「違うだろ!」認知症の親に息子激怒…熱心な介護、その末路 | 老後の生きがい楽しく

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2020.6.20 医療法人翔樹会 井上内科クリニック 
院長  井上 雅樹
 
 「違うだろ!」認知症の親に息子激怒…熱心な介護、その末路
 

徐々に衰えていく親を見るのは辛いものです。そのため、いざ介護を始めるとき、
 
子は「あの頃のように元気になってほしい」「まだまだ長生きできるはず」と前向きに頑張ろうとします。
 
しかし、時には「熱心な介護」こそが親子の心身を追い詰めるという事実をご存知でしょうか。
 
※本連載は『大切な親を家で看取るラクゆる介護』(幻冬舎MC)から抜粋・再編集したものです。
 

「健康で当前」の若いころ、「不調ありき」の老後
 
要介護の高齢者のほとんどは、何かしらの病気を抱えています。
 
皆さんはこの「病気」について、どんなイメージをもっているでしょうか。
 
病気は健康や命を脅かす悪いもの、病院に行って治さなければいけないもの。そんな感じかもしれません。
 
確かに若いときの病気には、そのイメージが当てはまります。
 

若い人に多い病気は、感染症や外傷などの急性の疾患です。
 
基本的に体力があり、全身の臓器や生理機能もよく保たれている若い人は、
 
治療をして病気という悪い要因を取り除けば健康を回復し、もとの生活を取り戻すことができます。
 
学生なら学校で勉強をできるようになり、社会人ならば職場や家庭に戻って自分の役割を果たすことができます。
 
病気は治療をして克服するのが“正しい”ことで、そこに疑問をはさむ余地はあまりありません。
 

しかし、高齢者の抱える病気はそれとは異なっています。
 
一般に高齢になると、高血圧や糖尿病といった慢性疾患を抱える人が多くなります。
 
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所の調べによると、75歳以上の高齢者の8割以上は、
 
高血圧症、胃・十二指腸潰瘍、脂質異常症、関節症・脊椎障害といった慢性疾患を治療しているということです。
 
また病気も一つとは限らず、2種類以上の慢性疾患を抱える人が6割を超えています。
 
「血圧が高く、心臓の働きも落ちていて歩くと息切れがする」とか、「血糖値を下げる薬を飲んでいて、腰や膝も悪い」、そんな人が多いと思います。
 
さらに、命にかかわる病気である脳卒中やがんを経験する人も、60代くらいからぐんと増えてきます。
 

認知症も年齢が高くなるほど発症する人は多くなります。
 
 
一般的に70代では全体の10%、80代では全体の30%にも上ります。
 
さらに要介護となると半数近くいるような印象を受けます。
 

治せない病気が増加…医師が伝えたい「6つの特徴」
 
なぜ、人は歳をとると病気になりやすくなり、また一度病気になると治りにくいのでしょうか。
 
それはいってしまえば当たり前のことですが、年齢を重ねると全身の血管や
 
骨、筋肉、そして臓器そのものにも加齢による衰えが出てくるからです。
 
臓器の働きが弱くなると、私たちの健康を支えているさまざまな生理機能も低下します。
 
高齢者は個人差も大きいので年齢だけで一概にはいえませんが、
 

平均的には75歳の人は30歳の人と比べると、心拍数が70%くらいに減っています。
 
最大呼吸量は半分以下の、40数%になってしまいます。
 
心拍が少ないとそれだけ全身の血流が悪くなり、血管が硬くなって血圧が上がりますし、血管を詰まらせる血栓もできやすくなります。
 
全身の細胞が必要とする酸素も、高齢者は若い人の半分も取り込めていないことになります。
 
また腎臓には体に不要なものをろ過して体外に出す働きがありますが、
 

その腎臓の血流量も、75歳の人は30歳のほぼ半分になります。
 
さらに免疫細胞が集まっている腸の働きも弱くなり、免疫力も低下します。
 
そのためがん細胞が排除されにくくなり、がんの発症が増えてきます。
 
近年は、病気にはそれぞれ原因があり、原因を取り除く治療や生活改善をすれば
 
病気を克服できるというイメージが強くなっています。
 
しかし、歳をとることは病気ではなく、生物としての自然な変化です。
 
つまり年齢が高くなってからの病気には、治療によって克服できるものと、そうでないものとがあるわけです。
 

一般的な高齢者の身体的特徴(出典:日本医師会)
 
 
 
1. 予備力の低下
 
病気にかかりやすくなる
 

2. 内部環境の恒常性維持機能の低下
 
環境の変化に適応する能力が低下する
 
a)体温調節能力の低下:たとえば外気温が高いと体温が上昇してしまうことがある。
 
b)水・電解質バランスの異常:発熱、下痢、嘔吐などにより容易に脱水症状を起こす。
 
c)耐糖能の低下:血糖値を一定に維持する能力の低下。
 
インスリンや経口糖尿病薬治療を受けている糖尿病患者は低血糖を起こしやすくなる。
 
d)血圧の変化:加齢とともに血圧が上昇する傾向にある。
 

3. 複数の病気や症状をもっている
 
治癒もするが障害が残ったり、慢性化しやすくなる
 

4. 症状が明確に現れないことがある
 
疾患の症状や徴候がはっきりしないことが多い
 
たとえば肺炎の一般的な症状といわれる高熱・咳・白血球増多も高齢者の場合50〜60%しかみられないといわれている
 

5. 現疾患と関係のない合併症を起こしやすい
 
病気により安静・臥床が長期にわたると、関節の拘縮、褥瘡の発症、深部静脈血栓症、尿路感染などさまざまな合併症を起こしやすくなる
 

6. 感覚器機能の低下
 
視力障害、聴力障害などが現れる
 
「こんな人間じゃなかったのに」絶望がもたらす暴力
 
どんな人でも年をとって衰えが進んだときは、病院の治療で完全に治すことはできません。
 
治療や看護によって一時的に回復することもありますが、
 
全体とすれば、年齢を重ねるにつれ、少しずつ親御さんの状態は低下していきます。
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高齢の親を介護するということは、
 
 
このように徐々に状態が低下していく親御さんを見守り、世話をするということです。
 
ある段階からは、治療や介護を頑張っても「もとの親」、
 
すなわち「子ども世代の記憶に残っている若々しく元気な親」に戻るわけではありません。
 
こういうと、現在介護をされている息子さん・娘さん、あるいはこれから介護を頑張ろうと考えていた人のなかには、
 
反発やショックを覚える人もいるかもしれません。しかし、それは生命としての自然な流れであって、
 
過ぎた命の時間を巻き戻すことは、医師にも家族にもだれにもできないことです。
 

いいかえれば、歳をとって要介護になった親御さんは、
 
さまざまな病気や不調を抱えつつ「老い」という人生終盤のステージを生きている段階です。
 
そうした親御さんを介護するときは、本人の苦痛になることはできるだけ取り除きながら、
 
その人らしい生活を続けられるように支えてあげることが大切です。
 
本人が望んでいない治療やリハビリを頑張ってとすすめるなど、
 
介護者が心身を壊すような熱心な介護をして、「老い」を“治そう”としなくてもいいのです。
 

世間ではピンピンコロリ(PPK)がよく理想として挙げられますが、
 
この考え方には介護をされている状態が“悪”だというネガティブな発想があります。
 
しかし、赤ちゃんに付きっきりのお世話が必要なように、高齢者に介護が必要なのは当たり前のことなのです。
 
実際に、PPKを実現できている方は、全体の10%程度しかいません。
 
そうした事実がありながら、親御さんに少しでも長く生きてほしいと思う子ども世代の方には、
 
親の老いを受け入れることが意外にむずかしい場合が多いようです。
 
 
世のなかをみれば、高齢になってもまだまだ元気で、現役世代に劣らぬ活躍をされている人もいます。
 
80代でエベレストに挑んだ登山家や、100歳を超えても現役医師として活動された人もいます。
 
大きな病気をした後に復活を果たした著名人もいます。
 
そういう人を思い浮かべて、「うちの親もまだまだ頑張って治療や療養をすれば、
 
元気を取り戻せる」と思われるのかもしれません。
 
 けれども90歳、100歳を超えて頭も体も元気で自立して生活ができるような人は、ごく稀な、むしろ特別なケースです。
 
だれもがそこを目指すことは無理がありますし、目指す必要もないと私は思います。
 

認知症の高齢者の介護でも、子ども世代の方が葛藤されることがよくあります。
 
これは息子さんが介護者の場合に多いのですが、認知症の親御さんが間違ったことを話すたびに「そうじゃない」
 
「何をいっているんだ」と直そう、正そうとする。
 
そうすると認知症の高齢者はますます混乱して不安になり、
 
暴言や暴力、徘徊などの問題行動が多くなります。
 
そして介護も日常生活もますます困難になります。
 
息子さんからすれば、自分を育ててくれたしっかり者の親が変わってしまったことに耐えられない、
 
認めたくない気持ちがあるのだと思います。
 
しかし、「老い」はどんな人も避けることはできません。
 
子ども世代が親の老いを認め、それを受け入れられるようになると、
 
介護をする側もされる側も、もっとラクになると思います。
 

 老老介護、介護する方も高齢者、自宅での介護、人に言えない苦難があります。
 
 
 
医療法人翔樹会 井上内科クリニック 院長  井上 雅樹