奥山で採ったゼンマイを売り

それで生計を立てていた

生業があったといいます

豪雪地帯の奥山の山菜は太く瑞々しい

降り積もった雪の下は温かく

植物の越冬には有利な環境

積雪下は真冬でも0度以下にはならず

マイナス十数度の寒風が吹きすさんでも

積雪下の植物は凍結せず

湿潤で植物は乾燥することもなく

山菜はこうした環境で越冬し

春になると豊富な雪解け水と

新鮮な空気をたっぷり吸って一斉に伸びる

といいます

私が初めて豪雪地帯の

「秋山郷」を訪れたとき

道中とにかくあちこちで

“水漏れ”を見て

水道管の破裂と考えたほど

豊富な雪解け水でした

(笑)

豪雪地帯の山村の人々は

雪が降り積もると

「ことしゃ山もんがいいぞ」



遠い春の奥山に思いを馳せるという

ブナ帯の豪雪地帯では

奥山に良質のゼンマイが多く

里の雪が消える5月中旬頃

山奥に小屋を架け

何十日間も山にこもって

ひと春で

何百万円も稼いだという

ゼンマイ小屋の資材は山で現地調達し

必要なものは全て担いで運んだため

必要最低限だった

昔は、布団もなく

赤ん坊を連れて入り

夜はランプを灯し

煮炊きにはブナを用い

ゼンマイ採りは厳しい労働だった

夜中3時には起床し

弁当のおにぎりを用意し朝食をすまし

4時半頃には小屋を出て

毎年数人は事故死するという

渓谷の危険な急勾配を

山越えしながらゼンマイを採り続け

ゼンマイは湿気の多い

痩せた崖地に生えるため

足が滑らないよう金カンジキを履いて

崖上の灌木にザイルを結び

命綱を伝って斜面を移動しながら

良質なゼンマイを採る

良質なゼンマイほど

素人が入れない岩場の崖斜面に生える

ザイルなど用いず

崖に生えた木の枝を頼りに採る人もあり

お昼休憩後に小屋に戻りますが

帰りは20キロにもなる

ゼンマイを背負っての

分厚い雪渓が残る渓谷の移動となり

行きより帰りはさらに厳しく

また

採ったゼンマイはすぐに硬くなるため

帰宅したらすぐに茹でる必要があり

茹で方には難しいコツがあり

茹で加減は製品の出来を左右するといい

上手に茹でたら引き上げ

茹でたゼンマイを干す

干す作業もまた手間がかかる

この辺りの

厳しいゼンマイ採取から

茹でて揉んで干す行程や

山暮らしの厳しさは

何冊もの本で読みましたが

簡単には書けません

何人ものライターが取り上げ

私もそのゼンマイ小屋の話に

取り憑かれるほど

ゼンマイ小屋の仕事は

厳しい労働だということなのですが

奥只見地域のあるご夫婦は

2ヶ月で375キロ

専門の商人に買い取ってもらって

約400万

2ヶ月のうち実際に働くのは35日

1日10万円以上の稼ぎだったといいます

ゼンマイは

天日干ししたのを

「赤干し」

室内で干したものを

「緑干し」

「赤干し」の方が高く売れ

太さや、下ごしらえの手入れの良さも

評価の対象だそうで

ゼンマイが

危険な岩場に多いのに対し

ヤマドリゼンマイは

里山の明るく開けた湿原などに群生し

市場で売られているのは

ヤマドリゼンマイが多い

といいます

ゼンマイは

雪が消えて半年余りで芽を出すそうで

雪渓が残る深い谷が

新緑に包まれ

シラネアオイが咲き

岩魚が踊り

四季の中で最も美しい季節が

ゼンマイ採りのシーズンといいます

山村の人々にとっては

シラネアオイよりゼンマイなのでした

ゼンマイは

乾燥することで栄養価が高くなり

古くから

神経痛、かっけ、水腫

りん病、腹痛に効くと言われ

山村の保健食でした

ほかに

催乳、強壮、補血、貧血、利尿、血圧降下

ゼンマイを常食すれば

健康上大変有益だと言われたそうです

晴れ間を見て天日干しをする方法と

小屋で燻して乾燥させる方法があり

燻したゼンマイは

120キロで150万になったという

しかし

体力の消耗が激しく

体重は10キロも落ち

煙りで目を痛めたといいます

こうした

ゼンマイ小屋での過酷なゼンマイ採りは

昭和60年代には途絶えたといいます

どの本にもゼンマイ小屋が

消えてなくなったことを伝えていました

ゼンマイの薫製には

生のブナ材が必要ですが

国立公園法の整備で伐採が禁止されたり

入山許可の手続きが必要になったり

重労働でリスクを伴う仕事は

高齢化が進み後継者もなく

カモシカによる食害も増え

林道開発により日帰りが可能となり

ゼンマイの仲買い値が下がった

(直接顧客販売は別)

などが理由だといいます

富山県の北アルプス朝日岳の

「七人組平」というところは

7人の玄人が小屋架けで

ゼンマイを採っても有り余るほど

ゼンマイが生えていて

1シーズン一人150万円として

7人で1000万円を超えたという

その恵みを毎年維持するためのルールも

親から子へ子から孫へと付け継がれ

山と共に生きるための

秩序が確立されていたといいます

ゼンマイ小屋

マタギの本を読んでも

山の仕事の本を読んでも

奥山のゼンマイ小屋の話しが出てきます

マタギの話しに比べて

刺激が少なそうですが

そんなことは全くなく

多くのルポライターが

ゼンマイ小屋の住人に

惹きつけられてきました

また

マタギは

雪深い山間集落に暮らす狩猟の民で

山の神様を信仰し豊かなブナの森を猟場にし

ツキノワグマなどの獣を捕ったり

渓谷の人跡未踏の上流で岩魚を捕ったり

ゼンマイやワラビなどの山菜や

キノコを採ったりして

四季を通じて山の恵みを

生活の糧としてきました

マタギにとっては

伝統的な習俗を守り続けることが

自らの暮らしを守る知恵で

豊かな環境を残すためのルールで

今でも受け継がれています

ちなみに

「楽天」

山形県小国町産
特上干しぜんまい100g

3000円

高級食材です

険しい山奥から採取し

昔ながらの製法

一本一本手揉みして乾燥させて仕上げた

国産天然干しゼンマイは

今や高級食材です

「ゼンマイ嫌い」

などと言っていた私も

これなら美味しくいただけるかもしれません