恋するように旅をして/角田 光代 | Bon livre –いつか最良の一冊と出会う–


恋するように旅をして (講談社文庫)


女ひとり、蒸し暑くて砂ぼこりのたつような街ばかりを、気の向くままに歩く。

スリランカ、シンガポール、タイ、ベトナム、ネパール、ミャンマー、ラオス、
アイルランド、モロッコ、スペインの向こうにあるポルトガル。
どれも聞いたことはあるけれど、はっきりと何かを連想することができない国々だなぁ。

じゃあこの本を読んでイメージが変わったかというと、とくにない。
おすすめの観光地やおしゃれなお店、おいしい料理など紹介する本ではないからだ。

大学生に「33歳で独身なんておかしい」と言われたというエピソードに、首をかしげた。
初対面の相手にそんなことを言われる筋合いはなかろう、ということではない。
その点においては、私も33歳のとき独身だろうから、先取りして文句をつけておくけども。

『ミュージシャンと猫』という本の、GOING UNDER GROUNDの河野氏のページで
奥さんが角田光代さんだと知って驚いたばかりだったからだ。
お得意のWikipediaで調べたら、河野氏とは再婚で、初婚の相手は伊藤たかみさんだとある!
フラミンゴの家』も『そのころ、白旗アパートでは』も愛読していたが、女性だと思ってたー!
何重にも驚いた。おそらくこの本は伊藤さんと結婚されるよりも前のお話なのだろう。

「旅して恋した話」ではなく「恋をするように旅した話」であるから、
恋する相手は、その国や土地だった。いつも片思いだと書かれている部分がすごく好き。

角田さん(のボディ)を狙う日本人旅行者やナマグサ坊主もつるりとかわし、
バスでビールをあおるトーマスさんや、ツーリストのおじいさんと何気なく会話をする。
言葉が通じなくて困った、というエピソードもいくつか出てくるが、それも旅の醍醐味。

知らない町でぐるぐる迷ったり、荷物を載せたバスが行ってしまったり、
まわりにお店の一軒もなくて、フロントの少年と手品の練習をして夜を過ごしたり。

一日に5回もお祈りをささげる国の人が、
「神様の気が向いたら」は英語で「メイビー」と同じような意味だという。
いっぽう、日本人は日ごろ神様を意識せずに過ごしているのに、
「神様が見てる」「罰が当たる」と、とてつもなく巨大な力のようにいう。
この対比というか反比例?おもしろいなぁ。

雨宿りとか、サンタとか、列車の中の虫とか、揺れるボートとか、国々の文化も、
螺旋の渦とか、ポケットの牡蠣とか、フレンズ幼稚園のバスとか、角田さん独特の見解も、
そういうこともあるのかぁ、といちいち驚いたり感心したりおののいたりの連続だった。

私はひとりでぷらりと海外に行く勇気はないが(行動数値の定量的にね)、
いつかどれかの国で、何かの肉の刺さった串を食べて、踊ったり迷子になったりしよう。


ミュージシャンと猫 (P-Vine Books)