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映画・出来事備忘録

観た映画の感想や日々の出来事などを書きます。備忘録的な。映画は洋画ばっかりネタバレしまくりなのでご注意を!

たしか中学生の頃だったでしょうか、『ミミズクと夜の王』を読んだのは。

 

当時はライトノベルと呼ばれる本たちに対する嫌悪感みたいなものがあったりして、『ミミズクと〜』を開くときも正直に言えばあんまり期待はしていませんでした。

 

嫌な中学生ですね、こうして思い返してみると。ろくにライトノベルを読んだこともなかったくせに……。

 

そうしてナメてかかっていた私ですが、読み始めたらもう止まれなくて、一気に読み通した記憶があります。本を閉じてため息。

 

圧倒的な世界観と溢れる愛、愛、愛。

 

どうしようもなく切なくて、でもとてつもなく心があったかくなる素敵な物語でした。

 

あとがきも素敵で、紅玉いづきさんが初めて投稿したというサンタクロースのお話を思い浮かべては、ああその小説も読んでみたいなあとしばらくはうっとりしてました。

 

そうして時は経ち、悲しいことですが、日々の生活や新しく読む本たちによって以前心揺さぶられた本の記憶はどんどん薄れていき……。先日立ち寄った書店にて、「紅玉いづき」という名前を見たときに一瞬で当時の思い出やらなんやかんやが溢れ出して、購入に至ったのでした。

 

前置きがめちゃんこ長い自分語りになってしまい恐縮ですが、そろそろあらすじを!

 

 

首都を襲った天災から長い時が過ぎた。震災復興の名目で湾岸地域へ誘致された大規模なカジノ特区には、客寄せに作られた少女サーカス団がある。そこでは古き文学者の名を戴き、花形の演目を任されるのは、曲芸学校をトップで卒業した精鋭のみ。ところがある日、8代目サン=テグジュペリこと片岡涙海が練習中に空中ブランコから落下。身代わりで舞台に立ったのは、天才の姉とは姿だけがそっくりの、双子の妹・愛涙で……。

 

 

涙海と書いてルウ、愛涙と書いてエル、と読ませます。

 

少女サーカスの演目者はブランコ乗りのサン=テグジュペリの他に、猛獣使いのカフカ、歌姫アンデルセン、パントマイムのチャペック、そして少女サーカス団長シェイクスピアなどがいます。

 

他には怪しげなブラックジャックディーラーのアンソニー・ビショップとかとか。

 

ブランコ乗りを夜間飛行する飛行士に見立てた冒頭の文章はしびれるほどに綺麗。あーーーーそうそう紅玉いづきさんはこの感じこの感じ……!ってまずここでなりました笑

 

もう本当にため息が出るくらい、飲み込まれるんですよね。文章のリズムって言うんでしょうか。もう本当に素敵で。

 

片岡涙海は、8代目サン=テグジュペリで、もちろん曲芸学校は優秀な成績で卒業。ブランコに乗るために生まれたと自ら言ってはばからない彼女は、容姿端麗の上身体能力もずば抜けて高く、悪意のない傲慢さと冷徹さを持った少女です。

 

周囲に疎ましがられても、同期を蹴落とすことになっても、何とも思いません。自分は選ばれたのだ、自分以外は誰もブランコ乗りのサン=テグジュペリにはなり得ないのだ、と。ブランコの上が自分の居場所であり、そこに居続けるためにはどんな努力も惜しみません。すべての時間、すべての身体、すべての心。自分のすべてを捧げブランコに没頭するのです。

 

片岡愛涙は、涙海の双子の妹。幼い頃は姉と一緒に体操をしていたものの、曲芸学校に姉妹で通えるほどのお金が家にないことを知っていたので、演目者の夢は姉に譲ります。圧倒的なオーラを持つ姉と姿形はうりふたつですが、性格はまったく別。よい意味でいたって普通の少女です。女子大生。

 

練習中の事故により足が動かなくなってしまった姉と、姉の代わりにサーカスでサン=テグジュペリのふりをすることになってしまった妹。

 

同じ時に生まれ、同じものを食べ、同じものを着て、同じように育ったはずの二人なのに、心の有り様がこんなにも違うのはどうしてなんでしょうか。

 

姉こそが最もブランコ乗りにふさわしいと純粋に信じて疑わない愛涙は、その姉が自分に対してライバル心や嫉妬のような感情を抱いていることに気付きもしません。なぜなら涙海はそんなことを絶対に口にしないから。人生で一番最初のライバルが妹である愛涙で、一番最初に蹴落とした同志も愛涙だったからです。

 

そうそう、姉妹ってこうなんだよね。って、境遇や才能や性格など何から何まで片岡姉妹とは異なる私ですが、自分と妹を思わず重ね合わせてしまうところも多々ありました。本当に、妹っていろいろライバルなんですよね。わかるわかる。

 

とても綺麗で、けれどもヒリヒリした痛みを感じてしまうような、でも優しい、素敵な物語でした。

 

猛獣使いのカフカことマツリちゃんとか、歌姫アンデルセンことハニちゃんとか、人形になりたかったパントマイムのチャペックとか、もうもう全部のエピソードが細かく丁寧に書かれているので本当にいい本に出会ったとしみじみしてしまいます。流れるように読める。でも綺麗な描写は心に残る。あめ玉を舐め終わったとき、口の中がしばらく甘い香りで満たされるみたいな感じです。

 

『ミミズクと夜の王』も今度買ってこよう……!

 

それではこの辺で失礼いたします。また次の機会に!