10代でデビューし、グラミー賞には2度ノミネート。若くしてクリスチャン・ロック界の新たな旗手と目される存在となっているリーランド。メイン・ボーカルとギターを務めるフロントマン、リーランド・モーリングは、若干11歳にして曲を書き始め、12歳でバンドを結成している。
当初は牧師の父が勤める教会で演奏するだけの活動であったが、14歳の時にナッシュビルであったコンテストで注目を集め、メジャー・レーベルEMIと契約。フロントマンのファースト・ネームを冠したバンドは、本格的に音楽活動に打ち込むようになる。
そして2006年、1stアルバム「Sound of Melodies」をリリースしてデビュー。透き通るような歌声に類稀なるポップセンス。その上、18歳にしては洗練されたプレイを見せるバンドは、たちまち話題となって、アルバムはその年のグラミー賞にノミネートされた。
昨年は2ndアルバム「Opposite way」を発表。今年のグラミー賞にも再度ノミネートされた他、クリスチャン・
ロック界の賞なども授賞し、ロック・ゴスペルの雄として不動の地位を築き始めている。
今回の来日は、3rdアルバム「Love is on the movie」の発表を夏に控えてのもの。
とはいえ、ジャンル的には日本では全くと言ってよいほど馴染みのない彼らの音楽。幾ら素晴らしいサウンドを奏でるバンドという評価があるとはいえ、1,000人以上を収容する渋谷AXを埋めるほどの集客力があるとは思えない。
自分自身も初めて体験するクリスチャン・ロックのライブ。案の定、客の多くは自分と同様に招待券を手にした人ばかりで、開場からしばらくしても場内はガラガラのまま。恐ろしく空いているフロアーには、気の毒な思いさえこみ上げて来た。
それでも、途中からいきなり観客が増えてくる。それも洋楽のライブ会場では珍しい中学、高校生くらいの団体。
「~先生も来ている。」などの会話から察するに、ミッション系の学校や教会の日曜学校などに招待券をばら撒いた模様。しかも、その殆どが「このバンド知らないんだけど、、、」などと話している。
恐らく、リーランドの熱心なファンというのは、会場の中でもほんの一握り。しかも、自分を含めて彼らのアルバムさえ聴いたことがない観客が大多数を占めていたのだろう。
そんな中、バンドのメンバーがほぼ定刻通りに登場。1曲目の"Can't stop"から、キャッチーなメロディーのポップ・ソングが観客の心を掴む。
リーランドの歌声はとても繊細かつ聴き易く、バンドの奏でるサウンドも安定したもの。年齢的には若くとも、10年近いキャリアを持つだけに、ライブにおける実力は相当なものであることが見て取れた。
しかしながら、2曲目の"Wake up"を聴いた頃から多少不思議な感覚が芽生え始める。
リーランドの兄であるキーボードのジャック・モーリングは、最初から天を仰ぎ見るようなポーズを取っていたのだが、妙にその回数が多いのだ。
曲の中に「God」や「Jesus」というフレーズが出て来るのに合わせているのかと思い、始めはそれ程気に留めていなかった。
それが、続く曲"Let it out now"でも「God says」や「Lord」という単語が出て来ると、クリスチャン・ロックというものが何なのかおぼろげに見えてくる。
決定打は4曲目に披露された"Save your people"。まずはリーランドがオーディエンスに手拍子を要求。
ここでバックにプロジェクターによって歌詞が映し出され、「Save your peolple, oh Lord」を皆に歌わせる。
続く「la la la ~ hey hey」では高校生くらいの観客が中心となって腕も上がり始める。
確かに会場の熱気はメンバーによって上がっていた。
とはいえ、全てが神を称える歌なのか?という疑問が自分の中に巻き起こる。
クリスチャン・ロックとはそういうものであり、だからこそ彼らの音楽がそこにカテゴライズされているのだろうが、オルガンやハーモニカといったゴスペル・ミュージック伝統の形とは違いロックバンドと同じ編成のグループだけに宗教色がここまで強い歌は想定外であった。
どちらかと言えば、もう少し全人類に普遍的な愛の形などを歌ったものを想像していたので、その後も歌詞の中に「God」や「King of the world」といった言葉が出て来ると耳についてしまい、今一つノリ切れずにいた。
こうなると、執拗に繰り返されるジャックの天を仰ぐ姿も、些か大袈裟というか過剰な演出に感じられてしまい、こちらの熱を削ぐような気分に。
しかも、"Tears of the Saints"を終えると、女性の通訳が登場。リーランドがダビデ王のテーブルにつく際の話を翻訳し始める。
聖書の中でも最も好きな話の一つだと言うエピソードを紹介しながら、リーランドは涙ぐむような声に変わり、気分が高ぶっているのが分かった。
そして、その話を基に作られた"Carried to the table"へ。正直、ここまでやられると、何かの布教イベントのような空気さえ感じてしまう。
個々の楽曲は非常にキャッチーなものが多く、歌詞も至ってシンプル。上質なポップ・サウンドをキリスト教の世界観の基でプレイしているだけと割り切れれば良いのだが、こうした音楽に宗教色が重なることに慣れていない自分にはどうにも違和感が強かった。
優しさの感じられる"Sound of melodies"などはメロディアスで、一度聴いただけで気に入る人もいるだろう。
しかし、本編の最後に持って来た"Follow you"にしても、アンコール後のラストを飾った"Hey"にしても、布教を受けているような感覚に襲われてしまう。
洗脳と言うには言葉が強いだろうが、もう少し歌詞に工夫があってもよいのではないかと考えてしまう。
良いライブである条件を数多く満たしながらも、これほどノリ切れなかったことは初めての経験。
きっとライブを聴きながら、終演後のCD購入の予定が購入取りやめに変わった人も少なくなかったはず。
サウンドだけを取り上げるなら、洋楽主体のフェスに出演しても大いに受ける類であることは間違いないが、クリスチャン・ロックというジャンルが開拓される気配を持たぬ極東の島国では、今後も苦戦を強いられることだろう。
5月29日(金) リーランド来日公演 セットリスト 渋谷AX
01 Can't stop
02 Wake up
03 Let it out now
04 Save your people
05 Yes you have
06 May our praise
07 Tears of the Saints
08 Carried to the table
09 Sound of melodies
10 Follow you
=== Encore ===
11 Don't go away
12 Hey