「ちょっとイイお店見つけてさ~。」 なぁーんて感じで、さらりとカッコよく食事や飲みに誘えるグルメで流行に敏感なフットワークの軽い”男”に、意外と憧れたりするのである…、男という生き物は。

 

まあ、私の場合はそんな飲食店がひしめき合うような都会に住んでいるわけではないので、今回のお話はこの夏に妻と二人で行った川原へ行きつくまでの出来事である。

 

 

 

8月も上旬、ジリジリとした連日の太陽の日差しで、もうあと何日かでアスファルトが溶け出してしまいそうな灼熱地獄である。だが、だがである、やはり夏なので出かけたくなるのであった。夏という心弾む好奇心からなのか、理由のない暑さへのチャレンジ精神なのか、わざわざこの灼熱の世界へ飛び込もうとは本当に不思議なものである。

 

そして、しばらくすると私は勝手にイメージが固まる。日差しを遮る木陰のある川原で、妻とのんびり昼食とコーヒーを楽しもう。と、そう悪いクセである。「ちょっとイイ場所」を、探さなければいけなくなってしまったのだ。勝手なイメージから始まった、これまた勝手な”使命感”の誕生となり、ちょっとした”男のカッコつけ”の始まり始まりである。

 

 

 

イメージを固めたその日はスマホの地図と睨めっこし、道のりや到着までの時間をシミュレーションし頭に叩き込む。何故、頭に叩き込むのかというと実際の現地調査はバイクで行くと決めているからである。最近は、バイクでもスマホのナビ機能を活用し走り出すのが一般的だが、私は主要道路や曲がる交差点などをメモ書きし、そのメモをタンクにテープで張り付けて目的地へ向かう昔ながらのスタイルだ。この方が道を覚えられるから…、なんてことを理由に、これも時代に逆らった”カッコよさ”を求めているのかもしれない。

 

 

 

さて、いざ決行の日。

前日の予報通り、その日は朝から30℃に届きそうな”イイ天気”である。早朝6時、妻には内緒でバイクで現地調査に向かうわけだが、”イイ場所”を見つけて帰ってこなければいけない使命が私に与えられたのだ。

 

半袖Tシャツにジーパンで走り出し、まずは昔、子供達とよく行っていた川原に到着したのだが、残念な事にやはりそこは見るからに汚れていた。炭の燃えカスや、車を無理やり突っ込んでなぎ倒された草たち。想像するに、あと数時間もすればここは多くの車と人でごった返し、夫婦二人で過ごすにはかなり賑やか過ぎる場所に変わってしまうだろう…。私はため息をついた後、バイクの二つ並んだメーターの右側、タコメーターのカバー中央に両面テープで張り付けたアナログ時計にそっと目をやった、すでに7時を回っていた。急がねば。

タンクに張り付けた道案内のメモを頼りに、そこから15分ほど先の交差点を曲がり上流を目指し、初めて入る細い横道へとバイクを走らせた。

タイヤの跡が少なそうなその場所の入口は、アスファルトの道路から急に砂利の下り坂となっていた。狭く直ぐに川に沿って曲がっているその砂利道は、車がすれ違えないほど細くその先がどうなっているのかが見えない。砂利道の手前で一時停止し、このままバイクで下りていけるのか悩んでいたが、思い切ってこの砂利道を下ってみることにした。坂を下りきって右に曲がると、その先も砂利で非常にこじんまりとした”イイ場所”となっていた。運良く見つけることができたようだ。

さて、サイドスタンドを慎重に立て煙草で一服である。そこから10メートルほど先に、Uターンできる場所も発見した。炭の後もないし、南側には樹木が緑色の葉をたくさん生い茂らせ、恐らくこれから日が昇るころにはこの場所は木漏れ日に包まれ過ごしやすい場所に変わることが予想できた。直射日光が当たらないことが、逆に人を寄せ付けていないように感じた。そして私は、”イイ場所”を見つけたと確信した。

 

しかし、ここからバイクをUターンさせるのが大変だった…。デコボコで思うように身動き取れず、かなり苦戦した。

 

死に物狂いでアスファルトに戻れたが全身汗だくで、とてもとても人様に魅せられるような姿ではなかった…。

 

 

だが、帰宅して妻には「ちょっと近くにイイ場所があるから、涼みに行こうよ。」なんて、

 

バイクで下見に行ったことは一切言わずに、カッコつけて言ってみちゃうのであった。