エラリー・クイーン No.84◇心地よく秘密めいた場所◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

これからは国内外の多々ジャンルに飛び込みます。




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9ヶ月後、「殺人」という名の子供が生まれる! ーーーそして。さよなら、ミスター・クイーン。

 
 
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◇心地よく秘密めいた場所◇ -A Fine and Private Place-
エラリー・クイーン 青田勝 訳
    
 
巨大なコングロマリットを一代で築き上げた経営者ニーノ。その命令は神の託宣のごとき威圧感で他を従わせた。監査役ウォレスは公金横領の証拠を握られ、刑務所送りとなる代りに、21になる娘を妻にという要求を飲まされたのだ。それも結婚後5年を経なければ財産請求権は与えないという条件つき……だが、娘が生贄となったとき、一方では凶悪な犯罪計画がひそかに芽生えていた! 巨匠クイーンの最後となった本格長篇推理
 
 
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一代で巨大な富を築いたニーノ・インポーチュナは会社の金が監査役のウォレスに横領されていることに気が付いた。ニーノは刑務送りかウォレスの娘バージニア(21)を彼の妻にさせるかどちらかを選ばせる。それは5年間夫婦関係を維持できなければ財産権も得られない無慈悲なものだった。
 
 
それから4年後。バージニアはニーノの秘書ピーターと恋仲になりつつも夫婦関係をなんとか維持できていた。離婚を迫るピーターに不安を感じつつも。しかしインポーチュナ家では異変が起きていた。ニーノの兄弟で三男のジュリオが殺されたのだ。落ちていたボタンと残された足跡は次男マルコを告発していたが、今度はマルコが首を吊った。
 
 
ついに5年目の結婚記念日が来、バージニアは巨額の遺産相続人になった。ところが、その翌日ニーノまで殺されてしまう。数字の9狂いだったニーノに因んでNY市警に匿名の手紙が9通届いた。その9通はガセネタだったが、後から届いた1通は本物だった。その手紙が指す犯人とは!?
 
 
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「心地よく秘密めいた場所」です(・∀・)
ついにエラリー・クイーン、ファイナルです。こんな日が来ようとは……!
 
 
今回はなかなかエラリーが登場せず、巨大なインポーチュナ家の人間たちの方が出番が多いです。しかしそれもなんというか……薄いんだよなぁ……現実味がないというか。やっぱりぼやけてる。登場人物の個性が強いのは分かるが、それが描写仕切れていないというか。勿体無いと思ってしまいます。エラリーと警視の存在も薄いし、イマイチ掴みきれない作品です。
 
 
エラリーがまたも公衆の面前で推理すっ転んだのはもはや突っ込まないとして←、犯人がある意味超利己的だった。全てお前から始まって、しかも自業自得なのに動機が自己本位とか……わたしも嫌いな犯人像が何パターンかありますが、こいつも入れるべきですね。よく考えればこいつも犯人に当てはまったのですがーーーもう一方がはっきりし過ぎてーーー中盤まで違和感でしか気がつしませんでした……←
 
 
事件を起こすまでの9ヶ月は赤ん坊の妊娠期間に当てはまるので事件発生までは妊娠期間に置き換えられてますが、心地よく秘密めいた場所ってそういうことかぁ。犯罪を考える心の中。何を考えてもOKにして自由、自分以外の他人は不可侵、心の中を覗くことは憚れる……犯罪者にとっては犯罪を考える心の中こそ他人に邪魔されない唯一の場所なのです。
 
 
「心地よく秘密めいた場所」でした(・∀・)/
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「エラリー?」
「ああ。……ついにこの時が来たか。どうだね、今の気持ちは?」
「いや、なんと言ったら良いかな。……月並みだし、何度も言ったけどこんな日が来るとは思わなかった。
笑うかもしれないけど、わたし、自分が小さい時から大人になった今も元気に活躍している人は永遠に生き続けているものだと思っていたんですよ。エラリー、貴方も同じです。わたしは3年前の春に初めて読んで以来、ずーっと読み続けるものだと思っていたんですよ」
「最初はバーナビーだった。その後ぼくらと出逢った。その時君はまだミステリーに浸かって1年足らずだった。何か変わったかね?」
「うわ、未熟時代のことを持ち出すとか……今、考えるともう「Yの悲劇」の真相にはあまり驚かなくなったし、今はギリシャよりもエジプトの方が好きだな。あと登場人物の背景や心情にも目や考えがいくようになった気がする」
「3年間もよくぼくらに付き合えたものだ。そのーーー粘り強さと言ったら良いのかーーーいや頑固さにぼくは帽子を脱ぐよ」
「それ、シルクハットじゃなかろうね?」
「懐かしい話だ」
「本当だね。わたしはこの時、キャラ読みしかしてなかったような」
「この時からぼくの失敗を面白がっていただろう」
「完膚なきまでぺちゃんこになれば良いんだー!  と思った若気の至りを掘り起こさないでよ……」
「その頃ぼくも若かったよ」
「国名シリーズからライツヴィル・シリーズを読むとそう思います」
「ふっ。……ところでアンソロジーまで読むとは思わなかったよ。小説一筋で行くはずだったのに。ん読んでどうだった?」
「読まなかったら絶対損する。って思った。アンソロジーがなかったら、過去のミステリーを全く知らず、知識は広く、しかし浅く終わっただろうね。知り、かつ興味を持った短篇と作者の作品は遠くないいつかに必ず読むわ。たとえ興味の視線が外れていても遠くないいつか、必ず視界に入る。絶対に」
「知らない短篇も、作者もたくさんいただろう。新しいミステリーがどんどん生まれる現在、古くて、脚光を浴びないものは絶え間なく過去に押し戻されているから。これからその数はますます増えるだろう。……まさかあのヴァン・ダインとファイロが本国では忘れられた存在になるなんて思いもしなかった」
「けど2人がいなかったらエラリー・クイーンもバーナビー・ロスも誕生しなかった。それに米国は開拓の国だから開拓したら最後、過去は見ない。……2人はその土の中だけど日本が覚えています。少なくともわたしは覚えてます。……もちろんエラリーのことも」
「そう言ってくれて頼もしい限りだ」
「一方が忘れていても他方が覚えていてくれるから。それが時に人を前進させ、時に人に忠告し、押し留めるから。それらが発展を促し、過ちを食い止めると知っているから、そのために異なる人はいるんです」
「……君はこれからもミステリーを読んで行くだろう。感想を書き綴る中で自分の感情を知り、眼と考えを養え、それを人生において武器にするだろう。それは君の本性で役割だ。人生は短い、時間はもっと短い。だけど好奇心(=ミステリーへの愛)は果てしない」
「いつでも明日はないと思って生きているよ」
「それでいい。……ところで最初に話を戻すけど、3年間僕らの話を読んでゴールの鐘は鳴ったかね?」
「……確かに鳴ったけど、幸福ではないですね。寂寥ですかね。寂しいですよ、エラリー無しとか。確かに一時期離れたことありますけどいつかは読むと思っていたし。山河寂寥と言いますか。険しい山道や河を実は1人で歩いていたんだ。と思い知らされた感がします」
「それも3年間での変化だろうね」
「……エラリー」
「なんだい?」
「わたしはあまりいい読者じゃなかった。キャラ読みはしょっちゅうだし、パズル苦手だし。でも作品を通してエラリー・クイーンとドルリー・レーンたちを血の通った人間と見れたことは大きかったし、アンソロジーのおかげで興味の範囲はもっともっと広がった。……さよなら、ミスター・クイーン。出逢えたこととその作品を読めたことに心の底から感謝します」
「ありがとう。……君の読書の好奇心が空のように果てしなく天井のないものであることを祈っているよ」
「わたしの好奇心は空のように果てしなくてどこまでも青いですよ。……じゃあ、わたしはもう行かなくちゃ。警視とヴェリー部長刑事、ニッキーとジューナによろしくね」
「待ちたまえ。1つ訂正がある。この場合、『さよなら』はふさわしくないじゃないかね。君は僕をずっと覚えているんだろう。それなら別れの挨拶ではあるまい」
「……確かに。ってそう考えたら今までの作家たちってお別れ言ったわけじゃないんですね」
「目に見えた彼らが君の心中に入り込んで見えなくなっただけだよ」
「なるほど。……わたし、エラリー・クイーンに会えて良かったです。ほんとに」
 
 
ーーーエラリー・クイーン著、小説・アンソロジーほぼ読破達成。
2017年、6月15日。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
*引用・参考文献
・フランシス・フィッツジェラルド「グレート・ギャツビー」
・エラリー・クイーン「九尾の猫」
・マイケル・ロボサム「生か死か」
・アルチュール・ランボー「幸福」
・杉山苑子「山河寂寥」