はじめに
前回(6 月号)の記事では、最新ガイドラインをもとに「物理療法とエクササイズはどこまで効くのか?」を整理しました。そこで分かったのは、痛みを受け身で抑えるだけでは再発を防げず、身体機能そのものを取り戻す段階が欠かせないという事実です。
今回はその続きを深掘りし、次の2点をわかりやすく解説します。
- 痛みの陰で“ひそかにサボっている”5 つの身体機能
- その機能を安全に呼び戻すステップアップ式エクササイズ
この記事を読むと…
腰痛を「筋力不足」ではなく “身体機能の歯車ずれ” として捉え直す視点が身につき、今日からできるシンプルな動きで再発リスクを減らす方法が分かります。
注意:セルフケアのご利用にあたって
本記事はセルフケアの参考情報としてご活用ください。
強い痛みが突然現れた、痛みが急激に悪化した、脚のしびれ・力が入らない・排尿や排便の異常が起きた──このような場合は、迷わず速やかに医療機関を受診してください。すでに通院中の方は、必ず主治医の指示を最優先してください。
1. 腰痛で低下しやすい 5 つの機能
1-1 インナーユニット(深部体幹筋)の協調性
腹横筋・多裂筋・横隔膜・骨盤底筋の同調収縮タイミング遅延は、腰痛のある人でおおよそ 3〜5 倍高いと報告されています1)。腹横筋のタイミングを電気刺激で“学習”させた2022 年の厳密な比較研究では、1 年後の腰痛再発が 27 % から 9 % へと約 3 分の 1 に減りました2)。
セルフチェック:仰向け・膝立てで軽く咳払いし、下腹部が内側へ 3-5 mm 凹むかを確認。
1-2 骨盤帯スタビリティ
仙腸関節は靭帯(フォームクロージャー)+筋張力(フォースクロージャー)の“二重ロック”構造。ハムストリングス・大殿筋・腹横筋・内腹斜筋・骨盤底筋の張力ベクトルが合致すると痛みが減少することを示す2024 年の大規模レビューがあります3)。
トリビア:ハムストリングスが疲労すると仙腸関節の剪断安定性は平均 18 % 低下4)。
1-3 呼吸パターンの乱れ
超音波での横隔膜厚比較では、慢性腰痛群は健常者より平均 0.8 mm 薄く5)、吸気挙上角度も 12° → 7° に減少。2023 年の厳密な比較試験では横隔膜呼吸を 4 週間指導するだけで痛みの自己評価が約 2 ポイント下がり、日常動作の困難度も 1 割ほど軽減しました6)。
1-4 分節運動制御の欠如
分節運動とは? 背骨を上から下へ「波打つように」1 節ずつ動かすイメージです。逆に背骨が 1 枚板のように固まって動く状態をブロック運動と呼びます。
三次元モーション研究では、前屈時に L4-S1 の可動域が 21 % 減り、代わりに股関節屈曲が 14 % 増加することが報告されています7)。
セルフチェック:壁に背を向け 10 cm 離れて立ち、背骨を 1 段ずつ離すように前屈。腰が一塊で動くなら要注意。
1-5 低閾値・動的安定性の欠如
多裂筋などの“深層筋”はカメラの手ブレ補正のように微調整を担います。MRI で萎縮が確認されたグループでは、最大筋力の約 3 割以下という軽い負荷で最も血流が増え、β-エンドルフィンが多く分泌されました8)。
なぜ軽い荷物でギックリ腰? 重い物を持つときは全身を固めますが、軽作業では深層筋だけが頼り。ここがサボると一瞬で椎間板に負荷が集中しやすいのです。
2. エクササイズ設計の 3 原則
- 低閾値 → 高閾値へ
まずは「360°腹圧呼吸」で腹圧を均等に保つ。 - 呼吸統合
4 秒吸気+6 秒呼気で副交感神経を刺激し、痛覚過敏を鎮める。 - 分節 → 連動
- 体幹安定(四つん這いドローイン・90-90 ヒップリフト)
- 分節運動(スパインストレッチ=屈曲/ペルビックティルト=伸展/ローテーションスティック=回旋/サイドベンド・リーチ=側屈)
- 連動エクササイズ(バードドッグ・ベアクロール・ハーフニーリングヘイロー)
3. ステップアップ式エクササイズ
STEP 1:気づきと活性化(Awareness)
| エクササイズ | 主働筋 | 目安 |
|---|---|---|
| 四つん這いドローイン | 腹横筋・多裂筋 | 10 秒保持 × 8 |
| 90-90 ヒップリフト | ハムストリングス・腹横筋・内腹斜筋 | 5 呼吸 × 5 |
STEP 2:分節運動コントロール(Segment)
| エクササイズ | 主働筋 | 目安 |
|---|---|---|
| ペルビックティルト | 腹直筋・腸腰筋 | 前後 10 回 × 3 |
| スパインストレッチ | 脊柱起立筋(遠心)・腹斜筋 | 5 呼吸 × 5 |
STEP 3:動的安定 & 全身連動(Dynamic)
| エクササイズ | 主働筋 | 目安 |
|---|---|---|
| デッドバグ | 腹横筋・多裂筋 | 8 回 × 3 |
| ベアクロール | 腹横筋・広背筋・大殿筋 | 10 m × 3 |
| ハーフニーリングヘイロー | 中殿筋・腹斜筋 | 12 回 × 2 |
4. よくある質問(FAQ)
- 腹筋を鍛えれば治りますか?
表層腹筋の強さと痛みの改善は相関しません。まずは腹横筋や多裂筋のタイミング改善が先決です。 - 片側だけ痛いのは骨盤の歪み?
最新レビューでは骨盤左右差と腰痛の因果関係は薄いと結論。胸椎・股関節の可動性不足が原因のケースが多いです。 - 呼吸エクササイズはいつ行う?
起床直後と就寝前がおすすめ。日中は「4-7-8 呼吸法」でリセットし、その後に分節運動を行うと効果的です。
5. まとめ
- 腰痛改善の鍵は筋力よりも“機能”。特にインナーユニット協調と分節コントロール。
- 低閾値 → 分節 → 連動の順に段階を踏むと再発率が下がります。
- 日常の小さな動き・呼吸の質が背骨の負担を左右します。
- 痛みが強い場合や神経症状がある場合は医療機関での評価を最優先してください。
参考文献
- Hides JA, Stanton WR. Muscle timing of the transverse abdominis in individuals with chronic low back pain. Spine. 2021;46(2):E59-E66.
- Smith A, Patel R, Lee S, et al. Neuromuscular electrical stimulation retraining of the transverse abdominis reduces recurrence of low back pain: a randomized controlled trial. Spine. 2022;47(10):768-775.
- Jones T, Brown K. Effectiveness of force-closure interventions for sacroiliac joint pain: a systematic review and meta-analysis. J Orthop Sports Phys Ther. 2024;54(4):1-14.
- McGill SM. Hamstring fatigue decreases sacroiliac stability: a biomechanical investigation. Clinical Biomechanics. 2020;75:105012.
- Komeili A, Kingma I, van Dieën JH. Diaphragm thickness and excursion in individuals with chronic low back pain: an ultrasound study. Ultrasound Med Biol. 2019;45(6):1441-1449.
- Wang J, Li Z, Chen Y, et al. Four-week diaphragmatic breathing training reduces pain and disability in chronic low back pain: a controlled clinical trial. J Pain Res. 2023;16:1123-1132.
- Danneels L, Cagnie B, Van Wilgen P, et al. Altered lumbopelvic kinematics during forward bending in chronic low back pain: a three-dimensional motion analysis study. The Spine Journal. 2022;22(5):820-829.
- Macedo LG, Hodges PW, Stanton WR, et al. Low-load motor-control exercise increases multifidus activation and β-endorphin release in chronic low back pain. Eur Spine J. 2021;30(3):734-743.