ボーズの肉球は柔らかくて、砂利の上を歩くのに痛くて耐えられないのだ。
なぁんだそうか。
痛いのは可愛そうだけど、そのダンスが余りにも可愛いので僕らはずっと見ていたくて、抱き上げたりはしなかったのだ。ごめんね。でも君が大きく逞しく育つためには必要な試練だと思って堪えてくれ。いやそれともこれは軽い虐待か?
そんな事ないよなあ、だってただ地面を歩かせてるだけなんだから。
強いて言えば柔らかい場所しか歩かせた事が無いのがいけないかも。まあ細かいことは気にしないようにしよう。
ボーズが砂利区画から逃れ出てダンスが終わる頃、不動産会社ハウスメイトの車が駐車場に入って来て見覚えのある若者が車から降りた。ハウスメイトはとてもしっかりしていて好感が持てたので、僕が将来不動産経営をすることになったらここに委託しようと考えているのだが、まぁそんな馬鹿の夢想はとりあえず置いておいて、僕も車から降りて軽く挨拶を交わしてから部屋へと向かった。
バナナもお引越し
僕らの部屋は五階建ての五階。「そんな贅沢な!」と叫んだあなた。違います。
空いている部屋は、どの階も部屋代はあまり変わらなかったのだ。だったら最上階でしょう。夏は暑く冬は寒いかも知れないけど、それでも最上階。憧れの最上階です。ウヒ。
部屋の鍵を受け取って中の設備なんかを確認していると、引越センターのトラックがマンションの前に停まった。
来た!僕の家財道具!熊本のホームセンターで買った材木で作ったテレビ台や熊本の百円ショップで買ったマグカップなんかが一杯詰まったトラックが来た!……ってなんだか貧乏臭いなあ。ホントだから仕方ないけど。
引越しスタッフに大型の家具なんかの置き場所を指示したり、とりあえず生活に必要なモロモロを引っ張り出したりしている間に、ハウスメイトの若者は帰っていった。
やがて荷物を下ろし終えて引越しスタッフも帰り、僕ら二人と一匹と段ボール箱の山が残された。
何を隠そうこの建物は新築だ。ここから僕らの新しい生活が始まるのだ。この時僕は、新しい部屋と新しい家族(無論ボーズの事)を迎えて、なんだかワクワクしていた。三ヵ月後僕らふたりと一匹に訪れる、波乱の事など想像だにせずに。