電子の星 池袋ウエストゲートパークⅣ・石田衣良 の解説 | まさひこのの書評と解説のページ

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僕が読んだ本についての、書評と解説を書いてみました。

 

 

さらに続けて、「池袋ウエストゲートパーク」4作目「電子の星」を紹介する。単行本は2003年11月に文藝春秋刊、文春文庫は2005年9月刊行。小説誌「オール讀物」にて、2002年と2003年に掲載された4作品を収録。

 

断章を区切るナルトの絵文字がかわいい「東口ラーメンライン」。前回のお話「西口ミッドサマー狂乱」のあの狂った夏も過ぎた、十月終わりの秋。池袋東口に七月、開店したラーメン屋・七生(なお)。店のオーナー兼した働きは、タカシのボディーガードだったツインタワー1号2号(Gボーイズを卒業した双子)。池袋東口は、いま日本で一番、熾烈なラーメン屋競争が起きている地区。最近、七生に対する中傷・嫌がらせを執拗に行う人間がいて、そのせいで来客が減ってしまった。犯人を見つけてほしい、というのが今回のマコトへの依頼。

 

この話では、サブテーマとして、「拒食症」を扱ってもいるが、読んでいく読者のお腹の方が空いてくるのは、もちろん、著者のラーメンと調理の描き方がウマイから。読書途中、浮かんだキャッチコピーは、『批評なんかするな。食うことを楽しめ!』。

 

「ワルツ・フォー・ベビー」。次の年まで十日間を切った2002年の年の瀬。夜、散歩中のマコトが出会ったのは、路上に座るオヤジ。場所は、池袋西口、東京芸術劇場裏のテラス。そこで、五年前、オヤジの一人息子が、誰かに殺されてしまった。息子は、上野・アメ横のギャング・チーム「アポロ」の初代ヘッド。タクシー運転手のオヤジに頼まれて、死の謎を探っていくマコトだが、「アポロ」の連中は何かを隠して、かたくなに阻む・・・。

 

IWGPとしては(ここまでシリーズ4作目までの話としては)珍しい、悲しいトーン。定番の、マコトのくだけた口調による、爽やかな後日談的終わり方ではなかった。ラストの、真相がほどけてくテンポのいさぎよさとは裏腹に、足取り重く、悲しいまま、淡々と閉じていくお話。

 

表題作「電子の星」。涼しい日が続く今夏。退屈な店番をするマコトの所に、二十歳前の引きこもり少年が、上京して訪ねてきた。池袋内で失踪した幼なじみを探してほしい、という。失踪とひきかえに、家族に送られた大金の謎。彼の住む部屋に侵入したマコトたちは、そこに残されたパソコンの中の映像を見て、凍りつく。映像は、SMクラブで開かれる、人体損壊ショーの連続だった・・・。

 

262ページ、263ページの、マコトが弱気な仲間にぶつける言葉のパンチが、実にカッコいい。少し長いが引用する。「だけど、おまえは負け犬にもなっていない。おまえは自分の力で闘ったことは一度もないだろ。闘ったことのないやつが、負け犬になれるのか。おれと一緒にこいよ。一発やってみようぜ。勝てばおまえは負け犬じゃなくなるし、ダメなら正真正銘の負け犬に昇格できる。それでおまえは何をなくすっていうんだ」これは人生の真実である。だからこそ、これって、他の小説やコミックの場面でも、装いだけを変えて、よく使われている気がする。IWGPシリーズを読む者は、毎回どこかで、マコトの言葉の名パンチを食らって、叩き直されるのだ。

 

その他、男相手に体を売る貧困少年の稼ぎをむしり取る男から守ってやる「黒いフードの夜」収録。