私はオタクだ。ここ数年語彙力が欲しいと喚いてきた。だからと言って意識して本をたくさん読んだわけでも、日本語を調べていたわけでもない。まあ要するに、口だけだ。

本を一番読んでいたのは多分、小学生の頃。文章を一番書いていたのも多分その頃だと思う。そのレベルで口だけのことだ。

 

今回、久々に本を読んだ。

本を読んだ後、何故かちょっと行動的になる私は、本の感想文を書けば、文章の練習にもなるし、文を書けば使える語彙も増えるんじゃない??というなんともまあ安直な思い付きで、読書感想文の書き方のコツ!というページを見ながらこの文章を書いている。

まあ読書感想文なんて小学生だって書いてるんだからそのレベルだっていいし、文字数制限もなければ誰かに提出しなけりゃいけないわけでもないし、っていう気楽な気持ちである。夏休み、真剣に感想文を書いてる本好きな小学生に怒られそうだなあとは思う。

 

本を読む数こそ減ったものの、本屋は好きで帰り道によく寄る。まず本という媒体が好きで、それがたくさん詰まっている本棚が好きで、それがたくさん並んでいる空間が好きで、そこの空気が好き。ひっくるめてとにかく本屋が好きなのだ。

本を読まないのにそんなに行って何をするかといえば、本の物色である。別に買うわけでも、何時間も立ち読みするわけでもないんだけど、なんとなく寄って、なんとなく物色してしまう。目の引いたカバーを手に取り、ひっくり返してあらすじをさらう。そんでそのまま売り場に戻し、ふらっと別のコーナーへ。

 

そんな私の本の買い方はもっぱらジャケ買いだ。本でジャケ買いって、、って感じだけど、物色の仕方が仕方なので自然とそうなってくる。「島はぼくらと」も、そんな感じで意識に留まった本だった。

たぶん、タイトルの「島」とか、帯の「17歳」とか、表紙の海とかが刺さったんだと思う。

私は田舎生まれで、劇的なものを好まない質だし、心がしんどくなると海を見に遠出したりする。あとこれは最近気が付いたのだけど、青春小説というジャンルが好きなのだ。花火みたいに綺麗で、永遠みたいに思える短い時間はキラキラしていてとても眩しい。自分が普通の高校生活を送ってこなかったから、そういう憧れもあるのかもしれない。

あとは辻村深月さんの小説を読んでみたいと思っていたのもある。本屋大賞とかで名前は知ってたけど、読んだことない作家さんだった。「冷たい校舎の時は止まる」は漫画の方を読んだけど、原作小説は読んでないから知ってるといっていいのか微妙。

 

今見てる読書感想文の書き方のコツってページに、書き出しは本を選んだきっかけから、って書いてあったけど、その前に簡潔に要点をまとめる、みたいなことも書いてあった。すでに1000文字超えててその注意書き丸無視だけど、ここは私の自由な世界なので。まあいいでしょう。

 

「島はぼくらと」は、瀬戸内海の離島で育った同級の高校生、朱里(あかり)、衣花(きぬか)、源樹(げんき)、新(あらた)の四人の、島での暮らしの話だ。島の名前は冴島。冴島ってほんとにある島なのかなと思って調べたら、「龍が如く」の主人公が一番上にヒットした。実在いないらしい。

高校すらない島には仕事だってない。毎日フェリーで本土に通学している彼女らは、進学にしろ就職にしろ、卒業と同時に島を出る。そんな四人が、四人で過ごす最後の一年。エモくないわけがないじゃんね。

 

主要人物って大体一見普通枠と、一見特別枠に分かれると思うんだけど、朱里と新が普通枠で、衣花と源樹が特別枠って感じ。人間に普通も特別もないし、読めばさらにどうでもよくなる枠組みだけど、ニュアンスでわかってほしい。ちなみに特別枠の二人の名前は変換しても一発で出てこないよ。

島の暮らしっていったら、まさにスローライフで特に事件も特別なこともない、って感じだけど、実はこの島、Iターンやシングルマザーを積極的に受け入れていて、四人のそばにもそういう人たちがいるし、四人のお家にも色々あったりするのだ。

 

変わらない日常のなかで、それでも確実に変わっていくことへの寂しさがたくさん描かれていて、私もちょっと寂しくなった。ありきたりな言葉だけど、人生は別れの連続なんだと思う。意図的でも、そうでなくとも。

別れの船出のシーンがたくさんある。詳細に描かれたり、一言で終わったりは様々だけど。

登場人物に、シングルマザーの親子がいる。Iターンでやってきた、朱里の家が目をかけている親子で、四人とも交流が深い。

そんな娘ちゃんが、島を離れる人を乗せたフェリーが出向するとき、「いってらっしゃーい!」と声を張り上げるのだ。それにつられるように見送りの人たちもいってらっしゃいと声を上げ、そしていってきますが返ってくる。

すごいなあと思った。詳細は省くけど、このシーンで去っていく女性は、とても島に馴染んではいたけど、元々は仕事で来ていて、島民ではないから帰ってくる理由がない。

それでも娘ちゃんは、帰ってくると信じている、というか、そうとしか思っていない。娘ちゃんはいつも、「いってらっしゃい」とこの船に乗る彼女を見送っていた。まだ幼い娘ちゃんにとってはいつもの光景となんら変わりがなかったのだ。だから、「いってらっしゃい」。

だけど、それに周りの大人は、俯いたりしなかった。みんな、「いってらっしゃい」と口にして、そして、たくさんのいってらっしゃいに返ってきた、「いってきます!」。

いやすごくない????この短すぎるシーンにこれだけ詰め込める表現力。対比もしっかりあるから余計にクる。

元々ミステリ作家さんなだけあって、あちこちに散りばめられた、ちっちゃい謎、といえないレベルのとっかかりも全部きれいに攫って行くの。

なんかもうほんとすごいよ。眠くて雑に締めようとしてるね。衣花のこととか書きたいこともあったけど、まあ自由だからいいよね。

 

ところで遅まきながらいま気づいたんだけど帯の言葉が、

 

この島の別れの言葉は

「行ってきます」。

きっと「おかえり」が

待っているから。

 

だったんだけど、これに読後で柔らかくなってる心のところをぶち抜かれちゃったね。

 

きっと誰しもに、お帰りが待ってる場所ってあるんだと思う。実家とか、そういう話ではなくて。今なくても多分、まだ出会っていないだけで。それは土地だったり、家だったり、人だったり、色々な形があるんだとも思う。

私にとってもあるのかなあ。

きっといつか、見つけられたらいいななんて、そう思った。