俺もおまえと同じ夢をみる
誰かがおまえを見下ろす夢だ
そんな不安そうな顔をするな
もっと自分に自信を持つんだ
おまえには その人に向かう
勇気と強さがあるはずだ
何も捨てることなく
すべてを守り 手に入れる力がある
ここにはおまえを認め 愛し
見守る力があることを忘れるな
いつか
おまえはそこへ行くだろう
眩しい光の
輝きの その先へ
俺もおまえと同じ夢をみる
誰かがおまえを見下ろす夢だ
そんな不安そうな顔をするな
もっと自分に自信を持つんだ
おまえには その人に向かう
勇気と強さがあるはずだ
何も捨てることなく
すべてを守り 手に入れる力がある
ここにはおまえを認め 愛し
見守る力があることを忘れるな
いつか
おまえはそこへ行くだろう
眩しい光の
輝きの その先へ
あたし 最近夢をみるの
誰かがあたしを見下ろしてるの
その人は不敵な笑みを浮かべて
いつもあたしにこう言うの
早くここまでいらっしゃい
私は待っているのよ
その人の後ろでは
眩しい光が輝いてるの
そしてあたしの後ろでは
あたしを後押しする声がする
いつか
あたしはそこへ行こうと決心するの
その人のところではなく
輝きの その先へ
あの頃の俺も ただ上を目指していた
上に 上に 輝きのその先へ
険しい山道を登ることも
深い谷を彷徨うことも
荒ぶる海に小舟で漕ぎ出すことも
すべて厭わなかったのは
ただ頂点に君臨するためだ
俺の歩んできた道に
君の姿もあったのは
ただ上に登り詰めるため
そこには恋も愛もない
君が諦めたのは恋ではなくて
信じることだったんじゃないのか
君はいずれ気がつくだろう
すべてを切り捨てるだけでは
守れないものがあることを
一騎討ちをするのもいいだろう
君がいつまで笑っていられるか 見届けてやる
この俺が認め愛した唯一の女を
甘く見るなよ
あの頃の私は ただ上を目指していた
上に 上に 輝きのその先へ
私が歩んできたこの道は
決して平坦ではなかったけれど
険しい山道を登ることも
深い谷を彷徨うことも
荒ぶる海に小舟で漕ぎ出すことも
厭わなかった
すぐ傍にあなたの姿があったから
言っておくけど
私はあなたのことなんて
ちっとも好きじゃなかったのよ
あるかないかの想いが芽生え
積もり積もって恋になるまでは
私はあなたを諦めた
必要のないものとして切り捨てた
すべてを切り捨てて頂点に立った今
私は一騎討ちの相手を待っているの
そう あなたの愛しい人がここまで来るのを
「さすがに、マズかったよね…」
あたしは恨みがましく携帯を眺めて溜息をつきながら、呟いた。
ギルが自分の言いたいことだけを言って、「じゃあな」って一方的に電話を切るのは怒ってる時だから。
フランスに行くなんて、一言も伝えなかったあたしが悪い。誰の目から見ても、明らかよね。しかも咄嗟に出た言葉が、「ブイヤベースが食べたくて」なんて、我ながら笑っちゃうわ。アドリブがきかないっていうか…もう少しマシな嘘つけよってツッコミが入るよね。
実際のところ、パリとマルセイユを訪れたのに深い理由はない。
あたし1人なら、騒ぎにならずにゆっくり巡れるって思っただけ。
悠久の時を感じながら、石畳の街を自由にのんびり歩いてみたかった。
ギルが育ったパリの街を、自分だけの目で見たかった。
ただ、病院の視察だけはギルに隠していたかもしれない。
つい最近も基金のことに夢中って言われたばかりだから、なんとなく基金の活動のことは自分から言うのを避けていたかも。
あんな時間にわざわざ電話してくるなんて、絶対何かあったに違いない。それなのに、監督とローマにいるはずのあたしがマルセイユにいたなんて知ったら、ギルはどう思うだろう。
あたしを頼って電話してくれただろうに、裏切られたと思ってるかな。
大事なときに、傍にいてあげられなくてごめんね。話を聞いてあげることすらできなくてごめんね。
あたしのこういった軽率な行動が、壁を作ってるとか距離を置いてるとか言われる原因なのかな…。
ぼんやりとそんなことを考えながら、バゲットを手にしていたことに気づく。
いつのまにか運ばれてきていたブイヤベースに浸しっぱなしで、完全にふやけている。
マルセイユならではの食べ方やサービスがあるらしいけど、結局何一つ記憶に残らないままマルセイユの旅は終わった。
そして、ギルの心に広がる闇にあたしが気づくのは、これからずっとずっと後のことだった。