この世にひとつの本/門井 慶喜 | Bon livre –いつか最良の一冊と出会う–


この世にひとつの本


※ネタバレふくみます。

この世にたったひとつの本を探しに旅に出る…というお話ではありません。
疾走した女流書道家の行方と、社員の相次ぐ白血病死の謎を調べに、
印刷会社の社長子息たちが奔走する、というお話。

門井さんの小説は、事件が起きてもドタバタすることがなく穏やかで、
物足りなさを感じる人もいるかもしれないけど、私はこの雰囲気が好き。

三郎さんの無邪気でありながら頼りにもなるところとか、肩の力が抜けていい。

巌とーちゃんも敏腕社長であり、盗聴したり愛人囲ったりする男だけど、
そこまで嫌なやつになりきれない、憎めない、リアルな人間らしさがあるし。

第二章は目が見えないことを利用したトリックかな…と勘繰っていたら、
ぜんぜん伏線でもなんでもなかった!
そうだった、大がかりなトリックを仕掛けるような作風でもなかった。

書道家が意外な人物…!ってこともなかった。非常に心臓に優しい作風です。

「いい紙にいい墨をのせれば字はけっして色あせない。
 水に流れない。劣悪な環境にも耐える。
 顔真卿も、正倉院文書もそれで千何百年も伝わってるんだ。」

紙の本を愛する者として、このセリフはかっこよくてしびれた。

署名っていうのかな、書道で真ん中に字を書いたあと、左側に自分の名前を入れるやつ、
アラサーのアイドルが右側に名前を書いてるのを見てビックリした。
スタッフとか誰も注意しなかったんですか!? 日本人として恥ずかしいよ!?
幽嶺さんが見たら頭スパーンはたかれてるところよ。

ひさびさにやりたいな、書き初め。もう五月だけど。初には変わりないし。
「る」が書きたいので「る」が入ってる言葉がいい。「つけまつける」とか。
どういう抱負?ってなるけど。 「今年こそつけまつけます!」 今日達成できるわ。

書道家と、白血病死をだした工場はどう結びつくのか。
とりあえず、お鍋に生クリームを入れるのはやめましょう。