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星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

これからは国内外の多々ジャンルに飛び込みます。




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女性を薬で前後不覚にして暴行する、「悪い男」を殺したのは誰?






◇悪い男◇ -Myrká-

アーナルデュル・インドリダソン 柳沢由美子 訳



レイキャヴィクのアパートの一室で、刃物で喉を切り裂かれた若い男の死体が発見された。男はレイプドラッグと言われるクスリを所持しており、バーやレストランで出会った女性にクスリを混入した飲み物を飲ませて意識を失わせ、レイプしていた常習犯らしい。被害者による復讐か? 犯罪捜査官エーレンデュルが行方不明のなか、同僚のエリンボルクは現場に落ちていた一枚のスカーフの香りを頼りに捜査を進める。世界のミステリ読者を魅了する北欧の巨人の人気シリーズ第7弾。


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その現場は正しく殺人現場だった。通報を受け急行したエリンボルグを迎えたのは一面血の海のアパートの1室。そこに住むルノルフルという若い男が喉を切られて殺されたのだ。電気通信技術者らしい。


現場からは避妊具が見つかった。それ自体はまぁ、ありふれている。問題は薬物だ。ロヒプノール。「レイプドラッグ」で知られる悪名高いドラッグが上着のポケットと彼の口の中から発見されたのだ。上着のポケットに入れていたということはレストランやカフェで女性に声をかけ、アルコール飲料に入れていた可能性が高い。事実関係者に事情聴取するとルノルフルは職場やジムで感じの良い男だった一方で女性に声をかけ、酒を奢りたがっていたことが分かる。


もう1つ見つかったのはスカーフだ。カシミヤ製でタンドリーチキンで使われる香辛料の香りがする。エリンボルグは警察官である一方でレシピ本を出せるぐらい料理に関しては玄人だ。エリンボルグはそこから見事スカーフの持ち主を探し出すがどうしても彼女たちがルノルフルの口の中に薬物を押し込み、喉を掻っ切ったとは思えない。エリンボルグはルノルフルのその人を徹底的に調べる。過去の失踪事件を経て、終着地点はルノルフルの生まれ故郷だったーーー


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「悪い男」です(・∀・)


2年ぶりの最新刊、まさかのエーレンデュル不在。しかも行方不明ってどういうことやねん。よくよく読むと休暇を取ったっきり何をしているのか分からない状況らしいが……どうしよ、弟と同じ運命辿ってたら。
では今回の主人公は誰か、というとエーレンデュルの同僚で料理本を出しているエリンボルグ。今回の事件はトラウマ作以来の女性暴行なのでまさに同じ女性のエリンボルグが傷つき、泣き寝入りを強要された被害者とその家族と向き合います。始終単語が飛び交うので中盤は結構しんどかったです。というか人から飲み物を奢るってそんなに普通のことなんだろうか。危険行為過ぎる。


縦の糸は女性暴行なら、横の糸は親と子ども。とりわけ母親と子ども、それも息子の関係性でしょう。親は子どもが大きくなるにつれてだんだん子どもの気持ちが分からなくなっていきます。異性の子どもならなおさらです。最初は親が大好きでも自立心や反抗心が芽生えて親から離れたい、自由に行きたいと思うものです。……でももしその親が大好きである頃から親を憎み始め、そのまま大人になったら? 「悪い男」ーーーで片付けるには簡単過ぎるーーールノルフル殺害事件も最後はルノルフルその人を形成した中に手がかりがありました。……しかしこういう話を聞くとほんとにアイスランドは小さな国なんだな、と思います。その一方でレイキャビクではアイスランド語がだんだん通じなくなっているそうです。外国人が増え、英語が出来れば何とかなるようになったからです。世界では有数の先進国、しかし実態は昔話に語られるような小さな閉鎖的な国。これからこの国はどうなるのか。


アイスランド・ミステリーもそこそこ読むようになりましたがわたしはやはりこのシリーズが1番面白いと思っています。何ででしょうね。このシリーズ、事件は陰湿だし犯人像も逮捕されるのが辛いことあるし、主人公はどこまでも破滅型だし、全てにおいて100%ハッピーエンドってことは無いのに。……と思っていましたが今回本作を読んで少し分かったような気がします。
男性なのに女性暴行事件を過度な暴力場面が無くてもここまで書ける、被害者の心に寄り添いはしないがその泣き寝入りするしか無い実態を抉るように書く作者のその姿勢に、わたしは敬意を持っている。


次回作の主人公はこれまたエーレンデュルの同僚、というか部下で猪突猛進の気があるシグルデュル=オーリ。まだエーレンデュルがどうなったか分からないままらしいのでもしかしてエーレンデュルシリーズの番外編みたいな位置付けなんだろうか、これ。


「悪い男」でした(・∀・)/ 

超寒がりな風変わりな構成員、その正体はーーー(*^o^*)/