人気が少ない、夕暮れの廊下。

 外からは野球部の元気のいい声が響いてくる。

 まぁ、いつもどうりの放課後だ、なんて思って一人気取って大またで歩く。

 慣れない鼻歌なんて歌って、横を通ったクラスメイトに笑いあって。


 「おーい、いおりじゃん。 なーに鼻歌歌ってんだよ、いいことでもあったのかー!」

 「なんっもねーよ! お前こそ、彼女できたからってずっと上機嫌じゃねーか!」


 こんな、なんでもないような毎日が大好きだ。

 毎日がキラキラしてるなんて言うけど、別にそんなわけでもなくて。

 でも、居心地がよくて、楽しい。


 「いおり!」

 「おー、どしたよ」


 随分と遠くから手を振ってくる、愛しい少女。

 背中まで伸びているゆるやかなカーブのかかった髪の毛が揺れる。

 大きな瞳、小さい口元、整った鼻、愛らしい表情。

 きっと、俺だけがこいつのこと好きなんじゃないってわかってるけど。


 「今日約束わすれないでねー!」

 「わーかってるって!」


 それでも、この距離で、傍にいれれば。

 それだけで、いいんだ。

 だから。

 だから。


 「………~~っぅ、ふ、う」


 まるで耐えるように。

 押し殺すように。

 一筋の線が頬を伝うのを見たとき、俺は困惑した。


 君は、誰のために泣いてるの?