自分の人生、娘の人生。父は強かで野生的な娘を静かに見つめるーーー
◇杏っ子◇
室生犀星
野性を秘めた杏っ子の成長と流転を描いて、父と娘の絆、女の愛と執念を追究し、また自らの生涯をも回顧した長編小説。晩年の名作。
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「杏っ子」です(・∀・)
金沢文豪3人目、室生犀星。犀星は詩人ですが、小説家としての功績も大きく、本書は犀星作品の中で最も長編で読売文学賞も受賞した名作です。
本書は犀星の自伝小説で前半は自身を反映した平山平四郎の半生を、後半は犀星の娘朝子を反映した杏っ子こと平山杏子の離婚までの道を描いています。
娘に対する父親の目が冷静で、しかしそこに確かな絆を感じます。平四郎の少年時代は虐待に片足突っ込んだ辛いものだったため、杏子の人生にはあまり干渉しません。それは放任とかじゃなく、自身によく似た杏子の強かさを信じている故だと思います。
平四郎は高名な作家ですが、杏子はあまりそれを意識していません。むしろ他人が意識し過ぎてしまい、それが結婚生活の破綻に繋がってしまうところがなんというか……どうしたら良いのか……といった感じです。杏子は平四郎が当たり前なんだものな。
杏子の弟平之介はあまり登場しませんが、後半にぐんと出番が増えて彼も結婚生活に失敗したり、大事件を起こしたりします。平之介は杏子とは対照的に「小説家」平山平四郎を意識してしまい、盛大に転んでしまいます。破綻した結婚生活にあっさり根をあげた平之介と、それに4年も耐えた杏子。実に正反対です。……しかしこの2組の場合はまず同棲から始めた方が良かったのではと思うところ無きにしも非ず。
最後、家に戻る時に平四郎が杏子に言う台詞が実に素敵です。逞しさを感じます。平四郎は杏子を娘としてはもちろんのこと、1人の人間としても好意を持っていることがよく分かる台詞だと思います。
「杏っ子」でした(・∀・)/
次は新しい作家が登場します(*^o^*)/