先日監督とお話して感銘を受けたのは、監督がしっかりした問題意識を持ち、いつもそれらを如何に観客に問いかけようかと考えておられることです。いたずらに誇張したりせず、バランスの取れた形で自分の思いを観客に伝え、観客が自分の頭で考えてくれることを辛抱強く期待しながら、映画を作っておられます。

 映画の中で(オフィシャルホームページの予告編でも見られる)HAITIとAICHIの発音のギャグに就いて、「面白かった。」と申し上げたら、「親父ギャグですよ。」とおっしゃっていましたが、ウケを狙った作品を作ろうと思えば、監督には本当に面白い作品が作れると思います。でも、そうはせず、謂わば地味な(しかし素晴らしい)作品を世の中に提供し、いろいろな問題(作品の舞台は違っても今の日本の問題)の本質を問いかけています。また、それをサポートするプロデューサーがおられることも、本当に素晴らしいと思います。

 イラクで人質になっていた時、「人質解放」を早く仲間に伝えたくて、テレビに噛り付いてサダムフセインの演説を毎日何時間も聞いていました。そして分かったのは、彼の愚かさと見え透いたパフォーマンスと語彙の貧困さ(ワンフレーズ、いや「神は偉大なり」「真理は我にあり」「聖戦」の3フレーズを延々と繰り返す)でした。

 今の日本の政治家を見ていると奇妙に重なります。また、テレビもそれに協力して煽っています。私たち国民は今、表面的な雰囲気やパフォーマンスではなく、本質を問う力、そして本質を見抜く力を持たなくてはならないと思います。それがなければ、後の結果に苦しむのは私たち自身なのですから。

山口実