16年暮らした愛犬が旅立った。

あの子を最初に見た時、小さくて耳だけピンと立っていて、某大人気漫画・アニメの主人公の髪型のようだったので、名前の由来にした。

緊張からか何も口にせず、鳴かず吠えず。

とても心配したけど私が寝る時に寝室に連れて行くと布団に入りたがり腕枕の要求までした。

かわいいな、と思うけれど一時預かりの予定だったので思いついた名前ではなく『わんちゃん』と呼んでいた。

1週間経つ頃、引き取り手がいないとなり、犬が苦手だった祖母もあまりの犬の小ささに『うちで飼ったら?』と哀れんだ。

やった!やっとあの名前で呼べる!!
嬉しくてついに口に出して呼んだその名を、それから16年も呼べた。

最初こそ車に乗せると鼻を鳴らして所在なさげに鳴くものだから、車酔いかと心配した。

慣れるとドライブ大好きなことが分かり、車の振動はあの子のゆりかごとなった。

小型犬にあるまじきいびきをかきながら。

色んな所へ出かけたね。

美味しいソフトクリームは匂いですぐ分かるようで、ちょうだいちょうだいの圧がすごい。

テーブルの端に置いたティッシュペーパーをサッと咥えて、おやつとの交換要求。

おいものガム、おっとっと、ささみチップスは切らさないように。

フードを食べ過ぎてたまにげぼしたね。ごめん!


去年の5月。気になる痙攣が出て、7月には大きな発作。

そこからは発作が出なければ食欲もあるし走り回るし、ね。

お薬苦かったね、ちゅ〜るとかアイスに混ぜて、時には寝ているところを起こして、よく飲んでくれたね。


クリスマスに、わんこ用ピザとケーキ、覚えてる?人間も食べられたから、一緒に食べて美味しかったな〜。

来年も食べようねって約束したね。


発作の後、歩き回る君の姿。

顎の下から飲んだお水がぽとっと落ちた、その跡が今でもたくさん廊下に付いてる。

頑張ったね。本当によく頑張った。

旅立つまでの1ヶ月は、やっぱりまだ文字に出来ない。

遠い昔のことにも思えるし、もっとずうっと長かったようにも思えるよ。


私が悩みすぎることのないよう、準備する時間をくれたのかな、ありがとう。


昨日、久しぶりにちょっと遠出したけど、家を出る時に冷房を切って出かけることが新鮮だったよ。

お風呂上がり、足に付いた水滴をもう舐めに来ないこと。

いい香りが立ちこめても台所のそばまで来ていないこと。

え?今鳴いた??と思っても、完全なる空耳なこと。

夜中の服薬に起きなくていいこと。

でもその時間に目が覚めて、ふと横を見るけどいないこと。

朝になって、やっぱり横を確認するけどいないこと。



全部全部、慣れない。まだ慣れていない。


あんなに一緒にいたからさ。

でも、そうだね、もうずっと、何があっても離れることのない場所に行ったんだね。

姿が見えないだけで、いるね。

ありがとね、うちに来てくれて。


どんな姿でもいい、また私の所に来てね。


おやすみ、私のかわいい子。