私は知り合いと、昼間、お芝居を見にいったときのことである。最初はおなかはすいていなかったのに、時がたつにつれ
て、腹の虫がもぞもぞと動きだしてしまい、体内から「クークー」と小さな音を発し始めたのだ。この音が大きくなっていくの
は時間の問題 であった。私は目の前のお芝居 の展開よりも、腹の虫のほうが気になり、
(こんなことになるんだったら、やっぱりお昼はサンドウイッチじゃなくて、カツ丼にしておけばよかった???)
などとつまらない後悔 までしてしまった。
ほんの小さな音だったのが、だんだん大きな音となって体内に響いてくる。
(どうしよう、どうしょう)
周囲 に人はまだ私の腹の虫には気がついていないようであった。私はどうしたら音をごまかせるか、そればかりを考えて
いた。必要もないのにディッシュペーパーが入っているビニール袋をくしゃくしゃと音がするように握りしめたり、コホコホと
小さく咳払いをしたりした。腹の中 にはいかにも大きな音をたてそうな虫が動く気配があった。