※ネタバレふくみます。
息子を取り上げられ、再会も謝罪も弁解もできないまま病死した女性と
その息子を取り巻く人々の連作小説。
美しくていつまでも読んでいたい小説というのは初めてかもしれない。
タイトルどおり、哀しいテーマなのだけど。
異父兄を探してプラハへ旅立つ、という
第一章の舞台設定が女心をくすぐるのだろうか?
どんでん返しや大きなハプニングや謎解きがあるわけじゃないのに
それぞれの登場人物の動向が気になって読む手を止められない。
どの話も、真冬に粉雪がしんしんと降り積もるようにせつない。
でも、ラストにはそのひとつひとつの雪片が羽根に変わって
春風にふわりと舞い上がるように昇華される。
各話の主人公たちが、それぞれ前を向いて歩み出すのがいい。
それもガシッと踏み出すのではなく、ゆっくりと優しい一歩なのが。
喬に腹が立ちすぎて、本当に男って!と歯ぎしりしそうになったが
「人はけものののように交わって子をなし~」のところで
奈緒子、おまえもバカか!とがっかりしたわ。
後藤氏もなぁ。誠実な愛妻家だと信じていたのに…!
それが後藤夫妻の人間臭さを引き出し
読者を惹き付けているのかもしれないけど。
第四章『ただ一度の』がけっこう好きだ。
大好きな『南下せよと彼女は言う』にも出てきたカレル橋が
第一章にも出てきて、またヨーロッパ行きたい熱が再燃。
そして表紙の美しい観覧車の写真、横浜でも神戸でもないし
何処だろうと思っていたら、
ウィーンのプラター公園というところだった。
もっといろんな角度から見てみたくて、思わず画像検索してしまった。
聡がチェロ奏者だからか、ウィーンやプラハの情景のせいか、
秋という季節のせいか、登場人物たちがもの静かであるせいか、
ずっとBGMにクラシックが流れていそうな趣きがある。
今の季節、秋の夜長に温かい飲み物をおともに
ゆっくりと読むのにぴったりな小説だと思います。