最強の四人、三番目のお爺さんは前後に比べると実はそれほど最強ではないと気づき、四番目のお爺さんの話をしたいと思う。
90にしては骨太で顔も声も大きい(耳悪いから)そのお爺さんは訪問初日、非常に機嫌が悪くあらゆる悪態を私と同行したチーフに浴びせた。マッサージごときで俺の脚の痛みが取れるのかとか、前に来ていたリハビリの先生を撃退した話とか・・・
とりあえず初回訪問を終えて家の外に出た時、チーフに言った。
「ごめん。自信無い
怒らせて終わっちゃう気がする・・・」
「まぁそう言わないで。通えるだけ頑張ってみてよ」
二度目の訪問時、私自身のことを聞かれた。独身で子供は好きじゃないんだと言うとお爺さんは凄く驚いて、子供がキライな女がいるなんて!と逆に私に興味を持ったようだった。マッサージが終わって帰ろうとすると
「あのなぁ、コーヒーを・・・」
「私はいらないわ。喉乾いてないし」
「コーヒーを淹れてくんない?」
は!?いきなり拍子抜けしたけどちょっと可笑しかった。キッチンに二人で移動してインスタントのコーヒーを淹れて飲んだ。後日お爺さんのケアマネから週に一度だった訪問を二日にしてほしいと連絡があった。
チーフはまぁ怒られないで良かったじゃないの、とご満悦だった。しかし・・・それでは終わらなかった。
そのお爺さん(以降ヨッさん)の人生はバラエティに富んでおり、バツイチで会社の経営、音楽活動、カフェや雀荘の雇われオーナーなどいろんなことを体験していた。熱心に聴く私を気に入ってくれてファーストネームで呼ばれるまでになった。しかし親しくなると老人特有のエロい馴れ馴れしさが出現する。ある日のこと。ヨッさんは私を見て言った。
「あんたはまだ『赤』があるのか?」
何だ?赤って?赤紙?召集令状??
何よそれ?と聞くと、女のアレだよ。
生理かい!!!!!!
ムッとしてあるもん、と言うといやー、まだ子供産めんのかぁ。大したもんだなぁ。だって。何だよそれ。
私も聞いちゃおうっと。ヨッさん、警察のお世話になったことある?と聞くとあるんだそうだ。二回も!
初めは、当時の仕事先のお客さんからヌードの写真を貰ってその日にそれが入ったバッグごと電車の網棚に忘れたそうで、幸か不幸か本人の名刺が入っていたため会社に連絡が入り指定の警察署まで取りに行くことになった。忘れ物が本人の物か一つずつ確認されたって!
「じゃあさ、財布1、鍵1、とかやってヌード写真何枚とか確認させられたわけ?ちなみに何枚持ってたの?」
「40枚くらい」
バッグ紛失したままの方がよかったね・・・で、二回目は?
ヨッさんが知り合いに誘われるまま雀荘に遊びに行った時。本人は知らなかったのだが実はそこは違法賭博の雀荘だったらしく、遊び始めて数時間後にいきなり大勢の警察官が部屋になだれ込んできて訳が分からないまま連行されることに!連行方法は今じゃ考えられないことだがトラックの荷台に詰め込まれたんだそうだ。手錠がはめられていなかったため飛び降りて脱出した人もいたがヨッさんは怪我をしたくなかったためおとなしく連行されていった。
留置場の中はいろんな人がいて、隣に座った男に何をしたんだと聞くと強盗と殺人未遂でどうやったのかを嬉しそうに話してくれた。ヨッさんも男に同じ質問をされ、違法賭博所に偶然居合わせた話をすると賭博なんてダメじゃないかと説教をされたそうだ。
警察沙汰にはならなかったけど他にもあったなぁ、とヨッさんは遠くを見た。
幼いころ、田舎の山奥で育った彼は友達と野球をして遊ぶのが日課であった。ある日暮れ時、薄暗い畑の中をチャリで走行中、積んである藁の山のそばに大根が落ちていた。あれ踏んでいこうぜ!とみんなでそこを目指して全力疾走し、その大根を前輪で踏んづけたその時、大根がものすごい悲鳴を上げた、というのだ。
「え?どういうこと??」
「それが大根じゃなくて人間の足だったんだな。昔は若い奴らがいちゃつける場所がなかったから海でも山でも人目がない物陰でみんないやらしいことしてたんだよ。俺は二番目に踏んだんだけどありゃー男の足だったんだ。今思うと気の毒なことしたなぁ」
マッサージ中にベッドから落ちるくらい笑った。ちなみに踏んだのは足首のあたりだったらしい。
その人は病院で怪我の理由をどう説明したんだろうか?
