陳浩基 No.2◇13・67◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

これからは国内外の多々ジャンルに飛び込みます。




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2013年から1967年へーーー警察を通して紡がれる香港史!

 
 

 
◇13・67◇ -13・67-
陳浩基 天野健太郎 訳
 
 
現在(2013年)から1967年へ、1人の名刑事の警察人生を遡りながら、香港社会の変化(アイデンティティ、生活・風景、警察=権力)をたどる逆年代記(リバース・クロノロジー)形式の本格ミステリー。どの作品も結末に意外性があり、犯人との論戦やアクションもスピーディで迫力満点。 
本格ミステリーとしても傑作だが、雨傘革命(14年)を経た今、67年の左派勢力(中国側)による反英暴動から中国返還など、香港社会の節目ごとに物語を配する構成により、市民と権力のあいだで揺れ動く香港警察のアイデンティティを問う社会派ミステリーとしても読み応え十分。 
2015年の台北国際ブックフェア大賞など複数の文学賞を受賞。世界12カ国から翻訳オファーを受け、各国で刊行中。映画化権はウォン・カーウァイが取得した。著者は第2回島田荘司推理小説賞を受賞。本書は島田荘司賞受賞第1作でもある。
 
 
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1.黒と白の間の真実(黑與白之間的真實)
   ……2013年。香港屈指の豊海グループを仕切る兪家の総裁、阮文彬が殺害された。事件を指揮するのはロー(駱小明)警部。ーーーが、阮文彬の遺族を前に推理を語るのはローの上官で、肝臓癌で昏睡状態にあるクワン元上警視!?
 
 
2.任侠のジレンマ(囚徒道義)
   ……2003年。油尖管区で行われた麻薬取締作戦「クサリヘビ」作戦は大掛かりな作戦だったのに惨憺たる結果、つまり失敗に終わってしまった。この作戦で指揮官の初陣を切ったローは落ち込み、香港警察顧問のクワンは慰める。実業家の顔してマフィアな左漢強を本当に逮捕できるのか……「クサリヘビ」作戦から1週間後、エンターテイメント関係から思わぬ事件が発生して……
 
 
3.クワンのいちばん長い日(最長的一日, The Longest Day)
   ……1997年の6月6日をもってクワン上級警視は退職ーーーとなるはずだった。しかしクワンの名探偵ぶりを知る上層部は定年後も彼に留まって欲しいと願っていた。ところが無差別の硫酸爆弾が撒かれる事件が発生し、なんとクワンが直々に逮捕した凶悪犯、石本添が脱走したというニュースが入った!
 
 
4.テミスの天秤(泰美欺的天秤, The Balance of Themis)
   ……1989年。犯罪率が急増している旺角(モンコック)地区で香港警察が重要指名手配している石本添・石本勝兄弟一味が現れた。どうやら奴らはポケベルの暗号でやりとりをしているらしい。逮捕劇は嘉輝ビルという雑居ビルで行われたが、思わぬ銃撃戦となり……
 
 
5.借りた場所に(Borrowed Place)
 ……香港に住む英国人グラハム・ヒルはロンドン警視庁での経験を活かして香港植民地政府で汚職捜査を担当している。1976年の香港は汚職事件が頻繁に起こった上に悪質で、警察も例外では無かった。そして春、息子のアルフレッドが誘拐されて……
 
 
6.借りた時間に(Borrowed Time)
   ……反英暴動が多発した1967年。食べて生きるのがやっとの私はある日、いつも働いているお店で知り合いがテロを計画しているのを聞いてしまう。わたしはいつも近所を巡回している、『アチャ』と呼んでいる若い警官と一緒に車で香港島と九龍を駆け回る!
 
 
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『13・67』です(・∀・)
 
 
前回と同じく陳浩基、華文ミステリーです。本書も連作短編集ですが、クワンという1人の警察官が必ず登場します。「名探偵」と呼ばれるほどの頭脳を持ち、人柄も良いので部下を始めとする皆から好かれ、尊敬を集めています。短所はドケチであることですが……もっとドケチな人を知っているのでクワン程度のドケチはドケチじゃない← 本当にドケチな人間は人から貰ったものだけで生きてるんだぜ?←
 
 
本書はクワンという警察官が今までぶつかった事件を逆から辿るーーーつまり過去へ還ります。読むにつれてクワンはどんどん若くなります。クワンがいかにして市民のための警察で在る為に法律違反も辞さなくなったのか、とか自ずと知れていきます。最後の作品を読むと最初から読み直したくなります。最後の話で明かされる真実は、とてつもなく残酷な、幾つかの事実を叩き付けます。……。゚(゚´Д`゚)゚。もし「アチャ」があの時、市民の為の行動を取っていたら、「私」も兄貴も違う人生を辿っていて60代になっても良いことも悪いことも分け合って、隣で笑い合っていたかもしれないと思うと……
 
 
そして香港という特殊地区の歴史。英国との関係、市民と警察の関係、その遠さを浮き彫りにしています。今、香港はデモが多発して不安定ですが、その香港の警察にクワンやローのような人間的な優しさを持った警官はいるでしょうか? 香港だけでは無く、日本や欧米諸国にも、ただ凶悪犯を逮捕するだけでは無く、市民を守る為には内部の腐敗は絶対に許さない、人間的な高潔さを持った警官はいるでしょうか? この華文ミステリーは日本の警察小説と似ていて北欧ミステリーとは少し系統が違いますが、これから警察小説はますます増えるでしょう。警察の意義を問い直すことは、警察官なら誰でも持っているであろう「市民を、国民を守る」信念を思い出させると思います。
 
 
「13・67」でした(・∀・)/
次からまたセイヤーズ女史に戻ります(*^o^*)/