コーネル・ウールリッチ No.23◇聖アンセルム923号室◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

これからは国内外の多々ジャンルに飛び込みます。




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そのホテルの部屋は沢山の栄枯盛衰を体験した。人と同じように……






◇聖アンセルム923号室◇ -Hotel Room-

コーネル・ウールリッチ 宇野利泰 訳



ニューヨークの中心部に、ホテル・アンセルムが店開きしたのは、前世紀も終わりの1896年ーーー活気にあふれ、若々しい野心と希望とに満ちていた。その夜から、ホテル923号室は、様々な客を送り迎えした。

店開きの当夜は、それにふさわしく、若い可憐な新婚夫婦ーーー羞じらいに深い愛を包んでひっそりと泊まっていった。恋人を手に入れるのに、軍服さえ着ていればよかった1917年には、入隊したばかりの青年とその恋人ーーー終戦の日の同じ場所での再会を約して……。休戦の歓喜が巨大な都市全体に沸き返った1918ねん、そして大戦後におとずれた恐慌の数年ーーー1924年には、923号室は、はじめての大物を迎えた。2人の護衛を引き連れ、3人の女を従えたギャングのボス。街を乗っ取られ、かつての力を失ったしまった彼には、いつかは来ると覚悟していた最後の日が……。そして再び時代は流れ……923号室に宿泊するひとにぎりの人々の運命も流れ……ホテル・アンセルムも次第に老いを深めていく。盛えゆくマンモス都市の真中に、今は惨めな老残のホテルに、やがて終焉の日が訪れる……。

ムードとサスペンスの天才ウールリッチが、一つのホテルを人間に見立て、その一室に展開するドラマチックな人間劇、ホテルの一生を、7つのエピソードを通し、ノスタルジーをこめて描いた珠玉の名編。



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1.1896年6月20日の夜

 ……ホテル・アンセルムがオープンした。その923号室に泊まったのは新婚ほやほやのコンプトン夫妻。ところが新婚の夫は階下に降りたっきり姿を消してしまい……



2.1917年4月6日の夜

 ……反独感情が最頂点に達したその日、テッドは軍に入隊することになった。それに恐怖は無いが未練は恋人ジーンだ。2人は結婚してその夜を923号室で過ごす。終戦のその日にまたその部屋で会うことを約束して……



3.1918年11月11日の夜

 ……遂に大戦は終わった。生き残った者たちは歓喜するが世界の考え方は知らぬうちに一掃されていた。変わってしまったのだ。それは923号室で新婚の夜を過ごした若い軍人夫妻も同じだった……



4.1924年2月17日の夜

 ……923号室はギャングのボス、アバッツィアを迎えた。しかしボディガードを両隣に女を3人侍らさせてももうかつての勢力は無く、落ちぶれている。そしてその夜は最後に……



5.1929年10月24日の夜

 ……あえて偽名感丸出しの「ジョン・スミス」という名前で泊まりに来た男。その男は明日発つつもりだがもうお金は無く、行く宛は1つしか無い。しかし「スミス」の考えはホテルの人たちと話すうちに変化し……



6.……………………の夜

 ……深夜、予約も無しに泊まりに来た夫婦らしい男女。しかし男は電話で簡易ベッドを持ってきて欲しいと注文する。そして男は女にダブルベッドを譲り、自分はその簡易ベッドで眠った。2人はそれぞれの家庭の事情から駆け落ちして来たばかりだったのだ。



7.1957年9月30日の夜

 ……約半世紀、ホテルとして役割を果たした建物は取り壊されることが決まった。最後の宿泊客は1人の老婦人。古い名簿が捨てられたことを嘆く以外はトラブル無く、希望する部屋に通された。……923号室に。



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「聖アンセルム923号室」です(・∀・)



あるホテルを舞台にした人間ドラマ集です。

ウールリッチは生涯母親と共にホテル暮らしをしていました。1957年に彼女が亡くなっても彼は独りホテルで暮らし続けました。ウールリッチ=アイリッシュの作品にはホテルの登場が多いのですが、母が亡くなったからこそこの物語は生まれたと言っても良いでしょう。思い出に捧げられているわけですからね……



ホテルも人と同じく栄枯盛衰を体験する。物語が有る。宿泊客を通して別れも破局も希望も体験し、人生に区別をつける方法を見出して……あえて日付けのないその夜は現在だからこそ彼らの境遇に思いを馳せて欲しい。だってその日は「あの日」なんだよ。

あまりにもアレなので最初読んでいて「呪いの客室になったらどうしよう」と本気で思いましたが良かったそんな風にならんで←



だけど最後泣けるうううう

その部屋は巡り巡って彼女と"彼"に再会したんですね……最後、彼女はあの時の女性だと分からなかったのも泣ける……5もそうでしたがホテル関係者との会話には人間と人生の真理がありますね。

ウールリッチだからこそ書けた作品です。「サスペンスしか無いでしょ」と言う声が聞こえたらこの本を差し出したい。



「聖アンセルム923号室」でした(・∀・)/ 

彼女はある女の子の"友達"になった。それから……(*^o^*)