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銀座シネパトスの閉館も近い。閉館に合わせて発行された「銀座シネパトス閉館メモリアルチケット」を手に入れて居たので、再び銀座に向かった。
久しぶりに「映画を見にゆく」と言う感じがするのは、それまではトークショーがあったり、ご贔屓舟木一夫映画だったり、閉館メモリアル映画「インターミッション」だったりと、目的が少し違っているから、気持ちが少し違うのだろう。
映画好きといっても名匠溝口健二監督作品は、DVDで市川雷蔵主演「新・平家物語」を見ただけで、これにしても映画を観るというよりも市川雷蔵を見る、という感覚でしか映画を見ていなかった。スクリーンで観る溝口健二ははじめてとなる。
上映作品は「雨月物語」と「近松物語」なんの予備知識もなく、見る事となった。映画館は、銀座シネパトスでも一番小さなシネパトスⅢ。カレーショップお食事処三原で、メンコロ定食とビールを飲んで上映時間を待つ。
「近松物語」
原作近松門左衛門「大経師昔暦」から川口松太郎が「おさん茂兵衛」で劇化。
監督:溝口健二 撮影:宮川一夫
1954年 大映 モノクロ
出演:長谷川一夫 香川京子 南田洋子 進藤英太郎 小沢栄太郎 田中春男
浪花千栄子 十朱久雄 菅井一郎
モノクロの色の鮮やかさが際立つ。白黒なのに、この表現はおかしいと思うかもしれないが、凝ったセット、お金をかけた衣装、俳優の目鼻立ち、そうしたものから受ける印象は、このような表現になってしまう。モノクロ映画というのは、これほどまでに映画の奥行を見せるものなのかと感心してしまう。
あらすじとしては、大店の経師屋が舞台。そこの奉公人の経師職人が長谷川一夫演じる茂兵衛。彼を慕う下働きの女が南田洋子。大店の「大経師」主人が進藤英太郎で、番頭が小沢栄表記だが、後の小沢栄太郎。そして大店の年の離れた若妻おさんが香川京子。ひょんな行き違いから、茂兵衛とおさんが逃避行を続けることになる。不義者は見つかれば市中引き回しのあと磔となり、大看板の大店も離散は免れない。
二人は船に乗り心中を図ろうとするが、片思いの茂兵衛が、それを告白する事でおさんは心中する気をなくしてしまう。そして相思相愛の中、苦労して逃げ回る。最後は捕まって市中引き回し。大店の大経師は離散することになる。
監督の力量も然ることながら、名俳優が、それぞれの持ち味を発揮すると、ここまですごい映画になるのかと実感する。さすが色男の長谷川一夫、その立ち居振る舞いが見事で美しい。進藤英太郎の憎々しさは彼に勝る人はいない。ずる賢い小沢栄太郎の演技も見事。若くて綺麗な南田洋子には、改めて魅了される。そんな中、おさんの兄役の田中春男の、なんとも頓着のない演技がピカリ!と光っている。浪花千栄子、菅井一郎と演技派も揃っている。そして最後に、なんと言っても香川京子の美しさと艶やかさが、この映画の魅力の大きな要素だ。
香川京子当時23歳。
見事な演技力と美貌で、モノクロなのに輝いて見える。良家のお嬢さんが、家のために年の離れた大経師の主人に嫁ぐ。恋も知らずに結婚して、夫婦の愛情もわからぬまま大きな渦に巻き込まれていく。初めて知った恋は、奉公人との恋。それは死を意味するものでもあった。
昔、田中絹代の伊豆の踊り子を見て、その当時の美しい田中絹代の虜になったことがある。寝ても覚めての彼女の姿を思い出した。今また香川京子のこの映画を見て、すっかり虜になってしまった。その魅力は、その後の多くの黒澤明監督作品で彼女うが使われることでもわかるように、黒澤明も香川京子の魅力の虜になっていたのだろう。
名優たちの共演は、これほどまでに映画の質を高めるのかと思った作品だった。
実は前日寝不足であり、映画を見る前にビールを飲んだことだし、最近は映画を見ると途中で寝てしまうのが恒例だったのだが、「近松物語」も「雨月物語」も、全く眠くなかったのは、映画が素晴らしく、そして面白かったからだと思う。