幼い頃から
眠れない夜は、ただぼんやりと外を眺めて

いつか誰かが私をココから連れだしに来てくれる
って信じていた。

ゆわゆる白馬の王子様みたいな。

王子様は現れなかったけど、私は自ら夜の街に繰り出すようになった。

街にくりだす…というより

夜の街を駆け抜けていた。

思うがまま気の向くままに
車を走らせる

そんな日々を送っていた

誰かの助手席じゃない
自分でハンドルを握る

何台もつるんでカーチェイスにパレードラン

それが楽しくて仕方なかった10代後半。

都内にうつり、そんな幸せな日々を失い

狭い部屋の小さな窓の外にある隣のビルの壁を睨みつけながら

誰か私をココから連れだして

と、願っていた。

そんなある晩、私を連れ去りに来たのは

白馬というにはあまりにうるさく
研ぎ澄まされた力強さをもち
あまりに狂った
真っ白のスポーツカーだった。

まるで鳥籠みたいに車内にはロールバーが組まれ
サスペンションはガチガチ
ブレーキもクラッチも、もちろん排気音も桁違いにうるさい

会話は困難。
常に車内は熱気にあふれていた。

たくさんのメーターの光が彼を照らしている。

左を見れば、綺麗な東京の夜景。
右を見れば、綺麗な横顔。
正面に見える車は全て止まって見えて
バックミラーにうつる車も止まってみてた

このまま時間が止まればいいのに。

そう願いながら、私は大人しく助手席に乗っていた。

会話はない。

たまに横目で彼を見ていると
彼と目が合って
彼は何も言わずに私を引き寄せて
キスをした。

そして何事も無かったかのように
白馬のスピードはさらに加速する。

走り方はまだ荒削り
車の流れを読むのはまだ下手

そんな彼に私は隣でたまにクスリと笑う

車を降りると彼は言う

この車が良いというのも
このスピードであの走りをして
無表情で隣に乗っているのも
私だけだと

C1最速アタックをしようと、東名キャノンボールをしようと、私はケタケタ笑っているだけ

怖いなんて思わない

だって、私は大好きな彼と大好きな車に乗っていて、極上のスリルを共に味わって、1歩間違えれば2人一緒に死ぬことになるから。

そんな白馬ももぉ彼が修行に行って
ガレージで静かに眠っている

また狂った私たちが、狂ったドライブをしてくれることをきっと待っている。