僕は今まで生きてきて…………二度程 死にかけた。というと ちょっと大袈裟で……二つ共 実際には怪我1つ負っていないのだから……正しくは「運が悪かったら 死んでいたのかもしれない程度」だ。


あれは僕がまだ幼稚園児だった頃のことで…………当時まだうちにはファミコンがなかった為 娯楽が乏しく……また 母が週に一度くらいは自分の時間をゆっくり過ごしたいこともあり……時々 日曜日になると「お父さん、日曜日くらいは子供達と遊んであげてや~」と促され、父は兄とワイ を連れ…………決まって ザリガニ釣りに出かけたのだった。


まずスーパーでたこ糸とちくわを買い、それを持って近所のいつもの池に行く。僕は幼稚園児だったが もう既に何度もその場所でザリガニ釣りをしていたことから 父も何も心配はせず 僕に自由に釣りの場所を選ばせてくれた。父や兄から離れた場所で自由に 好きなように 釣り糸を垂らし 釣ることを許されていた。


その日 池に着くと同時に 僕は一目散に駆け出し 父や兄から15m程 離れた石段に向かった。そこは
2.5m程の土手の中腹から 池の中に向かって石段が五段程 降りている ザリガニがよく集まる僕のお気に入りのスポットだった。


僕はいつものように、池の水面ギリギリの石段に立ち ちくわにたこ糸を巻いて 石段の下のザリガニが居そうな所にちくわを静かに沈めていった。池は酷く濁っていて 異臭を放ち 鼻が曲がりそうだったが…………もうじき訪れるであろう歓喜の瞬間が僕にそんなものを忘れさせてくれた。

15m離れた所では さっそく兄達がザリガニを釣り上げ 大きさを競いあっていた。ワイ「……うーん💧……うーん💧(# ̄З ̄)💧」


生粋のお兄ちゃんっ子だったワイは……兄より大きいザリガニを釣り上げ、兄に「おう、ヨシフミやるやん~😄」そう褒めてもらう…………もうそのことしか頭になかった。



石段の下に垂らした仕掛けを少し揺らしたり、仕掛けの場所を変えたりしていると


「ビクッ」と糸に強い力がかかり、「(これはきたーーーーーーーーーーーーッ なかなかの大物やで~( ̄∇ ̄)」

僕は糸が切れないように、また餌のちくわが仕掛けから外れないように慎重に少しずつザリガニを水面に引っ張ってきて……池の水面すれすれの石段の上にザリガニを釣り上げた。

ハァ……ハァ……ハァ…… これはなかなかの大物やでーーーーーー!!今まで釣ってきた中でも1~2位を争うくらいのサイズだった。

僕は興奮を抑えきれなく そのザリガニをバケツに入れようと背中を持とうとしたら

「シャーーーーーーーッ」と両ハサミを挙げ威嚇してくるではないか💧体のサイズに比例してハサミもかなりでかかった為…………僕はなかなか 背中を掴むことができないでいた。

………………うーん💧………………僕が少し右に回ろうとすると ザリガニもハサミを挙げたまま右に回転し


…………僕が少し左に回ろうとすると またザリガニもハサミを挙げたまま左に回転してきた。

ワイ「なんやねんコイツーーーーーー💧もう釣られたんやから諦めろよ~なんで抵抗してんねん💧💧なかなかバケツに入れられへんやんか~💧こんな狭い石段で回り込むのも難しいし…………かといって
いくら幼稚園児とはいえ…………ザリガニごときに頭脳戦で負ける訳にはいかへんし。なんとかして捕まえな…………💧ホモサピエンスを嘗めんなよ 」


とか考えてる間に 急にザリガニがエビの様に10センチ程バックし出した。慌てた僕は右手を開き 下がっていったザリガニめがけ右手を振り下ろした。すると またザリガニは10センチだけバックした…………どうやらザリガニは池の中に戻ろうとバックしてるようだった……ただ解せないのは何故一気に池の中に逃げないで10センチ刻みにバックしてるのか……ということだ。

しかし、そんなことは僕には関係なかった。折角捕まえた大物を逃がしてなるものか。

ザリガニが10センチバックする毎に 僕は右手を前に投げ出し……さらに10センチバックされたら そこからさらに右手を前に投げ出し…………これを三回程繰り返した時 違和感に気づいた。



うんこちゃん座りで 両足が同じ位置の状態のまま右手を前に10センチ……さらに10センチ……さらに10センチと出していくと…………足が後ろの方にあり いつの間にか 前傾姿勢にされてしまっていた💧しかも 幼稚園児だった為 体と頭のバランスで頭が大きく、首が頭の重さをもう
支えきれなくなっていたのだ💧
「グギギ💧」はめられた……ザリガニ野郎にはめられてしまったーーーーーー

……か どうかは知らないが、首が頭の重さを支えきれなくなり さらに頭が前に出ようとすると、今度は 徐々に 踵が浮いてくるのが分かった💧
「メリメリメリメリっ」少しずつ踵が浮いてくるが……もう自分ではどうしようもない。ヤバいっ

と思った瞬間 僕は目を瞑った………………


バッシャーーーーン💧


か……体 全身が冷たい…………水の感触がする。耳に水が入って……何も……聞こえない…………


どうやら 頭の重さに耐えきれなくなり、頭から一回転して池の中に落ちたようである。

幸い 池に落ちたショックで体中に力が入らなくなり(一種のショック状態で💧)その為か僕は浮かんでいることができた。(大人の今でも泳げないのに……幼稚園児だった当時の僕が泳げるわけもなく
足がつかない池で浮いてられたのは奇跡だった)


…………耳に水が入った為か何も聞こえない……でも体は全身 氷のように冷たい…………
僕は恐る恐る 少しずつ目を開けると、自分の鼻と口の間に池の水面があった…………臭い💧ドブのような酷い匂いだ。鼻の真下に水面があるせいか 余計酷さを助長させていた。



ショック状態とはいえ 池に浮いている自分が不思議だった…………しかし 今ここで泣いて暴れたら…………それこそ幼稚園児だからということで許されるものではなく……本能的に幼稚園児でもわかる 死がまっているのだろうと実感していた。

しかし この足が浮いているというとても不安定な状態が……恐怖が……とても耐えきれそうになくこのままじっとしてるだけでなく 何か打開策を探ろうと、僕は試しに左手の人差し指を少しだけ動かしてみた…………


すると…………ガタンっ…………と体が一瞬左側に沈んで また浮いてきた…………

………………たった…………たった指一本動かしただけで 沈んでしまう程不安定な状態。今の僕は池に落ちたショックで全身の体から力が抜けている(体に力が入らない)状態だから奇跡的に浮いているだけであって それを少しでも阻害(指動かしたり)すると…………この奇跡の均衡が崩れて僕は池の底に沈んでしまうことを悟った。


悟った。悟ったけど……怖かった。泣き叫びたかった。足がつかない……溺れる恐怖もさることながら…………さっきまで僕達が釣っていたザリガニ達が僕の足元に居ると考えると………………


アーーーーーーーーーーーー💧😭恐怖からバシャバシャ暴れたくなった💧しかし そうすると確実に溺れ死ぬ………………どうしたらいい…………どうしたら…………

その時、僕の肩にバシャンと水しぶきがかかり……その力によって浮いてる僕の体はほんの少し回転した。

「……波紋?💧」どうやら 池の波紋が僕の体に当たったみたいだった。しかし見ると当たるとでは大違いで……当時の僕が幼稚園児だったからなのか……池の波紋の波の力はなかなかのものであり、それが当たる度に僕の体が少し回転するのが 可笑しかった。「何か他のこと考えて気を……恐怖を紛らわそ~この波紋が何回当たったら一回転するか 数えてみよう(笑)」


そこは さすが幼稚園児だった。ただ波紋が当たってクルクル回転するだけのことなのだが……面白かったらしく、その時には もう池の恐怖やザリガニの恐怖から半ば解放されていた。…………単純なやつだ…………

六回程当たると一回転することが分かり僕は何か達成感を感じた。その時には僕の体も土手の正面を向いていたので (耳に水が入っていて聞こえないが)視界の上の方に土手が映り、その土手に父と兄がいて僕の方を指さして叫んでいるようだった(耳は聞こえない💧)


どうやら父と兄が、池に落ちた僕に気づいてくれたようだった………………これで助かる…………お父さんが池に飛び込んできてくれて……これで助かる…………

もう何も心配はいらない…………フゥーーーーーーー助かった…………残りの時間は波紋が体に当たって回転させてくれるのを堪能しとこうっと…………

バシャン…………クルクル…………バシャン…………クルクル…………波紋によって回転してる間も 父と兄が視界に入っていたが……そのうち視界の外へと追いやられ……僕の後頭部の方に土手が来た。


…………バシャン…………バシャン…………バシャン…………


(…………おかしい💧父が僕を発見してくれてから 大分 波紋に当たったような気がする💧もうとっくに助けてくれててもおかしくない時間だろう💧父達がいる 土手は今 真後ろの為 父達が何をしているのか全く分からないが…………よもや池に落ちた我が子を置いて帰ることはないだろう💧では何故父はまだ助けてくれないのだ…………父は一体何をしてーーーーーー)


その瞬間 僕の顔に黒い物体が引っかけられ、物凄い力でそのまま土手の方へと引きずられた。


父に抱っこされたワイの顔には………………ザリガニをすくう様の網がかぶせられていた。

ワイ「………………………………」

耳に水が入っていて良く聞き取れなかったが
父「お前何しとんねーーん💧あっぶないわ~💧大丈夫か?💧もう帰るぞ」



ワイは父の自転車の後ろに乗り、広い背中の父に抱きつきながら「助けてくれてありがとう」ではなく……「……なんで池に飛び込んで助けてくれへんかったんやろ?💧なんでワイ ザリガニの網で助けられたんやろ」と訝んでいた。……濡れたパンツがまだ冷たい春のことだった…………




それから数年後、母に そのことを聞いてみると
「あ~ お父さん……金づちなのよ~(笑)」

ワイ「…………………………💧」



あの時 運良く 土手と平行に流されてたから ザリガニすくう様の網がワイに届き 助かったけど…………土手から離れるように流されてたら…………ワイ…………見捨てられてたんかな💧