『英語の発想 翻訳の現場から』 安西徹雄
ちくま学芸文庫
本の紹介
英語と日本語の違い及び共通点について非常に分かりやすく書いてある。
この本を読むと、英語を日本語に、または日本語を英語に翻訳する際に注意すべき点がよく分かる。
実例が多く挙げられており、理論一辺倒になることなく、より具体的なイメージをつかむことができる。
翻訳を勉強している人、英語を勉強している人はもちろん、単なる読み物としても楽しめると思う。
では、ここから各章の要約を試みていくことにする。
1.はしがき
Sparse hair or, worse still, baldness makes impossible the natural wish of men and women to be just like other people.
The mere fact of looking so different causes disdain, suspicion and ridicule.
本書のはしがきはこんな英文から始まる。
これを日本語に訳してみようというわけである。
ここで重要なのは、「意訳」がいかに難しいかという点である。
「人間なら誰しも、人と同じようでありたいと願うのは自然なことだ。ところが髪が薄かったり、もっと始末が悪いことにまるきり禿げていたりでは、こうした願いも空しいものになってしまう。ただ外見がちがっているというだけで、人から馬鹿にされたり、怪しまれたり、嘲笑されたりしてしまうのである」
これが上の英文の意訳になるわけだが、ここには英語を日本語に訳す際に注意すべき様々な点が含まれている。詳しいことは、後の章に詳細に書いてある。
ここでは、日本語として自然な訳をするためには、「名詞」が重要であるという点にフォーカスしたい。
上の英文をもう一度見てみると、sparse hair, baldness, disdain, suspicionなど名詞のオンパレードである。
つまり、英語は「名詞中心」、日本語は「動詞中心」であることが言えそうである。
この点を更に突き詰めていくと、英語は客観的な「もの」に焦点を当てる、日本語はある状態や出来事を、もっと状況に即して、全体的、直観的に、つまり「こと」としてすくい取ろうとするらしいいということが言えそうである。
このように、英語と日本語の根本的な発想の違いが、翻訳を試みる際には、非常に重要な差異となって立ちはだかるのである。
最後に、本書の狙いだが、翻訳の現場からという立場に立って、具体的に翻訳のプロセスを点検し、そこでどんな転換が必要となるかを見ることによって、日本語と英語の発想の対比を引き出してくることを目的としている。
ps.
ちなみに、上の英文の、sparseは「(髪や鬚などが)薄い」、disdainは名詞で「軽蔑、侮辱」、ridiculeは名詞で「嘲笑」の意である。
そして、本書に例として出てくる英文であるが、少なくとも大学レベルの英語力がなければ、理解するのは難しいだろう。