結「働いて買いたい!」

トマト「...」

スマホを触っているトマトに近付くゆう。

ゆう「何見てるん?」

トマト「TikTok」

ゆう「この人知ってるわw」

トマト「マジ?」

ノリがいいゆうは、

メンバーと仲良くなり

ユニットに馴染むのも早かった。

美結「ワクワクさん」

トマト「ワクワクさーんww」

ゆう「怒るよww」

美結「www」

トマト「www」


美結「Dear friends!」

トマト「またそれ?」

ゆう「日本語で言えw」

美結「諸君、次の目標は」

美結「オリジナル曲」

葵「おっ!いいね」

トマト「どうやって?」

美結「Jr.の頃から歌詞を作ってきて」

美結「作曲はしてないけど」

美結「ネットでプロに作曲を依頼しても」

美結「金欠で本格的の曲は無理だと思ってた」

美結「この8年は歌ってみたと替え歌...」

ゆう「替え歌って何w」

美結「2018年8月からONE PIECEの曲を」

美結「ダナ思考にアレンジをしてきた」

ゆう「なんでONE PIECEなんww」

美結「初回の替え歌は海賊のモチーフだった」

美結「それから現在も...w」

美結「でも、やっぱ皆」

美結「オリジナル曲欲しいよね?」

葵「うんˆ ˆ」

彩花「...」(頷く)

トマト達「...」

美結「欲しいよね?!」 

ゆう「でもさ、本格的には無理なんでしょ?」

美結「今は無理じゃないから聞いてんの」

ゆう「え?w」

トマト「作れんの?」

美結「作詞は俺、作曲は専属の人がいる」

友理香「え、すごい!」

ゆう「金欠大丈夫?w」

美結「無償だよ」

ゆう「マジ?」

美結「明日紹介するよ」

トマト「本当に作曲の人?」

美結「...どうやら皆、疑ってるようだから」

美結「サンプルとして2曲聴かせてあげよう」

美結はスマホで曲を再生する。

(♪~)

美結「これは、2017年1月に作った歌詞」

美結「ダナ思考☆パラダイス

ゆう「え、歌ってる人は?」

美結「作曲の人が依頼した歌手」

ゆう「すげーなw」

葵「いい曲!」

美結「歌入りだから覚えやすいしね」

(♪~)

美結「これは、最近作った歌詞」

美結「赤い月

トマト「うちらも覚えて歌おうや」

美結「...あれ?」

美結「ユニット抜けたんじゃないの?w」

トマト「...」

友理香「え!抜けたの?」

美結「興味ないって抜けたよ」

トマト「...暇だから戻ってもいいけど」

美結「戻りたいって言えばいいのにw」

ゆう「お帰りw」

友理香「お帰り〜(笑)」

トマト「ただいまw」

美結「ってことで、LINEグループを作るぞ」

美結はメンバーとLINEの連絡先を交換すると

『Boyishダナーズ』のグループに招待する。

美結「今後は、このグループチャットで」

美結「やり取りをするから」

美結「通知ON、意思表示必須!」

美結「やむを得ない理由以外は会議に参加!」

美結「集合と言ったら走って来ること!」

葵「了解ˆ ˆ」

彩花「はい!」

トマト「厳しいな」

美結「これはビジネスなんだから」

友理香「あ...自分は市外住みだから」

友理香「電車で1時間は掛かる」

美結「走ってきた方が速いんじゃない?」

ゆう「化け物ww」

美結「ww」

友理香「それは無理がありすぎる(笑)」

美結「まぁ、遠いならいいよ」

友理香「ありがとう!」

美結「じゃ、諸君、LINEで会おう」

美結「Go in peace!」

ゆう「また英語w」

葵「Thanks be to God」

トマト「葵ちゃんまで分からん!」

ゆう「しかも発音いいしw」

美結「え、俺が?」

ゆう「違うわ!w葵ちゃんがだわw」

友理香「その英語は...もしかして何かの?」

葵「僕の通ってた学校で耳にしてたよ」

ゆう「えw」

トマト「どんな学校?!」

美結「キリスト教カトリック」

トマト「あーね...?」

ゆう「ってことは、お嬢様校?」

美結「だよねw葵」

葵「私立校でした」

美結「それもエスカレーター式のね」

ゆう「すげー!w」

美結「葵のお父さんは大手会社の会長だよ」

友理香「え!マジか😲」

ゆう「ヤバww」

美結「サインもらっときな?」

美結「葵は子供の頃からモテモテだから」

美結「アイドル界でも男女は虜だよ」

ゆう「サインください!」

葵「ええ...(笑)」

葵「僕は名乗るほどの者では...💦」

ゆう「顔も声も好きw可愛いし」

葵「ありがとうございます...ˆ ˆ;」

美結「...」

美結は胸が締めつけられる思いを振り払う。

美結「ゆう、葵と付き合っちゃえばー?w」

ゆう「告ろうかなw」

美結「っ...」

ゆうの冗談に美結の胸は切り裂かれ、

ぼやける視界。

美結「...」

トマト「...」

美結の葵との話を知っているトマトは、

心の裏を察する。

美結「...じゃ」

逃げるように去る美結。

友理香「?...」

ゆう「いきなりだなw」

葵「...」

俯く美結の背中を見ている葵。


トマトは美結を追いかける。

トマト「なぁ」

美結「...」

トマト「葵ちゃんと何かあったん?」

美結「何も無いよ」

トマト「今も好きなんじゃないん?」

美結「...好きだよ」

トマト「なんであんなこと言ったん?」

美結「...」

美結「分からない」

美結「葵は俺を好きじゃないと思う」

トマト「...」

美結「ユニット活動の話ばっかり」

美結「会話は少しだけ」

美結「でも、その時も友達の目だった」

美結「恋を感じなかった」

トマト「それは皆んながいるからだって」

美結「...皆がいるからって」

美結「俺を二人きりに誘い出すこと」

美結「できたんじゃないのかな」

美結「葵はあの日のこと」

美結「無かったことにしてるんだ」

トマト「...本当の気持ちなんてさ」

トマト「聞いてみなきゃ分かんないじゃん」

美結「いや...そんなことしたら」

美結「ユニット活動どころじゃない」

美結「もし、心変わりしてたら...」

美結「俺は恋愛と仕事、両立できない」

トマト「...」

トマト「そうやってずっと逃げるわけ?」

トマト「余計苦しくなるで?」

美結「...」

そこに愛梨が歩いてくる。

愛梨「あのさ、ユニットのことなんだけど」

美結「...ん?」

愛梨「俺、抜けていい?」

愛梨「アイドル活動は俺に不向きで...」

美結「いいよ」

トマト「判断早いな」

愛梨「...じゃ、そういうことで」

愛梨は去って行く。

美結「...」

美結「帰るわ」

美結も去って行く。

トマト「...」

(♪~)

朝、美結は薄暗い部屋で

『私の時間』のダンス練習をする。

(電脳風味な見た目も人気があるみたい♪)

美結「(あれ...ここ何だったけ...)」

その後、同じ曲で自身のMMD

YouTubeに載せようと撮影する。

美結「現実より上手いなw」

美結「...振り付け違うところ多いなぁ」

美結「長年だと慢性化してくるから」

美結「脳が思い込みを繰り返してんだよな...」

美結「また1から覚え直そうかな」

美結「...」

脳裏に葵との過激なアイデアがよぎる。

美結「...小説書こう」

美結はベッドに横たわるが

怠けている体は動けなかった。


数時間後...

美結「...」

窓辺で布団に横たわって目を閉じる美結。

美結「(怠いな...)」

(ピチャピチャ...)

静かな和室に雨音が響く。

美結「しばらく台風だからメンバー探せんな」

美結「やっぱネットでも探すかな」

久々にメンバー募集の掲示板に書き込む。

美結「今は女みたいな男が流行ってるから」

美結「ボーイッシュに興味ある人なんて」

美結「余計にいないよな」

美結「しかも同じ県の人で限定してるから」

美結「尚更」


数分後...

Gmailの受信フォルダを開くと、

掲示板からメールが届いていた。

美結「えっ、早!」

開封すると...



"ゆう"という人からの応募メールだった。

美結「早っ!もう?!」

美結「マジかよ...いきなりだな...」

美結「出会い系の最初の文章じゃん」

美結「...でも、本格的なユニットだからこそ」

美結「会うのは妥当か」

美結「相手は俺がどういう人か見てから」

美結「検討するのかもしれない」

美結「だとしたら、余計に緊張するな」

美結「...いや、そんなこと言ってられん」

美結「俺はリーダーだ」

美結は返信する。



美結「厚かましいよなー...」
美結「でも、雨だから遠くに行けないもん」


美結「えwマジか」
美結「じゃあ家の近くの公園に来てもらおう」


数十分後...

人影無い公園で雨宿りをして待つ美結。

美結「(ゆうさん、場所分かるのかなー...)」

美結はスマホで屋根の雫を撮影する。

美結「...」

雫にピントを合わせようとしていると、

人影が目に入る。

美結「(...ん?)」

視線を向けると、

青の傘を差した人が歩いてくる。

美結「(ゆうさん...?)」

その人は、黒の服装に眼鏡。

雰囲気からして男性にしか見えない。

美結「...っ」

全身に血の気が走る美結は、

冷静を装ってトイレの個室に逃げ込むと

急いで鍵を閉める。

(ガチャッ)

美結「...」

自分は軽率な行動をしてしまったと悔やむ。

美結「(...ネカマだわ)」

美結「(おかしいと思った)」

美結「(初対面の女が会いに来るなんて)」

美結「(メンバー募集の掲示板だから)」

美結「(油断してたわ...)」

美結「(でも、本当にあの人?)」

美結「(人違いかもしれない...)」

Gmailを開くと、

ゆうからメールが届いていた。



美結は青ざめる。
さっきの人はゆうだったと確信した。
美結「っ...」
美結「(やっぱり合ってる...)」
美結「("着いてます"って言ったら)」
美結「(さっき逃げた人が俺だと分かる...)」



美結「...」
美結は考える。
美結「(...そうだ!断ればいいんだ)」
美結「(でも、今断ったら不自然になる...)」
美結「(さっき逃げた人が俺だと察されて)」
美結「(扉を開けようとしてくる...)」
美結「(場所を間違えたって言おう!)」



美結「よし、騙せた」
美結「...」
美結は恐る恐る個室の扉を開ける。
美結「(...いない)」
外に出て警戒して見回すと...
美結「...っ!」
そこには、ゆうが立っていた。
ゆう「...」
ゆうは美結に視線を向ける。
美結「(ヤバい...)」
急いで目をそらす美結は、
他人の振りをして逃げ去ろうとすると...
ゆう「え...美結さんじゃないんすか?」
美結「っ...」
足を止める美結は恐怖を抑える。
美結「違います...」
ゆう「本当に?」
美結「(マズい...)」
美結「人違いです」
ゆう「じゃ、なんで一人でここに?」
美結「ちょっと散歩で...」
ゆう「雨なのに?」
美結「っ...はい」
ゆう「え、でもさっき雨宿りしてたよね?w」
ゆう「誰かを待ってたんじゃないの?」
美結「いえ...」
ゆう「違うの?」
美結「...」
美結「(正直に面と向かって言おう)」
美結「はい、美結です」
ゆう「やっぱり!wおかしいと思ったw」

ゆう「なんか急いでトイレ入っていって」
ゆう「変な子だな〜って」
ゆう「美結さんじゃなかったら怖いってww」
美結「...」
ゆう「なんで隠れたん?」
ゆう「場所間違えてたって嘘までついて」

美結「女性ではなかったからです」
美結「嘘をつかれたのは私の方です」
ゆう「あー...ごめん、言ってなかったね」
ゆう「俺、FTMだから」
美結「...そうなんですか?」
ゆうはショルダーバッグから
診断書を出すと、美結に見せる。
ゆう「ホルモン注射打ってるから」
ゆう「声は低いけど、性別はまだ女」
美結「...」
その時、美結は思い出す。
美結「っ...え、待って」
ゆう「ん?」
美結「ゆうさん...前にも話さなかった?」
ゆう「え、嘘!いつ?」
美結「2年前、出会い掲示板の美結って人と」
美結「電話した記憶無い?」
ゆう「ある!」
ゆう「え、プリクラ送ってくれた子?」
美結「そう!友達とツーショットの」
ゆう「マジ?あの美結?」
ゆう「めっちゃ久しぶりだなw」
美結「再会するとはw」
ゆう「でも、プリクラと顔違くね?w」
美結「あのプリクラは子供の頃だからw」
ゆう「え、子供の頃って何歳の時の?」
美結「高1の頃」
ゆう「ちょっと待てw」
ゆう「高1は子供の頃じゃないわww」
美結「年齢の感覚は皆違うじゃん」
ゆう「一般的には子供じゃないからww」
ゆう「なんで昔のプリクラ送ったん?」
美結「ゆうと縁が無いと思ったから」
ゆう「ひどいなw」
美結「w」
美結「で、ユニットに入りたいの?」
ゆう「うん、入りたいw」
美結「...まあ、戸籍は女性だからいいとして」
美結「20代までが対象なんだけど」
美結「あなた今年35歳ですよね?w」
ゆう「うんwそこはスルーしたw」
美結「スルーするなww」
美結「年齢アウトだから不合格ですw」
ゆう「え〜...wそこは甘く見てよ〜w」
美結「辛口なのでごめんなさいˆ ˆ」
ゆう「やだ!!合格になるまで帰らない!!」
美結「じゃあ、こっちが先に帰るw」
ゆう「帰さないw」
ゆうは美結の腕を掴む。
美結「だるww」
美結「...いいよ、合格」
ゆう「マジ?!やったー!」
美結「うん、だから離して」
ゆう「はい」
美結「...」
美結は去ろうとする。
ゆう「え、本当に合格?」
美結「...」
美結「嘘でーす!w不合格!」
美結はそう言ってダッシュで逃げ去る。
ゆう「このやろww騙しやがったなww」
ゆうは走って追いかける。
美結「いやあああ!www」
その瞬間...
(ズルーッ!)
美結「っ!...」
美結は濡れた砂に滑って
勢いよく水溜まりに転ぶ。
(バチャッ!)
ゆう「何してんのww」
美結「...」
美結の服は泥で汚れていた。
ゆう「ったくw嘘つくからそうなるのw」
ゆう「早く拭けw」
ゆうはポケットティッシュを渡す。

公園を出て、美結は帰ろうとすると...
ゆう「え、歩いて来たん?」
美結「うん、家近いから」
ゆう「なるほどね」
ゆう「じゃ」
ゆうは青の車に乗る。
美結「...」
ゆう「どしたw」(窓を開ける)
美結「家まで送ってくれたら」
美結「合格にしてあげようと思ったのにな」
ゆう「嫌だわ!w泥塗れで車に乗られるのw」
美結「じゃ、不合格ねw」
ゆう「w...それについて後で議論しよかww」
美結「おうw後でな、ワクワクさん」
ゆう「待て待てww」
ゆう「ワクワクさんって何ww」
美結「つくってあそぼの」
ゆう「知ってるwなんでワクワクさんなんw」
美結「似てるからww」
ゆう「は?wふざけんなww似てないわw」
美結「wwwバイバイ!」
美結は走って帰る。
ゆう「バイバイじゃないわww」
ゆう「また転ぶぞw」

それから、美結はゆうを正式に
Boyishダナーズのメンバーとして決定した。