【太宰治 斜陽】
集中力に欠ける私の様な人間でも、スラスラと読める本であった。私が勝手に想像していたよりも短編で、儚い最期であった。
なぜ、死者はこんなにも美しく感じられるのだろうか。生きている間は、無様で、醜い、まるで腹の中に生きる蝮の様に感じられるのに、あるいは、世間一般に、
成り下がりの格印を押されるだけだというのに。人はどう生きるのが正しいのであって、道徳や正義といったものは、
一体どこぞの誰が決めたものなのであろうか。
なぜ、他の人の前で人は、
正しくあろうとするのであろうか。
私には分からない。
それが、誰かの可能性を押し付けている様で、また或いは、誰かの努力を、否定されてるように感じられてならない。
どうして太宰治は、あんなにも言葉巧みに言葉を操り、どうしようもない行き場のない不安を感じて、自分の不出来を嘆き、または世間の常識を嘆き、途方もなく哀しみ、又優男であったのだろうか。
正義とはなんであるか。周囲の顔色を伺って規律が乱れない様にすることか。
正義とはなんであるか。人皆それぞれに心の防衛線を張り、それを越える人々を貶めるためにあるのか。



正義とはなんであるか。情けない政治家達を倒すためにあるのか、それとも嘘を貫くための嘘にすぎないのか。
正義とはなんであるか。出鱈目な思想家が思想ばかりをかたって、その後に及ぶ影響も考えなかった悪徳主義者の思想なのかも知れない。正義とはなんであるか。

私の思う真の正義とは、
誰かを愛し、真にその人の為に尽くすことである。
だから彼女は、私にとって、正義であった。
自分の人生を投げ出して、
生きる為に愛することを選び、生きる為に子を孕んだのだ。
彼女は、努めて冷静で、穏やかだった。
世間一般で言う様な理想な女性ではあるまいに、私にとって彼女は酷く美しく、
無知で愚か故に、彼女の人生は残酷であった。
ただ、正しい事を彼女はしたのだと思う。

無知とは生きる知恵の事。
愚かとは生きる為に恥を捨てなかったこと。

彼女は、貴族の女だったのだ。
それが最上の褒め言葉になる事を、彼女は知っている。

いい女ではないか。

彼女の周りの人間は、皆社会の生み出した犠牲者達だった。誰も、責められることはあるまい。自分らしく生きた。それで充分立派ではないか。太宰は優しい男だった。

太宰は、…優しい男だった。