「やっと来たか」
姉と一緒に病室を訪ねるといきなりの上から目線。
(なんだこいつ?)
「栃木に持って行く台数がなんちゃら」
「県に言われてるからほにゃらら」
(隣のベッドとの境のカーテンを指差して)「あそこ見れば台数出てるんだから」
「抜けがあるからお前達が・・」
あー、この人は勤めてた頃に戻ってるんだな。そんで俺と姉は同僚だか部下なのか。
お袋がアルツで寝たきりになり、まだ言葉を発せられる頃、
「ごめんなさいごめんなさい」一日中謝ってた。
力の無い指で病室の入り口を指して、
「あそこに女の子がいるの」(いねーよ)
あれは多分、前の旦那から逃げた時、広島に置いて(捨てて?)来た娘のことなんだろな。そうなんだよ俺にはもう一人、姉が居るそうだ。会ったことも会うことも無いけど。
お袋が良く「親子は他人の始まり」と言ってたのは、こういうことだったんだな。
こーれさ、
親父もお袋もさ、
記憶の中の印象の強いものが出るのかな。
親父はきっとあの仕事が楽しくて毎日充実してたんだと。
お袋は、人生の十字架と言うか業(ごう)と言うか、ずっと心のどこかに引っかかってたんだろう。
俺はどうだろう?
近い将来もし俺がボケてしまったら何を言うだろう。
「俺のフェラーリどこやった?」
「買っただろうが黒いやつ!」
「もう一回しよ」
「大丈夫まだたつから」
「大好きだったのにな」
「なんであんなことしちゃったんだろう」
姉帰国。
娘へのおみやげが凄い。
娘歓喜。
俺には?