せつない愛 凛々と不倫
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あやまらないで…

彼が旅行から帰ってきた。

彼は言った。3回も言った。「ごめんね」と。


私はイヤだった。アイコさんの言った通り

奥さんを抱いたから?私も抱いて、その次の日は

奥さんも抱いたから? そうなの?


「どうして…?何か悪いことしたの?」

「…いや、…」

「どうして、あやまるの?どうして?」

「…、ひとりにさせちゃったな、と思って、さ…」

「あやまらないで…どうせ、いつも独りなんだから」


彼はそれ以上なにも言わなかった。

私も何もいわなかった。


寂しかったって言えばよかった

帰ってきてくれて嬉しいって言えばよかった

でも、言えなかった。


奥さんを抱いたかもしれない…それがイヤなのだ。

分かってる。こんなことを気にしている自分に腹がたった。

彼が悪いんじゃない。


私は彼と一緒なのに、無性に孤独だった

涙をこらえることができなかった


わたしだけのものってないのかな?

絶対の存在ってないのかな?


「ごめん…」彼はまたあやまって、私を強く抱いた。

わたしは、そのまま彼に抱かれるのだろう。

そして、また孤独や恍惚や歓喜が交互する世界へ堕ちていくのだろう






奥さんのこと抱くの?

彼は今、沖縄にいる。

ダイビングに行っている。

彼と奥さんの共通の趣味はダイビングで、

もともとダイビング仲間。

彼と奥さんと共通のダイビング仲間とダイビングに行ってしまった。

メールによると、沖縄は29℃らしい。

東京はこんなに寒いのに。

こんなときは本当に泣きたい気分。


バイトの帰り、アイコさんと話した。

「まあ、浮気するような男はダメよ。もし、あんたと彼、

結婚できても、彼、また浮気するよ。今度はあんたが奥さんの立場だよ、

それも不幸ってもんよ」


私はバツイチだ。

前夫の浮気が原因で離婚した。いや、離婚された。

携帯を見たら、浮気相手とのメールばかりが出てきた…

怒りとも悲しみとも言えないような感情…

あんな思いは2度としたくはない。

そう思っているのに、彼の奥さんには、同じ思いをさせようと

している…


だから私はあまり彼にしつこく迫れない。

自分と同じ思いをする女性は、彼の奥さんと言えども

気の毒だ。


「バッカじゃないの。そんなんだから利用されるのよ。奥さん以上に

好きな女性なんてできないわよ、バカ」


バカを2度も言われた。きっと何十回言われてもいいほど、

私はバカなのだ。でも、私の前夫は出て行ったよ、浮気相手が

私よりも好きで…


「何日間、彼、旅行なの?」

アイコさんがタバコに火をつけながら聞いた

「えっと、3泊4日かな…」

「その間に少なくとも1回は、奥さんのこと抱くよ、彼」

「…………そう?」

「ダイビングするくらいだからね、少なくとも生理じゃないしね、毎晩かもよ」

「やめてよ…」


家についても、アイコさんの言った言葉が頭から離れない。

「その間に少なくとも1回は、奥さんのこと抱くよ、彼」

そう?そうなの? アイコさんの言うとおりなの?

奥さんに子供ができたら、私、どうしよう?

きっと、邪魔にされるのかな、私…

彼に捨てられちゃうのかな、私…


奥さんのこと抱いてるの?私が一人ぽっちの時に。

奥さんのこと好き?好きだったら、私、身を引くよ。

私のこと忘れちゃう?

二人のお墓は?


また、泣いてるよ、というように

サクラが寄って来た。

「ニャー」と強く鳴いた

「泣くくらいだったら、やめなよ」と言ってるみたいだった。


明日、彼は戻ってくる。

羽田に着いたら、そのまま私に会いに来ると言う。

仕事があるって言って、羽田でみんなと別れて

私のところに来るって約束した。

お土産を持ってきてくれるって約束した。


「約束してくれたんだよ、サクラ」


サクラは目をつぶったまま。

「少なくとも1回は、奥さんのこと抱いた後にね」






いつまで一緒なのかな…

今日は彼が一緒だ。

でも、思う。いつまで私と彼、こうしてられるんだろう。

彼は売れないカメラマン。今は、いい。

もし、超売れっ子になったら、もう忙しくて会ってもられないはず。


奥さんにバレたら、もうおしまい。

でも、ずっとバレないなんてことあるのかな?


こんな幸せはいつもで続くのかな…


「何考えてるの?」

彼が後ろから抱きしめてくれる。

「ううん、なんにも」

「そうかな?」

「ねえ、わたしたち、いつまで一緒にいられるの?」

「…一生」

「うそ。うそだよ。」

「一生だよ、オレはそう思ってる」


彼と私が知り合ったのは、私の勤めるカフェで、だ。

小さいカフェでお金がないので、メニューの写真は

格安カメラマンでなくてはいけなかった。そこで白羽に矢が

彼にあたった。


撮影する料理を担当したのが私だった。


今日も私の作ったランチをカメラで撮影してくれた。

私の部屋には、私の作った料理やら、セーターやら

サクラの写真がいっぱい。


「そうだ…ねえ、喜んでくれる?」

「…なに??」

「これ」


「わあーー」

彼は今まで、私たちが一緒に食べたご飯、

お酒の写真を全部撮影してアルバムにしてくれていた。

「すごいでしょ?そして、これ」

あっサクラも撮ってくれてる…

「一生撮影するからね。そして、ノーベル賞もらうんだ」

ノーベル賞??確かに、毎日食べたものを40年以上撮影して

賞をもらった人がいるかも。


「そして、これ…受け取ってくれるかな?」

「なに?」

通帳だった…

「お金?…受け取れないよ、わたし」


確かに貧乏だけど…でも

「君と知り合って1ヶ月たった時から

ちょこっとずつ貯めてたんだからね。売れないカメラマンだから

こんだけだけど。これからもちゃんとお金入れるから」


私はちょっと泣いてしまった。

「なんで泣くの?だめだよ泣いちゃ」

「だって…」

「…何にもしてあげられなくて、ごめん。何かしてあげたくて、

こんなことしか思いつかなくて。買いたいものがあったら買って

欲しいんだ」


「…お墓買って、このお金で」

「お墓? 二人の?」

「そう。二人のお墓」

「…よし、分かった。そうしよう。お墓積み立てだ!!

おっきなお墓買うぞ!!……

でも、長生きしてくれよな。」


彼は先月、私が健康診断でひっかかったのを気にしている。

腎臓が悪いらしい。お酒の飲みすぎ?それは肝臓だよね。


たまに、私なんて病気になっちゃえばいいのに…

と思う。明日とか近々死んだら、一生彼と一緒だったことになるもの


サクラを見た。

「私はどーなるの??」という目だ。

大丈夫。彼にちゃんと託していくよ、サクラ。


ちょっと疲れたので寝よう。でも、今日は彼がいるから

きっとゆっくり寝られる。

サクラ、布団に今日は入らないでね…





奥さんの顔

今日は、私のバイトが夜10時に終了。

バイト先の近くの駅まで、彼が迎えにきてくれた。


「今日はね、魔法を見せてあげるよ」

「魔法??…」

「そう、魔法。紅葉が見たいって言ってたからさ、紅葉を

見せてあげたくて、今夜は参りました」

「…でも、まだ東京は紅葉しないよ」


パソコンを開いて、彼は1枚の写真を私に見せた。

「あっ、この間行った井の頭公園の写真」

緑がいっぱいの写真。紅葉じゃないよ。

「では、姫、ここをクリックして」

言われた通りにクリックすると、

写真の緑が全部紅葉になった

「すごーい」パチパチと手を叩いて喜ぶと、彼も本当に嬉しそう。

その彼の笑顔が好きだ。


彼は”売れない”カメラマンなので、

パソコンを使って、そう、フォトショップとかいう画像を

作るもので、いろんな写真を作る。

この間は、私とベッカムのツーショットまで作ってくれた。

写真の中では、なんでも可能になる。

現実もこうだったらいいのにな。


「ちょっとトイレに行ってくるね。写真見てて」

と彼が席を外した。

私は言われたとおりに、クリックしたりしてしていた。

「あれっ? ヘンなボタンクリックしちゃった…」

やだやだ、大丈夫?? 私は機械音痴なのだ。


「あっ………」

結婚式の写真だ。これ…奥さん?

ちょっと想像と違うかも…私の方が…

可愛いよね、そうだよね。

でも、思ったよりもキレイな人…かも


どうしよう…どうやって画面戻すのかな?

彼、戻ってきちゃうよ。


彼と目があった。

「アッ」という顔をほんの一瞬だけした。

「これ…」

「あーあ、ダメな子だな。違うところクリックしちゃってさ」

と笑顔でその画面を消した。


それから始終笑顔ですごしたけど、

自宅に戻っても

やっぱり、あの映像が頭から離れなかった。

あの人と一緒に暮らしてるんだ、彼は。


サクラが鳴いた。携帯メールの着信音が聞こえた。


彼からのメール

「オレって、ずるいよね。ごめん。さあ、

はやく寝なさい。とんでもなく君が好きだよ」

「一緒にだったら、ちゃんと寝ます」

「分かった。せーの、で一緒に寝よう。

せーの、で魔法をかけるよ」


そうだよ、せーの、で奥さんの顔、忘れさせてよ…

「せーの!!」

早く目をつぶろう。奥さんの顔が浮かぶ前に

早く、早く寝よう。









文明の罠

週末が明けると、朝から彼からの

メールが何通も届く。

奥さんが朝早く出かけてしまうから、

奥さんの目を気にする必要がない。


「おはよう(^^) モーニングキスを届けるよ」

「おはよう。まだベッドの中です。即、抱きしめて」

「了解。痛いほど抱きしめるよ」

「痛いのは困ります(笑)優しくね」

「はい。優しく。今日の予定は? カフェは何時から?」

「今日は遅番です。夕方4時から」

「じゃあ、それまで一緒にいよう。これから行くよ。ベッドで待ってて」

「了解。部屋、汚いけど…」

「大丈夫。片付けるよ。ゆっくりしてなさい

大切な君へ サクラにくれぐれもよろしく」


私は一度、携帯をなくしてしまって、

彼と必死になって探したことがある。

そんなことありえないけど、もし万一、私の携帯が

彼の奥さんの手に届くことがあったら…考えただけでも

私たちをぞっとさせた。

なんてことのない所から携帯は出てきたが、本当に

まいった。


携帯がないと、私たちは通信できない。

昔から不倫している人はいるけど、

どうやって、連絡取り合ってたんだろう。

一昔前はポケベルってものがあったな…

でも、それも最近の話。

どうやって、電話とかしてたんだろう。家の備え付きの電話で。

それこそ、奥さんにばれちゃう。


今は「不倫」しやすい時代だなって思う。

だって、こんな簡単に愛をメールで送れる。それも誰にも

気付かれずに、二人だけの世界で…


携帯の中に残る二人の愛の跡を見る。

「好き」「愛してる」「離れたくない」「もっと抱いて」


これって本心なのかな?

急に客観的になってしまった。

バーチャルなものだけに、

愛もバーチャルなのでは

ないだろうか?

本当に心からそう思ってるのかな?


実際の行動がともなわないことに

対して現代人は大胆だ。

「もっと激しく抱いて」「あなたのものにして」

実際に起こりえることなのだろうか…?


よく分からない、甘い、心地よく不透明な

世界に陥る。文明の罠なのかもしれない。


彼も私も罠にはまっているのか?


いいか、もう、そんなこと。

私はもう彼の腕の中にいた。

よく分からない、甘い、心地よく不透明な

世界…


週末明けは何となく、彼の動きが激しい。

貪られるように抱かれる。


彼となら、どうなってもいい。

思わず声の出る、この瞬間。

罠にはまった瞬間なのだろう。