タイトルは「只今参りました」くらい
の意味です。軍隊でよく使われるそうです。

007シリーズ第23作、ダニエル・クレイグ
主演の「スカイフォール」より
上司Mにムカつき、姿をくらましたボンド
は3ヶ月後、MI6の危機を目の当たりにし
ロンドンに帰還、Mの私邸で彼女を待ち
構え自分自身への皮肉を込めていい放ち
ます。

ボンドは現在の堕落した自分と、かつての
血気盛んだった海軍特殊部隊時代を並べて
皮肉っている訳ですがこのひねくれた姿は
原作の「007は二度死ぬ」を彷彿とさせ
ます。その前の「女王陛下の007」で最愛
の妻を失ったボンドは今作で心身ともボロ
ボロでした。
実際「スカイフォール」でもボンドは
死んだと思われてMに追悼文まで書かれ
心身ともボロボロです。明らかにこの
あたりのプロットは「二度死ぬ」の模倣
ですね。
(念のため映画の「二度死ぬ」は制作順の
関係でかなり趣が違います)

今回のお話はそんな「スカイフォール」
から。
Mはメンヘラだった!?
Mの最期のセリフに込められた意味とは。

今作でMは実に重大な「間違い」を、それ
も複数、犯しています。

間違い1
「リストを奪われたこと」
劇中一切語られませんが
そもそも潜入中のNATOの諜報員のリスト
などというものがどうやって奪われ
しかもなぜM一人の指揮で追いかけて
いたのでしょうか。

間違い2
「ヘッドセットの導入」
近作で作戦中にヘッドセットで
指示するのは「トゥモローネバーダイ」
が思い浮かびます。しかしM自身が
直接指示する訳ではなく、部下の
ロビンソンが交信役です。
しかもこのMと今作のMは公式な資料に
基づけば名前の違う別人です。
クレイグ版ボンドが独立していると考えると
ヘッドセットの導入は唐突すぎます。
そもそもヘッドセットなしで現場の
判断に委ねていればイブによる誤射は
起きなかったような気がしてなりません。

間違い3
「ボンドを信用しなかったこと」
ヘッドセットのことは目をつむるとしても
なぜMはイブに「Take the bloody shot!」
と言ってしまったのか。
「慰めの報酬」までは新人だったボンド
に対し、本作ではベテランになっていると
クレイグはインタビューで語っています。
ベテランのボンドとおそらく新人の
イブを比べて、咄嗟の判断とはいえ、なぜ
Mはイブを選んだのでしょうか。

間違い4
「ギャレス・マロリーを敵と見なしたこと」
これは少し微妙ですが
最終的にMを引き継ぐことになる
マロリーに対し最初からMは反抗的です。
引退を勧めてくる訳ですから当然と言えば
当然ですが、なんとなく冷静さに欠く
やり取りばかりです。

間違い5
「ボンドを巻き込みすぎ!?」
終始ボンドはMの私情に巻き込まれます 。
最大の疑問は
「これ以上誰も巻き込みたくない」
と言ったMはどうして自らシルヴァと
相対せず、ボンドに最期まで自分を
守らせ続けたのでしょうか。
銃が苦手だからでしょうか。
「仕事を終えてから辞める」と言った
Mの仕事は「逃げること」?








Mの仕事は結局「ボンドを試すこと」
だったのではないでしょうか。
MI6を守るために、Mはボンドに試練を
与えました。
イブに誤射させることで自分がボンド
からどの程度反感を買うか試し
さらにその状態でMI6が攻撃を受けた時
ボンドがどう行動を起こすか試したのです。

人の根底にある意思を試したいなら
その人の反感を買うように仕向ける
それでも残っているものが本当の意思だ
…という信条がMにはあったのかも。

この場合M=MI6で、MはボンドがMI6を
預けるに足る人間か試す必要に迫られます。
リストを奪われたことはMI6の消滅を
画策する勢力(スペクター)の差し金で
Mは自分とMI6に迫る大きな危険を感じた。
Mは実はもう自分だけではMI6を守って
いくことができないと考えていた。
そこで自分が消えてもMI6を守ってくれる
存在としてボンドの忠誠心を試した。
自分が間違いを犯すことで自分とMI6を
あえてピンチに陥れボンドにそれを
救わせることで彼を試したのです。
Mはむしろイブに誤射させてもボンドは
死なないだろうというぎりぎりの点に
ついてだけ賭けていたのです。
もしくはイブが正確に敵を撃ち抜いたら
今度はイブのことも試そうと
したかも!?

Mは実はマロリーのことも試していました。
厳密には説き伏せただけですが。
「MI6を監督する」と言われた時
Mはまずい、と思ったに違いありません。
今退いては、賭けの結果を見届けること
が出来ない。初対面の男が訳も分からず
仕切ってしまったらMI6は…
マロリーの出現はMにとって
予測出来たとはいえ出来れば避けたい
存在でした。賭けの代償でした。
仕方なくMはマロリーに「影の世界」
を話して説き伏せ、入信させます。
そして念押しに公聴会で、また賭けを
行います。今度は自分=MI6の命。
シルヴァ=スペクターが狙ってきます。
そんな時マロリーとボンドはどう動くか。

つまり、Mの「間違い」は全て
ぎりぎりに賭けた「わざと」ということ
が言えるのではないでしょうか。

Mのセリフ
「I did get one thing right」とは何だったのか

よく議論にもなりますし
当然「ボンドを選んだこと」という
答えが浮かんできます。
それはもちろんその通りなのですが
ここで考えたいのはむしろ
「何が真の間違いだったのか」
ということです。
先に述べた5つの間違いは単なるミス
ではなくMが故意にギリギリを狙った
選択でした。
だとすれば、残っているのは
Mが「自ら死を選んだこと」
ではないでしょうか。

Mは自分とMI6を同一視してボンド達を
試していた。
だとすれば自分の死=MI6の死
とはならないか。
そう考えると死の選択は間違いだった
ようにも思えます。

ですが考えてみて下さい。
MはボンドやマロリーにMI6を
任せるに足るか試したのです。
その結果2人は試練を乗り越えます。

とすればボンド=MI6であり
マロリー=MI6足り得るとわかったのです。
そうして結局のところMI6は生き永らえます。

Mが選んで彼らに引き継いだことだけが
正しかった、というわけです。

何だかハリー・ポッターに出てくる
分霊箱みたいなイメージですね。
MI6やその組織の気骨は
魂となってMやボンド、マロリーの
中で生きていました。
皮肉にもマロリーを演じたレイフ・ファインズは「ハリポタ」でヴォルデモートを演じます。

全く話がまとまっていませんが
初回なのでこれくらいで許して下さい。

次回は「カジノ・ロワイヤル」
特に論ずることはないのですが
シリーズぶっちぎりの傑作なので
レビューしてみたいです。