ローズ
あの日から・・・・そう、長い、いや時ではなく遠い記憶みたいに振り返ると霞んで見える、現実さえも。
もう此処にいてもしょうがない気持ちに押されるようにあの日この山荘に戻った。それから5日後あの地震に合った。
それは体験した事がない揺れだった。
ローズとケイトの目があった、とっさに逃げようと叫び車を出し走った。その間揺れていた、数分間だろう、道路沿いの電線はまるでひものようにねじれながら跳ねていた。
何処に向けて走らせたのか、ただアクセルを踏んでいた、止まらないように。
そうだ、雪が積もっていた、そして四日間ローソクの灯火で過ごした、とても静寂な世界。今思うと心が望んでいた時だった。
冷たい静けさの中に小さく灯すローソクの灯り、ときおり地鳴りを伴う余震、恐怖ではなくクリアーな意識だった、まるで氷が割れるのをじっと待つような感覚。
そして戻った、情報の世界へ。
5日ぶりで知った。テレビで津波を知り多くの人が亡くなり被災した事を。
街にはガソリンがなくなり、食料も売っていない。
この山荘も床がひび割れた、そしてボイラーが壊れ配管がどこかではずれたみたいでお湯がでない。
この時期に感じた事は、人のこころが触れない、他人への気持ちはないように感じた。
そう誰も助けてくれない・・・・声もかけてくれなかった。
やはり信じては、依存してはいけない、どんな時も・・・・・またこころの奥の扉から声がした。
そうして二ヵ月後湘南に戻った。
何事もなかったように時が支配し動かしている。
放射能汚染もまるで時を刻むかのように気にしてないように。
いつもの海辺にに行った・・・・・でも、なぜか違う。
なんだろう、喜びが消えている。
漠然たる不安の意味を知るために山荘に戻った。
今の季節アカシアの花が満開だ、とても美しい。
でも、いつもなら蜂が蜜を吸いに集まるのに見えない。
そう、なんでもない、何時も通り、平常だよ。
気にしすぎ、大丈夫だよ・・・・・。
いや、違った、こころの奥の漠然たる不安をみてしまった。
おおそらく私自身が一番恐れている事を夢という形で見たのだろう。
夢とはいえ怖かった。地獄があるのならこれがそうだと思った。
薄暗い世界。誰もが同じ方向を目指して歩いている、でも道らしい道はなく下水道や油が浮いた地面を目をギラギラさせ口を閉ざしたまま進んでいる。廃液だらけの壁を上れず立ち止まる人を押しのける人。それらを管理する人に脅える女性、そして媚びる人、その瞳は恐怖しかなかった。
目が覚めてしばらく呆然とした。
いつも夢の記憶はなくなるのに、なぜかリアルに残った。
地獄があるならその夢の世界はまさしく地獄。それは人が人を貶める社会、偽り、在りし日の文化大革命、人民裁判など人間本来の姿は生きれない社会だった。
今現在進行中である放射能汚染、気づかぬうちに病んでいく。
どうか人間の心も病まぬように、こころに頑張れ。